嫁取婿取 14
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問題文
(「そうさね」「ほうかはぼくのともだちのにいさんとどうきですから)
「そうさね」「法科は僕の友達の兄さんと同期ですから
(どんなじんぶつかぐらいはきけばわかります」)
どんな人物かぐらいは訊けば分かります」
(「ねんのため、ひとつたのもうか?」「あした、よってみましょう」と)
「念の為、一つ頼もうか?」「明日、寄って見ましょう」と
(しゅんいちくんはふたたびちょうさをひきうけた。)
俊一君は再び調査を引き受けた。
(ゆうじんのにいさんはそのこうほしゃとかなりこんいのあいだがらで)
友人の兄さんはその候補者とかなり懇意の間柄で
(「おさふねくんですか?あれかけんじんですよ。とうだい、まれにみるきみこじんです」)
「長船君ですか?あれか堅人ですよ。当代、稀にみる君子人です」
(というさいこうすいせんだった。「せいせきはどんなふうでしたか?」)
という最高推薦だった。「成績はどんな風でしたか?」
(「こまりましたな。こんどはそうおいでになるとおもいました」)
「困りましたな。今度はそうお出でになると思いました」
(「いちらんをみるとせきじがわるいです」)
「一覧を見ると席次が悪いです」
(「そういうことがあるだろうとおもって、ぼくはしじゅうちゅうこくしたんです」)
「そういうことがあるだろうと思って、僕は始終忠告したんです」
(「べんきょうしなかったんですか?」)
「勉強しなかったんですか?」
(「いや、なかなかのどりょくかですが、どうりがあるんです」「ははあ」)
「いや、なかなかの努力家ですが、道理があるんです」「ははあ」
(「せいじんくんしのしんきょうをもってしけんばにのぞみますから)
「聖人君子の心境を持って試験場に臨みますから
(とてもよいてんのとれるはずはありません」「どういういみでしょう?」)
とても良い点の取れる筈はありません」「どういう意味でしょう?」
(「じこいじょうにみてもらおうというきがちっともないんです。)
「自己以上に見て貰おうという気がちっともないんです。
(おたがいはしけんとなると、しらないことでもしっているようにかきますが)
お互は試験となると、知らないことでも知っているように書きますが
(ちょうふなぎみはそれができません。かんぜんにしっていることのたはけっして)
長船君はそれが出来ません。完全に知っていることの他は決して
(こたえませんから。こうとうでもひっきでもそんばかりしていました」)
答えませんから。口頭でも筆記でも損ばかりしていました」
(「ゆうずうがきかないんですね?」)
「融通が利かないんですね?」
(「ろこつにいえばばかしょうじきです。せっかくできたとうあんのあとへ)
「露骨に言えば馬鹿正直です。折角出来た答案の後へ
(「いじょうのごとくのーとにてよみたるやにおもう」なぞとかきたしますから)
「以上の如くノートにて読みたるやに思う」なぞと書き足しますから
(きょうじゅのはんだんにくるしみます」)
教授の判断に苦しみます」
(「すこしどうかしているんじゃないでしょうか?」)
「少しどうかしているんじゃないでしょうか?」
(「いや、きんちょくですから、そうおもったらそうことわらないときがすまないんです。)
「いや、謹直ですから、そう思ったらそう断らないと気が済まないんです。
(しかしよわたりにはそんなしょうぶんです。しゅうしょくのめんせつにいっても)
しかし世渡りには損な性分です。就職の面接に行っても
(このちょうしですからさいようされっこありません。)
この調子ですから採用されっこありません。
(ぼくはもうかけひきのいらないほうこうへむかうといってぶんかをやりなおしましたが)
僕はもう駆け引きの要らない方向へ向うと言って文化をやり直しましたが
(たしかしんりがくでしたろう?」「そうです」)
確か心理学でしたろう?」「そうです」
(「ようするにけんじんのこちこちです。いしばしをたたいてわたるといいますが)
「要するに堅人のコチコチです。石橋を叩いて渡ると言いますが
(ちょうふなぎみはたたいてみて、このいしばしはかたきやにおもうというだけです。)
長船君は叩いて見て、この石橋は堅きやに思うと言うだけです。
(なかなかわたりません」「せいせきはとにかく、あたまそのものはどうでしょうか?」)
なかなか渡りません」「成績は兎に角、頭そのものはどうでしょうか?」
(「とうあんをはんぶんしかかきませんから、おくそこがわかりませんが)
「答案を半分しか書きませんから、奥底が分かりませんが
(むろん、ふつういじょうですよ」「ありがとうございました」)
無論、普通以上ですよ」「有難うございました」
(「おむこさんとしてこのうえないあんぜんなひとです。なにぶんかしこいですからな」と)
「お婿さんとしてこの上ない安全な人です。何分堅いですからな」と
(じんかくだけはどこまでもうけあいのようだった。)
人格だけはどこまでも請け合いのようだった。
(しゅんいちくんはいえはかえってちくいち、ほうこくしたあと)
俊一君は家は帰って逐一、報告した後
(「どうもようりょうをえないじんぶつです。かしこいことはほしょうつきですが)
「どうも要領を得ない人物です。堅いことは保証つきですが
(よほど、えらいのかよほどぐずでしょう」とぎもんをのこした。)
余程、豪いのか余程愚図でしょう」と疑問を残した。
(「へんじんだとこまりますわね」とおかあさんもけねんしておさふねくん、いちどきふひょうばんだったが)
「変人だと困りますわね」とお母さんも懸念して長船君、一時不評判だったが
(おとうさんは、「よいほうへかわっているんだからね。がくもんはとにかく)
お父さんは、「良い方へ変わっているんだからね。学問は兎に角
(どうぎじょうのしゅうさいともかんがえられる。ていだいでというじょうけんにはにじゅうに)
道義上の秀才とも考えられる。帝大出という条件には二重に
(かなっているんだから、もうすこしけんきゅうしてみよう」とべんごのちいにたった。)
叶っているんだから、もう少し研究してみよう」と弁護の地位に立った。
(「はるこはどう?」とおかあさんはひとおもいにくびをよこにふってもらいたかったが)
「春子はどう?」とお母さんは一思いに首を横に振って貰いたかったが
(はるこさんは「わたし、おとうさんおかあさんのおかんがえにおまかせいたしますわ」と)
春子さんは「私、お父さんお母さんのお考えにお任せ致しますわ」と
(ちょうどそのひさいとうけからそくたつでてにはいったしゃしんをおきにめした。)
丁度その日斎藤家から速達で手に入った写真をお気に召した。
(そのあと、さいとうさんのほかにすうかしょてづるをたどってといあわせたけっかも)
その後、斎藤さんの他に数カ所手蔓を辿って問い合わせた結果も
(みな、けんじんということにいっちした。)
皆、堅人ということに一致した。
(「よっぽどかしこいのね、このひとは」とおかあさんがまずうごかされた。)
「よっぽど堅いのね、この人は」とお母さんが先ず動かされた。
(「かなたでもけんじんとおっしゃる。こちらでもけんじんとおっしゃる。おかあさん、これはあんがい)
「彼方でも堅人と仰る。此方でも堅人と仰る。お母さん、これは案外
(めっけものですよ。しょうのしれないしゅうさいよりもあんしんです」と)
目っけものですよ。性の知れない秀才よりも安心です」と
(つぎにしゅんいちくんがこういをもちはじめた。けんじんでそつぎょうせいせきをつぐなったのだからえらい。)
次に俊一君が好意を持ち始めた。堅人で卒業成績を償ったのだから豪い。
(おさふねくんはけっきょくえんがあった。)
長船君は結局縁があった。