嫁取婿取 1

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プレイ回数82難易度(4.4) 2058打 長文
佐々木邦 作

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問題文

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(こどものおおいかてい)

子供の多い家庭

(「これ、これ、しゅんいち、じろう、じゃあなかった。ひでひこ、いや、まさお)

「これ、これ、俊一、二郎、じゃあなかった。英彦、いや、雅男

(ちょっとそのしんぶんをとっておくれ。そのおまえのそばにあるのを」と、)

一寸その新聞を取っておくれ。そのお前の側にあるのを」と、

(やましたさんはこれをよくやる。おとこのこをひとりよぶのに)

山下さんはこれを能くやる。男の子を一人呼ぶのに

(いえじゅうのなまえをくちにだす。さいくんも)

家中の名前を口に出す。細君も

(「やすこ、きよこ、じゃあない。はるこ、あらいやだ。よしこ)

「安子、清子、じゃあない。春子、あら厭だ。芳子

(ちょっときておくれよ」と)

一寸来ておくれよ」と

(ついよにんまえよんでしまうことがある。)

つい四人前呼んでしまうことがある。

(やましたけはよんなんよんじょ、へんぱなくうんだ。)

山下家は四男四女、偏頗なく生んだ。

(がんらい、やましたさんはこのころのひとたちとちがって)

元来、山下さんはこの頃の人達と違って

(ぜんぜん、こどもをほしがらないことはなかった。)

全然、子供を欲しがらないことはなかった。

(「ふうふはじぶんのこうけいしゃとしておとこのこをひとり、おんなのこをひとりそだてなければ)

「夫婦は自分の後継者として男の子を一人、女の子を一人育てなければ

(こっかにたいしてもうしわけがたたない」)

国家に対して申し訳が立たない」

(とていせつらしいものをもっていた。)

と定説らしいものを持っていた。

(このゆえにちょうなんちょうじょとそろったときはもうしぶんなかった。)

この故に長男長女と揃った時は申し分なかった。

(しかしそのなかに、「おんなのこはどうせくれてしまうのだけれど)

しかしその中に、「女の子は何うせくれてしまうのだけれど

(おとこのこはほんとうのあととりだから、まんいちまちがいがあるとたまなしになる。)

男の子は真正の跡取りだから、万一間違いがあると玉なしになる。

(ようじんのためもうひとりあってもいいよ」)

用心の為もう一人あってもいいよ」

(とかんがえなおすひつようがたった。それからまもなく)

と考え直す必要が起った。それから間もなく

(うまれたのはおとこのこでなくておんなのこだった。)

生まれたのは男の子でなくて女の子だった。

など

(あてがはずれたけれど、あきらめはすぐについた。)

当てが外れたけれど、あきらめは直ぐについた。

(とにかく、いちばんじょうがおとこのこだ。はやくらくができるとおもった。)

兎に角、一番上が男の子だ。早く楽が出来ると思った。

(しかしいちねんたたないなかに「おんなふたりにおとこひとりのところへもうひとり)

しかし一年たたない中に「女二人に男一人のところへもう一人

(おとこがうまれればかずがちょうどよくなる」)

男が生まれれば数が丁度良くなる」

(ときたいしなければならないことになった。)

と期待しなければならないことになった。

(さいくんのびこうしだいでどんどんせつがかわる。)

細君の微候次第でドンドン説が変る。

(こんどはとしごでぼたいがよわかったせいか、いつにないなんざんだった。)

今度は年子で母体が弱かったせいか、いつにない難産だった。

(「ひろいものだよ。いちじはふたりともだめかとおもった」)

「拾いものだよ。一時は二人とも駄目かと思った」

(とやましたさんはかんしゃした。それからおとこ、おとこ、おんな、おとことつづいた。)

と山下さんは感謝した。それから男、男、女、男と続いた。

(もうそのころはせつをかんがえるよゆうがなかった。)

もうその頃は説を考える余裕がなかった。

(ただこのうえどうなることかとおもっただけだった。)

唯この上何うなることかと思っただけだった。

(はちにんもあるととにかくかけたがるものだが、よいあんばいにみなそだった。)

八人もあると兎に角かけたがるものだが、好い塩梅に皆育った。

(いちばんどのごがおとこのこでまもなくしょうがっこうとえんがきれる。)

一番殿後が男の子で間もなく小学校と縁が切れる。

(せんとうのちょうなんしゅんいちくんはきょねんていだいをそつぎょうして、もうつとめぐちにありついている。)

先頭の長男俊一君は去年帝大を卒業して、もう勤め口にありついている。

(ちょうじょはさんねんまえにおよめにいった。ふたりかたづいたかんじょうだが、すえがこれからだ。)

長女は三年前にお嫁に行った。二人片付いた勘定だが、未がこれからだ。

(おとうさんもおかあさんもほねがおれる。)

お父さんもお母さんも骨が折れる。

(しちはちねんまえ、やましたさんがこどもぜんたいをひきつれてこうがいさんさくにでかけたとき、)

七八年前、山下さんが子供全体を引き連れて郊外散策に出掛けた時、

(でんしゃのしゃしょうがわらいながら「しゅうがくりょこうでございますか?」ときいた。)

電車の車掌が笑いながら「修学旅行でございますか?」と訊いた。

(おそらくからかったのだろうが、やましたさんはなんでもぜんいにかいする。)

恐らくからかったのだろうが、山下さんは何でも善意に解する。

(「あまりかずがおおいものだからがっこうだとおもったのさ。むりもないよ」)

「余り数が多いものだから学校だと思ったのさ。無理もないよ」

(といまもってひとつばなしにしている。)

と今もって一つ話にしている。

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