嫁取婿取 13

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プレイ回数36難易度(4.5) 2672打 長文
佐々木邦 作

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問題文

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(「こうりつでございます」「ちかごろできたのですな?」「はあ」)

「公立でございます」「近頃出来たのですな?」「はあ」

(「おさふねくんはていだいをにどそつぎょうしているしゅうさいですよ」とさいとうさんがすいしょうした。)

「長船君は帝大を二度卒業している秀才ですよ」と斎藤さんが推賞した。

(「ははあ」「ぶんがくしほうがくしです。おさふねくん、やましたさんもほうかですよ」)

「ははあ」「文学士法学士です。長船君、山下さんも法科ですよ」

(「これはこれは。こうはいとしてどうぞとくにおみしりおきをねがいもうしあげます」)

「これはこれは。後輩としてどうぞ特にお見知りおきを願い申し上げます」

(とおさふねくんはまたひれふした。)

と長船君はまた平伏した。

(「こうとうがっこうはどこでした?」「いちこうでございます」)

「高等学校は何処でした?」「一高でございます」

(「ははあ。これもわたしがせんぱいです」とやましたさんがいったとき、おくさんがあらわれた。)

「ははあ。これも私が先輩です」と山下さんが言った時、奥さんが現れた。

(「きゅうねんじゅうはしゅじゅとおせわになりまして・・・」と)

「旧年中は種々とお世話になりまして・・・」と

(ふじんとくゆうのながながしい)

婦人特有の長々しい

(あいさつがはじまる。せいねんしんしはそのおわるのをまっていて)

挨拶が始まる。青年紳士はその終わるのを待っていて

(「それではせんせい」とかまくびをもちあげた。)

「それでは先生」と鎌首を持ち上げた。

(やましたさんはせんぱいというかんけいからじぶんのことかとおもったがさいとうさんがひきとって)

山下さんは先輩という関係から自分のことかと思ったが斎藤さんが引き取って

(「まあいいじゃないか?ゆっくりはなしていきたまえ」ととめた。)

「まあいいじゃないか?ゆっくり話して行きたまえ」と止めた。

(「ありがとうぞんじますが、まだこれからまわるよていがさんじゅっけんからございます」)

「有難う存じますが、まだこれから廻る予定が三十軒からございます」

(「それはたいへんだね」「さようなればやましたさま」「はあ」とやましたさん、すこしおどろいた。)

「それは大変だね」「然様なれば山下様」「はあ」と山下さん、少し驚いた。

(「せんせい、おくさま、ごきげんよろしゅう」ともーにんぐのせいねんはれいぎただしくうやまって)

「先生、奥様、御機嫌宜しゅう」とモーニングの青年は礼儀正しく敬って

(かえっていった。「おそろしくしかくばったおとこだね」とやましたさんはかんしんした。)

帰って行った。「恐ろしく四角張った男だね」と山下さんは感心した。

(「このころのわかいものにはめずらしいかたじんだよ」とさいとうさんはわらっていた。)

「この頃の若いものには珍しい堅人だよ」と斎藤さんは笑っていた。

(「むかしのぶしってかんじがある」「たしかしぞくだったろう」)

「昔の武士って感じがある」「確か士族だったろう」

(「せんせいといったが、きみはせんせいをしたことがあるのかい?」)

「先生と言ったが、君は先生をしたことがあるのかい?」

など

(「あるとも。いちねんばかりいなかのちゅうがっこうでえいごをおしえたよ」)

「あるとも。一年ばかり田舎の中学校で英語を教えたよ」

(「これははつみみだね。きみのきゅうあくはずいぶん、きいているけれど」)

「これは初耳だね。君の旧悪は随分、聞いているけれど」

(「おほほ」とおくさんがそんざいをしめした。それからつづいたせけんばなしのなかにやましたさんは)

「オホホ」と奥さんが存在を示した。それから続いた世間話の中に山下さんは

(「おくさん、このとしはぜひひとりえんづけようとおもっていますから、)

「奥さん、此年は是非一人縁づけようと思っていますから、

(どうぞよろしくねがいますよ」とたのむことをわすれなかった。)

どうぞ宜しく願いますよ」と頼むことを忘れなかった。

(「およばずながらせいぜいおこころがけもうしあげましょう」)

「及ばずながら精々お心掛け申し上げましょう」

(「やましたくん、どうだね?せんこくのおとこは」とさいとうさんがおもいついてもちだした。)

「山下君、どうだね?先刻の男は」と斎藤さんが思いついて持ち出した。

(「どくしんかい?」「まだもらわないといっていたよ」「ほうがくしぶんがくしだね」)

「独身会?」「まだ貰わないと言っていたよ」「法学士文学士だね」

(「ていだいってちゅうもんならこのうえはない。それにかんしんなおとこだよ。)

「帝大って注文ならこの上はない。それに感心な男だよ。

(なにじゅうねんまえにゆいいつ、いちねんおしえただけだけれどまいとしあのとおりねんがにくる」)

何十年前に唯一、一年教えただけだけれど毎年あの通り年賀に来る」

(「おやがあるのだろう?」「おやのないやつがあるものか」)

「親があるのだろう?」「親のない奴があるものか」

(「いまあるかってんだ」「さあ。おかあさんとふたりでいるとかいったぜ」)

「今あるかってんだ」「さあ。お母さんと二人でいるとか言ったぜ」

(「それはちっとこまるね」とやましたさんはくびをかしげた。)

「それはちっと困るね」と山下さんは首を傾げた。

(さきごろからしゅんいちくんはいもうとのむこのこうほしゃがあるたびごとにとしょかんへまわってだいがくいちらんを)

先頃から俊一君は妹の婿の候補者がある度毎に図書館へ廻って大学一覧を

(みるやくになっている。おとうさんはおさふねくんのちょうさをさいとうさんにたのむいっぽう)

見る役になっている。お父さんは長船君の調査を斎藤さんに頼む一方

(しゅんいちくんにもいのちをくだした。ていだいをにじゅうにそつぎょうしたしゅうさいということが)

俊一君にも命を下した。帝大を二重に卒業した秀才という事が

(きにいったのである。しかししゅんいちくんはしつぼうしてかえってきた。)

気に入ったのである。しかし俊一君は失望して帰って来た。

(「ほうかをさきにでていますが、どなたもあまりよくありませんよ」と)

「法科を先に出ていますが、何方もあまり良くありませんよ」と

(きのどくそうだった。「なんばんだい?」)

気の毒そうだった。「何番だい?」

(「ほうかはびりかじゅうばん、ぶんかははりだしです」「はりだしというと?」)

「法科はビリか十番、文科は張出です」「張出というと?」

(「ついしけんです。ばんがいです」「おやおや」)

「追試験です。番外です」「おやおや」

(「えいごとしんりですが、とてもしゅうさいじゃありませんな」)

「英語と心理ですが、とても秀才じゃありませんな」

(「しかしりょうほうでているんだからね」とおとうさんはそこにおもきをおいている。)

「しかし両方出ているんだからね」とお父さんはそこに重きを置いている。

(「どなたなよさそうなものですが、なまけたんでしょうか?」)

「何方なよさそうなものですが、怠けたんでしょうか?」

(「なまけるようなじんぶつじゃない」「なんならもっとしらべてみましょうか?」)

「怠けるような人物じゃない」「何ならもっと調べてみましょうか?」

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