嫁取婿取 4
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問題文
(じゅけんなまのきょうぐうにほんとのどうじょうができるのはつぶさに)
受験生の境遇に真正の同情が出来るのは具に
(じゅけんなまのけいけんをなめたものばかりだ。)
受験生の経験を嘗めた者ばかりだ。
(にいさんのしゅんいちくんはつねにじろうくんのためにとりなしやくをつとめている。)
兄さんの俊一君は常に二郎君の為に執成し役を務めている。
(「おかあさん、じろうはけっしてあたまがわるいんじゃありません」と)
「お母さん、二郎は決して頭が悪いんじゃありません」と
(さいきんもなにかのついでをもってしゅちょうした。)
最近も何かの序をもって主張した。
(「らいねんはどうでしょうね?このころはすこしやけぎみで)
「来年は何うでしょうね?この頃は少し自暴気味で
(あまりべんきょうもしていないようですが」とおかあさんはじろうくんのことというと)
余り勉強もしていないようですが」とお母さんは二郎君の事というと
(かおがくらくなる。いままではみなせいせきがよくてほめられてつづけてきたのに)
顔が暗くなる。今までは皆成績が好くて褒められて続けてきたのに
(じろうくんがわるいきろくをこしらえた。「だめでしょう、たいてい」)
二郎君が悪い記録を拵えた。「駄目でしょう、大抵」
(「こまりますわね。おまえからもっきびしくいってくださいよ」)
「困りますわね。お前からもっ厳しく言ってくださいよ」
(「いや、あれはやっぱりほんにんのきぼうどおりにしてやるかたがいいです」)
「いや、あれはやっぱり本人の希望通りにしてやる方がいいです」
(「かつどうのかんとくですか?そんなこととてももんだいにならないんじゃありませんか?」)
「活動の監督ですか?そんなこととても問題にならないんじゃありませんか?」
(「いいえ、あれはしんのきまぐれにいうんです。)
「いいえ、あれは真の気まぐれに言うんです。
(ちいさいときにでんしゃのかんとくになりたがったのもおなじことでしょう」)
小さい時に電車の監督になりたがったのも同じことでしょう」
(「それじゃどうすればよいの?」「ほんにんのきぼうのがっこうへやるんです」)
「それじゃ何うすれば良いの?」「本人の希望の学校へやるんです」
(「わせだですか?」「そうです」「しりつですよ」)
「早稲田ですか?」「そうです」「私立ですよ」
(「おかあさん、このころはしりつもかんりつもおなじことです。)
「お母さん、この頃は私立も官立も同じことです。
(ちっともかわりありません。しかもじろうはかんりつのかたにはまらないあたまですからね」)
ちっとも変りありません。しかも二郎は官立の型に嵌まらない頭ですからね」
(「おなじことならどなたへでもはまりそうなものじゃありませんの?」)
「同じことなら何方へでも嵌まりそうなものじゃありませんの?」
(「さあ、それがそういかないんです」としゅんいちくんはつまった。)
「さあ、それがそう行かないんです」と俊一君は詰まった。
(「しりつがかんりつよりよいってことはありませんよ」と)
「私立が官立より良いってことはありませんよ」と
(おかあさんもやましたさんのかんかをうけている。)
お母さんも山下さんの感化を受けている。
(「よいとはもうしません。おなじことです。じろうのはわがままなあたまですから)
「良いとは申しません。同じことです。二郎のは我儘な頭ですから
(ずきながっかはずばぬけてできるかわりに)
好きな学科はずば抜けて出来る代わりに
(きらいなものはぜんぜんいけません。しかししりつはかんりつとちがいますから・・・」)
嫌いなものは全然いけません。しかし私立は官立と違いますから・・・」
(「それごらんなさい」「いいえ、せいどがちがうんです」)
「それ御覧なさい」「いいえ、制度が違うんです」
(「せいどがちがっておなじってことはありませんよ」「にゅうがくしけんのせいどです」)
「制度が違って同じってことはありませんよ」「入学試験の制度です」
(としゅんいちくんもくるしい。ないようにおいてはしがくかんがくにこうおつないことを)
と俊一君も苦しい。内容に於いては私学官学に甲乙ないことを
(りきせつしたあと、じろうくんのせいかくにおよんで)
力説した後、二郎君の性格に及んで
(「あいつはかたにはまりません。ちゅうがっこうでせんせいににらまれてぶつりがくがすっかり)
「彼奴は型に嵌まりません。中学校で先生に睨まれて物理学がすっかり
(きらいになってしまったのです。ところがこうとうがっこうのにゅうがくしけんには)
嫌いになってしまったのです。ところが高等学校の入学試験には
(ぶつりかがくがありますからとてもだめです」)
物理化学がありますからとても駄目です」
(「がっかのよりぐいをするってことをせんせいがおっしゃいましたが)
「学科の択り食いをするってことを先生が仰有いましたが
(やっぱりそれがわるかったんですね」)
やっぱりそれが悪かったんですね」
(「そのせんせいですよ、じろうにやりこめられたのは」「まあ」)
「その先生ですよ、二郎にやり込められたのは」「まあ」
(「きらいでしたしらべをしていかないからいつもできがわるいんでしょう。)
「嫌いで下調をして行かないからいつも出来が悪いんでしょう。
(せんせいはあるときこごとをおっしゃって「しっかりたまえ。わっとはきみぐらいのとき)
先生は或時小言を仰有って「しっかり給え。ワットは君ぐらいの時
(もうじょうきのことをかんがえていたぜ」とひにくったんです。)
もう蒸気のことを考えていたぜ」と皮肉ったんです。
(じろうはまけていません。「なぽれおんはせんせいぐらいのとき)
二郎は負けていません。「ナポレオンは先生ぐらいの時
(もうふらんすこうていになっていましたよ」とやりかえしました。)
もうフランス皇帝になっていましたよ」とやり返しました。
(せんせいはすっかりいかってしまったのです。むりもありませんよ」)
先生はすっかり怒ってしまったのです。無理もありませんよ」