だしの取り方 北大路魯山人 ②

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陶芸、書、料理などで才能を発揮した北大路魯山人の随筆。

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問題文

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(かんなをもってないひとがいたら、ここでいちふんきして、)

鉋を持ってないひとがいたら、ここで一奮起して、

(だいくのしようしているかんなをこうにゅうするようおすすめしたい。)

大工の使用している鉋を購入するようお勧めしたい。

(だいくのかんなひとつかうことは、ねだんからいってもこうかではないし、)

大工の鉋一つ買うことは、値段からいっても高価ではないし、

(しょうがいなくなるものでもないのだから、ふけいざいにはならない。)

生涯なくなるものでもないのだから、不経済にはならない。

(ようはとげないとあたまからきめてかからずに、)

要は研げないと頭からきめてかからずに、

(いんちきかんなのしようをいっこくもはやくやめるひつようがあろう。)

インチキ鉋の使用を一刻も早くやめる必要があろう。

(さてこんぶだしのことは、とうきょうではいちりゅうのりょうりやいがいはあまりしらないようだ。)

さて昆布だしのことは、東京では一流の料理屋以外はあまり知らないようだ。

(これは、とうきょうにはこんぶをつかうというしゅうかんがむかしからなかったからだろう。)

これは、東京には昆布を使うという習慣が昔からなかったからだろう。

(こんぶのだしはじつにけっこうなものであって、)

昆布のだしは実に結構なものであって、

(さかなのりょうりにはこんぶだしにかぎる。)

魚の料理には昆布だしにかぎる。

(かつおぶしのだしではさかなのあじがふたつかさなるので、)

かつおぶしのだしでは魚の味が二つ重なるので、

(どうしてもぐあいのわるいものができる。)

どうしても具合の悪いものが出来る。

(あじのだぶるということはくどいのである。)

味のダブルということはくどいのである。

(こんぶをだしにつかうほうほうは、こらいきょうとでかんがえられた。)

昆布をだしに使う方法は、古来京都で考えられた。

(しゅうちのごとく、きょうとはせんねんもつづいたみやこであったから、)

周知のごとく、京都は千年も続いた都であったから、

(じっさいじょうのひつようにせまられて、ほっかいどうでさんしゅつされるこんぶを、)

実際上の必要に迫られて、北海道で産出される昆布を、

(はるかなきょうとというやまのなかで、)

はるかな京都という山の中で、

(こんぶだしをとるまでにはったつさせたのである。)

昆布だしを取るまでに発達させたのである。

(こんぶのだしをとるには、)

昆布のだしを取るには、

(まずこんぶをみずでぬらしただけでいち、にふんほどまをおき、)

まず昆布を水でぬらしただけで一、二分ほど間をおき、

など

(ひょうめんがほとびたかんじがでたとき、すいどうのみずでじゃーっとやらずに、)

表面がほとびた感じが出た時、水道の水でジャーッとやらずに、

(とろとろとでるくらいにこんぶにうけながら、)

トロトロと出るくらいに昆布に受けながら、

(ゆびさきできようにいたわって、だましだましひょうめんのすなやごみをおとし、)

指先で器用にいたわって、だましだまし表面の砂やゴミを落とし、

(そのこんぶをねっとうのなかへさっととおす。それでいいのだ。)

その昆布を熱湯の中へサッと通す。それでいいのだ。

(これではだしがでたかどうか、しんぱいなさるかもしれない。)

これではだしが出たかどうか、心配なさるかも知れない。

(でたかでないかはちょっとしるをすってみれば、)

出たか出ないかはちょっと汁を吸ってみれば、

(むしょくとうめいでも、うまみがでているのがわかる。)

無色透明でも、うま味が出ているのがわかる。

(りょうはどのくらいいれるかはじっしゅうすれば、すぐにわかる。)

量はどのくらい入れるかは実習すれば、すぐにわかる。

(このだしはたいのうしおなどのときはぜひなくてはならない。)

このだしはたいのうしおなどの時はぜひなくてはならない。

(こぶをゆにさっととおしたきりであげてしまうのは、)

こぶを湯にさっと通したきりで上げてしまうのは、

(なにかおしいようにかんがえ、ながくいつまでもにるのはぐのこっちょう、)

なにか惜しいように考え、長くいつまでも煮るのは愚の骨頂、

(こんぶのそこのあまみがでて、けっしてきのきいただしはできない。)

昆布の底の甘味が出て、決して気の利いただしはできない。

(きょうとあたりではひきだしこんぶといって、なべのいっぽうからながいこんぶをいれ、)

京都辺では引出し昆布といって、鍋の一方から長い昆布を入れ、

(そこをくぐらしていっぽうからひきあげるというやりかたもあるが、)

底をくぐらして一方から引き上げるというやり方もあるが、

(こういうきびしいやりかただと、どんなやかましいしょくつうたちでも、)

こういうきびしいやり方だと、どんなやかましい食通たちでも、

(もんくのいいようがないということになっている。)

文句のいいようがないということになっている。

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