風の又三郎 2

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九月一日 谷川の岸の小学校
宮沢賢治 作 全文

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問題文

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(「ああわかった。あいつはかぜのまたさぶろうだぞ。」)

「ああわかった。あいつは風の又三郎だぞ。」

(そうだっとみんなもおもったとき、にわかにうしろのほうでごろうが、)

そうだっとみんなもおもったとき、にわかにうしろの方で五郎が、

(「わあ、いたいじゃあ。」とさけびました。)

「わあ、痛いじゃあ。」と叫びました。

(みんなそっちへふりむきますと、ごろうがこうすけにあしのゆびをふまれて、)

みんなそっちへ振り向きますと、五郎が耕助に足のゆびをふまれて、

(まるでおこって、こうすけをなぐりつけていたのです。)

まるで怒って、耕助をなぐりつけていたのです。

(するとこうすけもおこって、)

すると耕助も怒って、

(「わあ、われわるくてでひとはだいだなあ。」といって、)

「わあ、われ悪くてでひと撲(はだ)いだなあ。」といって、

(またごろうをなぐろうとしました。)

また五郎をなぐろうとしました。

(ごろうはまるでかおじゅうなみだだらけにして、こうすけにくみつこうとしました。)

五郎はまるで顔中涙だらけにして、耕助に組みつこうとしました。

(そこでいちろうがあいだへはいって、かすけがこうすけをおさえてしまいました。)

そこで一郎が間へはいって、嘉助が耕助を押えてしまいました。

(「わあい、けんかするなったら、せんせいぁちゃんとしょくいんしつにきてらぞ。」)

「わあい、喧嘩するなったら、先生ぁちゃんと職員室にきてらぞ。」

(といちろうがいいながら、またきょうしつのほうをみましたら、)

と一郎がいいながら、また教室の方を見ましたら、

(いちろうはにわかにまるでぽかんとしてしまいました。)

一郎はにわかにまるでぽかんとしてしまいました。

(たったいままできょうしつにいたあのへんなこが、かげもかたちもないのです。)

たったいままで教室にいたあの変な子が、影もかたちもないのです。

(みんなもまるでせっかくともだちになったこうまが、とおくへやられたよう、)

みんなもまるでせっかく友達になった子うまが、遠くへやられたよう、

(せっかくつかまったやまがらに、にげられたようにおもいました。)

せっかく捕ったヤマガラに、にげられたように思いました。

(かぜがまたどうとふいてきて、まどがらすをがたがたいわせ、)

風がまたどうと吹いてきて、窓ガラスをがたがたいわせ、

(うしろのやまのかやを、だんだんじょうりゅうのほうへあおじろくなみだてていきました。)

うしろの山のかやを、だんだん上流の方へ青じろく波だてて行きました。

(「わあうなだけんかしたんだがら、またさぶろういなぐなったな。」)

「わあうなだ喧嘩したんだがら、又三郎いなぐなったな。」

(かすけがおこっていいました。)

嘉助が怒っていいました。

など

(みんなもほんとうにそうおもいました。)

みんなもほんとうにそう思いました。

(ごろうはじつにもうしわけないとおもって、あしのいたいのもわすれて、)

五郎はじつに申しわけないと思って、足の痛いのも忘れて、

(しょんぼりかたをすぼめてたったのです。)

しょんぼり肩をすぼめて立ったのです。

(「やっぱりあいつはかぜのまたさぶろうだったな。」)

「やっぱりあいつは風の又三郎だったな。」

(「にひゃくとうかできたのだな。」)

「二百十日で来たのだな。」

(「くつはいでだたぞ。」)

「靴はいでだたぞ。」

(「ふくもきでだたぞ。」)

「服も着でだたぞ。」

(「かみあかくておがしやづだったな。」)

「髪赤くておがしやづだったな。」

(「ありやありや、またさぶろうおれのつくえのうえさいしかげのせでったぞ。」)

「ありやありや、又三郎おれの机の上さ石かげのせでったぞ。」

(にねんせいのこがいいました。)

二年生の子がいいました。

(みるとそのこのつくえのうえには、きたないいしかけがのっていたのです。)

見るとその子の机の上には、汚ない石かけがのっていたのです。

(「そうだ。ありゃ。あそごのがらすもぶっかしたぞ。」)

「そうだ。ありゃ。あそごのガラスもぶっかしたぞ。」

(「そだなぃでぁ。あいづぁやすみまえにかすけ、いしぶっつけだのだな。」)

「そだなぃでぁ。あいづぁ休み前に嘉助、石ぶっつけだのだな。」

(「わあい。そだなぃでぁ。」)

「わあい。そだなぃでぁ。」

(といっていたとき、これはまたなんというわけでしょう。)

といっていたとき、これはまた何というわけでしょう。

(せんせいがげんかんからでてきたのです。)

先生が玄関から出て来たのです。

(せんせいはぴかぴかひかるよびこをみぎてにもって、)

先生はぴかぴか光る呼子を右手にもって、

(もうあつまれのしたくをしているのでしたが、)

もう集まれのしたくをしているのでしたが、

(そのすぐうしろから、さっきのあかいかみのこが、)

そのすぐうしろから、さっきの赤い髪の子が、

(まるでごんげんさまのおっぱもちのように、すましこんでしろいしゃっぽをかぶって、)

まるで権現さまの尾っぱ持ちのように、すまし込んで白いシャッポをかぶって、

(せんせいについて、すぱすぱとあるいてきたのです。)

先生について、すぱすぱとあるいて来たのです。

(みんなはしいんとなってしまいました。やっといちろうが、)

みんなはしいんとなってしまいました。やっと一郎が、

(「せんせいおはようございます。」といいましたので、みんなもついて、)

「先生お早うございます。」といいましたので、みんなもついて、

(「せんせいおはようございます。」といっただけでした。)

「先生お早うございます。」といっただけでした。

(「みなさん。おはよう。どなたもげんきですね。ではならんで。」)

「みなさん。お早う。どなたも元気ですね。では並んで。」

(せんせいはよびこをびるるとふきました。それはすぐたにのむこうのやまへひびいて、)

先生は呼子をビルルと吹きました。それはすぐ谷の向うの山へひびいて、

(またぴるるるとひくくもどってきました。)

またピルルルと低く戻ってきました。

(すっかりやすみのまえのとおりだと、みんながおもいながら、)

すっかりやすみの前の通りだと、みんなが思いながら、

(ろくねんせいはひとり、ごねんせいはひちにん、よねんせいはろくにん、いち、にねんせいはじゅうににん、)

六年生はひとり、五年生は七人、四年生は六人、一、二年生は十二人、

(くみごとにいちれつにたてにならびました。)

組ごとに一列に縦にならびました。

(にねんせいははちにん、いちねんせいはよにん、まえへならえをしてならんだのです。)

二年生は八人、一年生は四人、前へならえをしてならんだのです。

(するとそのあいだ、あのおかしなこはなにかおかしいのかおもしろいのか、)

するとそのあいだ、あのおかしな子は何かおかしいのかおもしろいのか、

(おくばでよこっちょにしたをかむようにして、)

奥歯で横っちょに舌を噛むようにして、

(じろじろみんなをみながら、せんせいのうしろにたっていたのです。)

じろじろみんなを見ながら、先生のうしろに立っていたのです。

(するとせんせいは、たかださんこっちへおはいりなさい、といいながら、)

すると先生は、高田さんこっちへおはいりなさい、といいながら、

(よねんせいのれつのところへつれていって、たけをかすけとくらべてから、)

四年生の列のところへ連れて行って、丈を嘉助とくらべてから、

(かすけとそのうしろのきよのあいだへたたせました。)

嘉助とそのうしろのきよの間へ立たせました。

(みんなはふりかえって、じっとそれをみていました。)

みんなはふりかえって、じっとそれを見ていました。

(せんせいはまたげんかんのまえにもどって)

先生はまた玄関の前に戻って

(「まえへならえ。」とごうれいをかけました。)

「前へならえ。」と号令をかけました。

(みんなはもういっぺんまえへならえをして、すっかりれつをつくりましたが、)

みんなはもう一ぺん前へならえをして、すっかり列をつくりましたが、

(じつはあのへんなこが、どういうふうにしているのかみたくて、)

じつはあの変な子が、どういう風にしているのか見たくて、

(かわるがわるそっちをふりむいたり、よこめでにらんだりしたのでした。)

かわるがわるそっちをふりむいたり、横眼でにらんだりしたのでした。

(するとそのこは、ちゃんとまえへならえでもなんでもしってるらしく、)

するとその子は、ちゃんと前へならえでもなんでも知ってるらしく、

(へいきでりょううでをまえへだして、ゆびさきをかすけのせなかへ、)

平気で両腕を前へ出して、指さきを嘉助のせなかへ、

(やっととどくくらいにしていたものですから、)

やっと届くくらいにしていたものですから、

(かすけはなんだかせなかがかゆいかくすぐったいかというふうに、)

嘉助は何だかせなかがかゆいかくすぐったいかという風に、

(もじもじしていました。)

もじもじしていました。

(「なおれ。」せんせいがまたごうれいをかけました。)

「直れ。」先生がまた号令をかけました。

(「いちねんからじゅんにまえへおい。」)

「一年から順に前へおい。」

(そこでいちねんせいはあるきだし、まもなくにねんせいもあるきだして、)

そこで一年生はあるき出し、まもなく二年生もあるき出して、

(みんなのまえをぐるっととおって、みぎてのげたばこのあるいりぐちにはいっていきました。)

みんなの前をぐるっと通って、右手の下駄箱のある入口に入って行きました。

(よねんせいがあるきだすと、さっきのこもかすけのあとへついて、)

四年生があるき出すと、さっきの子も嘉助のあとへついて、

(おおいばりであるいていきました。)

大いばりであるいて行きました。

(まえへいったこも、ときどきふりかえってみ、)

前へ行った子も、ときどきふりかえって見、

(あとのものもじっとみていたのです。)

あとのものもじっと見ていたのです。

(まもなくみんなは、はきものをげたばこにいれてきょうしつへはいって、)

まもなくみんなは、はきものを下駄箱に入れて教室へ入って、

(ちょうどそとへならんだときのように、くみごとにいちれつにつくえにすわりました。)

ちょうど外へならんだときのように、組ごとに一列に机に座りました。

(さっきのこも、すましこんでかすけのうしろにすわりました。)

さっきの子も、すまし込んで嘉助のうしろに座りました。

(ところがもうおおさわぎです。)

ところがもう大さわぎです。

(「わあ、おらのつくえさかわってるぞ。」)

「わあ、おらの机さかわってるぞ。」

(「わあ、おらのつくえさいしかけはいってるぞ。」)

「わあ、おらの机さ石かけ入ってるぞ。」

(「きっこ、きっこ、うなつうしんぼもってきたが。おらわすれてきたじゃあ。」)

「キッコ、キッコ、うな通信簿持って来たが。おら忘れて来たじゃあ。」

(「わあい、さの、きぺんかせ、きぺんかせったら。」)

「わあい、さの、木ぺん借せ、木ぺん借せったら。」

(「わぁがない。ひとのざっきちょうとってって。」)

「わぁがない。ひとの雑記帳とってって。」

(そのときせんせいがはいってきましたので、)

そのとき先生が入ってきましたので、

(みんなもさわぎながらとにかくたちあがり、いちろうがいちばんうしろで)

みんなもさわぎながらとにかく立ちあがり、一郎がいちばんうしろで

(「れい。」といいました。)

「礼。」といいました。

(みんなはおじぎをするあいだは、ちょっとしんとなりましたが、)

みんなはおじぎをする間は、ちょっとしんとなりましたが、

(それからまた、がやがやがやがやいいました。)

それからまた、がやがやがやがやいいました。

(「しずかに、みなさん。しずかにするのです。」せんせいがいいました。)

「しずかに、みなさん。しずかにするのです。」先生がいいました。

(「しっ、えつじ、やがましったら。かすけぇ、きっこぅ。わあい。」)

「しっ、悦治、やがましったら。嘉助ぇ、喜っこぅ。わあい。」

(といちろうがいちばんうしろから、あまりさわぐものをひとりづつしかりました。)

と一郎が一番うしろから、あまりさわぐものを一人づつしかりました。

(みんなはしんとなりました。せんせいがいいました。)

みんなはしんとなりました。先生がいいました。

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