風の又三郎 18

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プレイ回数597順位2437位  難易度(4.1) 4095打 長文
九月八日 鬼っこ
宮沢賢治 作 全文
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 ばばあ 3280 D 3.4 95.0% 1184.0 4095 211 90 2024/11/02

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問題文

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(「する、する。」みんなはさけんで、)

「する、する。」みんなは叫んで、

(じゃんけんをするために、みずのなかからてをだしました。)

じゃんけんをするために、水の中から手を出しました。

(およいでいたものは、いそいでせいのたつところまでいっててをだしました。)

泳いでいたものは、急いでせいの立つところまで行って手を出しました。

(いちろうもかわらからきててをだしました。)

一郎も河原から来て手を出しました。

(そしていちろうははじめに、きのうあのへんなはなのとがったひとのあがっていったがけのしたの、)

そして一郎ははじめに、昨日あの変な鼻の尖った人の上って行った崖の下の、

(あおいぬるぬるしたねんどのところを、ねっこにきめました。)

青いぬるぬるした粘土のところを、根っこにきめました。

(そこにとりついていれば、おにはおさえることができないというのでした。)

そこに取りついていれば、鬼は押えることができないというのでした。

(それから、はさみなしのひとりまけかちで、じゃんけんをしました。)

それから、はさみ無しの一人まけかちで、じゃんけんをしました。

(ところがえつじは、ひとりはさみをだしたので、)

ところが悦治は、ひとりはさみを出したので、

(みんなにうんとはやされたほかにおにになった。)

みんなにうんとはやされたほかに鬼になった。

(えつじはくちびるをむらさきいろにしてかわらをはしって、きさくをおさえたので、)

悦治は唇を紫いろにして河原を走って、喜作を押えたので、

(おにはふたりになりました。)

鬼は二人になりました。

(それからみんなは、すなっぱのうえやふちを、あっちへいったりこっちへきたり、)

それからみんなは、砂っぱの上や淵を、あっちへ行ったりこっちへ来たり、

(おさえたりおさえられたり、なんべんもおにっこをしました。)

押えたり押えられたり、何べんも鬼っこをしました。

(しまいにとうとうまたさぶろうひとりがおにになりました。)

しまいにとうとう又三郎一人が鬼になりました。

(またさぶろうはまもなくきちろうをつかまえました。)

又三郎はまもなく吉郎(キチロウ)をつかまえました。

(みんなは、さいかちのきのしたにいてそれをみていました。)

みんなは、さいかちの木の下に居てそれを見ていました。

(するとまたさぶろうが、)

すると又三郎が、

(「きちろうくん、きみはかみからおってくるんだよ。いいか。」)

「吉郎君、きみは上流(カミ)から追って来るんだよ。いいか。」

(といいながら、じぶんはだまってたってみていました。)

といいながら、じぶんはだまって立って見ていました。

など

(きちろうはくちをあいててをひろげて、かみからねんどのうえをおってきました。)

吉郎は口をあいて手をひろげて、上流から粘土の上を追って来ました。

(みんなはふちへとびこむしたくをしました。)

みんなは淵へ飛び込む仕度をしました。

(いちろうはやなぎのきにのぼりました。)

一郎は楊の木にのぼりました。

(そのとききちろうが、あのかみのねんどがあしについていたために、)

そのとき吉郎が、あの上流の粘土が足についていたために、

(みんなのまえですべってころんでしまいました。)

みんなの前ですべってころんでしまいました。

(みんなは、わあわあさけんで、きちろうをはねこえたり、みずにはいったりして、)

みんなは、わあわあ叫んで、吉郎をはねこえたり、水に入ったりして、

(かみのあおいねんどのねにあがってしまいました。)

上流の青い粘土の根に上ってしまいました。

(「またさぶろう、こ。」かすけはたってくちをおおきくあいて、)

「又三郎、来(コ)。」嘉助は立って口を大きくあいて、

(てをひろげてまたさぶろうをばかにしました。)

手をひろげて又三郎をばかにしました。

(するとまたさぶろうはさっきからよっぽどおこっていたとみえて、)

すると又三郎はさっきからよっぽど怒っていたと見えて、

(「ようし、みていろよ。」といいながらほんきになって、)

「ようし、見ていろよ。」といいながら本気になって、

(ざぶんとみずにとびこんで、いっしょうけんめい、そっちのほうへおよいでいきました。)

ざぶんと水に飛び込んで、一生けん命、そっちの方へ泳いで行きました。

(またさぶろうのかみのけがあかくて、ばしゃばしゃしているのに、)

又三郎の髪の毛が赤くて、ばしゃばしゃしているのに、

(あんまりながくみずにつかって、くちびるもすこしむらさきいろなので、)

あんまり永く水につかって、唇もすこし紫いろなので、

(こどもらはすっかりこわがってしまいました。)

子どもらはすっかり恐がってしまいました。

(だいいち、そのねんどのところはせまくて、みんながはいれなかったのに、)

第一、その粘土のところはせまくて、みんながはいれなかったのに、

(それにたいへんつるつるすべるさかになっていましたから、)

それに大へんつるつるすべる坂になっていましたから、

(したのほうのしごにんなどは、うえのひとにつかまるようにして、)

下の方の四五人などは、上の人につかまるようにして、

(やっとかわへすべりおちるのをふせいでいたのでした。)

やっと川へすべり落ちるのをふせいでいたのでした。

(いちろうだけが、いちばんうえでおちついて、)

一郎だけが、いちばん上で落ち着いて、

(さあみんな、とかなんとかそうだんらしいことをはじめました。)

さあみんな、とか何とか相談らしいことをはじめました。

(みんなもそこであたまをあつめてきいています。)

みんなもそこで頭をあつめて聞いています。

(またさぶろうはぼちゃぼちゃ、もうちかくまでいきました。)

又三郎はぼちゃぼちゃ、もう近くまで行きました。

(みんなはひそひそはなしています。)

みんなはひそひそはなしています。

(するとまたさぶろうは、いきなりりょうてでみんなへみずをかけだした。)

すると又三郎は、いきなり両手でみんなへ水をかけ出した。

(みんなが、ばたばたふせいでいましたら、だんだんねんどがすべってきて、)

みんなが、ばたばた防いでいましたら、だんだん粘土がすべって来て、

(なんだかすこうししたへずれたようになりました。)

なんだかすこうし下へずれたようになりました。

(またさぶろうはよろこんで、いよいよみずをはねとばしました。)

又三郎はよろこんで、いよいよ水をはねとばしました。

(すると、みんなはぼちゃんぼちゃんといちどにみずにすべっておちました。)

すると、みんなはぼちゃんぼちゃんと一度に水にすべって落ちました。

(またさぶろうはそれをかたっぱしからつかまえました。)

又三郎はそれを片っぱしからつかまえました。

(いちろうもつかまりました。)

一郎もつかまりました。

(かすけがひとり、うえをまわっておよいでにげましたら、)

嘉助がひとり、上をまわって泳いで遁げましたら、

(またさぶろうはすぐにおいついておさえたほかに、)

又三郎はすぐに追い付いて押えたほかに、

(うでをつかんでしごへんぐるぐるひっぱりまわしました。)

腕をつかんで四五へんぐるぐる引っぱりまわしました。

(かすけはみずをのんだとみえて、きりをふいてごほごほむせて、)

嘉助は水をのんだと見えて、霧をふいてごほごほむせて、

(「おいらもうやめた。こんなおにっこもうしない。」といいました。)

「おいらもうやめた。こんな鬼っこもうしない。」といいました。

(ちいさなこどもらはみんなじゃりにあがってしまいました。)

小さな子どもらはみんな砂利に上ってしまいました。

(またさぶろうはひとり、さいかちのきのしたにたちました。)

又三郎はひとり、さいかちの樹の下に立ちました。

(ところが、そのときはもうそらがいっぱいのくろいくもで、)

ところが、そのときはもうそらがいっぱいの黒い雲で、

(やなぎもへんにしろっぽくなり、やまのくさはしんしんとくらくなり、)

楊も変に白っぽくなり、山の草はしんしんとくらくなり、

(そこらはなんともいわれない、おそろしいけしきにかわっていました。)

そこらは何ともいわれない、恐ろしい景色にかわっていました。

(そのうちに、いきなりうえののはらのあたりで、)

そのうちに、いきなり上の野原のあたりで、

(ごろごろごろとかみなりがなりだしました。)

ごろごろごろと雷が鳴り出しました。

(とおもうと、まるでやまつなみのようなおとがして、)

と思うと、まるで山つなみのような音がして、

(いっぺんにゆうだちがやってきました。)

一ぺんに夕立がやって来ました。

(かぜまでひゅうひゅうふきだしました。)

風までひゅうひゅう吹きだしました。

(ふちのみずには、おおきなぶちぶちがたくさんできて、)

淵の水には、大きなぶちぶちがたくさんできて、

(みずだかいしだかわからなくなってしまいました。)

水だか石だかわからなくなってしまいました。

(みんなはかわらからきものをかかえて、ねむのきのしたへにげこみました。)

みんなは河原から着物をかかえて、ねむの木の下へ遁げこみました。

(するとまたさぶろうもなんだかはじめてこわくなったとみえて、)

すると又三郎も何だかはじめて怖くなったと見えて、

(さいかちのきのしたからどぼんとみずへはいって、)

さいかちの木の下からどぼんと水へはいって、

(みんなのほうへおよぎだしました。)

みんなの方へ泳ぎだしました。

(すると、だれともなく、)

すると、誰ともなく、

(「あめはざっこざっこあめさぶろう、)

「雨はざっこざっこ雨三郎、

(かぜはどっこどっこまたさぶろう。」)

風はどっこどっこ又三郎。」

(とさけんだものがありました。みんなもすぐこえをそろえてさけびました。)

と叫んだものがありました。みんなもすぐ声をそろえて叫びました。

(「あめはざっこざっこあめさぶろう、)

「雨はざっこざっこ雨三郎、

(かぜはどっこどっこまたさぶろう。」)

風はどっこどっこ又三郎。」

(するとまたさぶろうはまるであわてて、)

すると又三郎はまるであわてて、

(なにかにあしをひっぱられるようにふちからとびあがって、)

何かに足をひっぱられるように淵からとびあがって、

(いちもくさんにみんなのところにはしってきて、がたがたふるえながら、)

一目散にみんなのところに走って来て、がたがたふるえながら、

(「いまさけんだのはおまえらだちかい。」とききました。)

「いま叫んだのはおまえらだちかい。」とききました。

(「そでない、そでない。」みんなはいっしょにさけびました。)

「そでない、そでない。」みんなは一しょに叫びました。

(ぺきちがまたひとりでてきて、)

ぺ吉がまた一人出て来て、

(「そでない。」といいました。)

「そでない。」といいました。

(またさぶろうはきみわるそうにかわのほうをみましたが、)

又三郎は気味悪そうに川のほうを見ましたが、

(いろのあせたくちびるを、いつものようにきっとかんで、)

色のあせた唇を、いつものようにきっと噛んで、

(「なんだい。」といいましたが、)

「何だい。」といいましたが、

(からだはやはり、がくがくふるっていました。)

からだはやはり、がくがくふるっていました。

(そしてみんなは、あめのはれまをまって、めいめいのうちへかえったのです。)

そしてみんなは、雨のはれ間を待って、めいめいのうちへ帰ったのです。

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