グロースターの仕立屋 5/13
ベアトリクス・ポター 作
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問題文
(したてやは、またまたひのそばにすわって、)
仕立屋は、またまた火のそばに座って、
(つめたいてをあたため、ひとりごとした。)
冷たい手をあたため、一人言した。
(「ちょっきはぴんくのさてんでたった・・・)
「チョッキはピンクのサテンで裁った・・・
(うつくしいかまいとで、ばらのつぼみがさしてある。)
美しいかま糸で、薔薇のつぼみが刺してある。
(さいごのぎんかをしんぷきんにわたしたのは、まちがいではなかったかな?)
最後の銀貨をシンプキンにわたしたのは、間違いではなかったかな?
(べにいろのあないとでかがるぼたんほーるは、20とひとつ!」)
べに色の穴糸でかがるボタン・ホールは、20とひとつ!」
(ところが、そのときとつぜん、またしょっきだなからちいさなおとがきこえてきた。)
ところが、そのとき突然、また食器棚から小さな音が聞こえてきた。
(かたこと、かたこと、かたことかた!)
カタコト、カタコト、カタコトカタ!
(「これは、またふしぎな!」としたてやはいって、)
「これは、また不思議な!」と仕立屋はいって、
(ふせてあったちゃわんを、もうひとつあけた。)
ふせてあった茶碗を、もう一つ開けた。
(すると、でてきたのは、ちいさなしんしねずみで、)
すると、出てきたのは、小さな紳士ねずみで、
(ねずみは、したてやにこしをかがめてえしゃくした。)
ねずみは、仕立屋に腰をかがめて会釈した。
(ところが、こうなると、しょっきだなのうえじゅうに、)
ところが、こうなると、食器棚の上じゅうに、
(かたことかたのがっしょうがはじまって、いっしょにひびかせ、またうけこたえて、)
カタコトカタの合唱が始まって、いっしょにひびかせ、また受け応えて、
(おとをたてるところは、むしにくわれたふるいよろいどで、)
音をたてるところは、虫にくわれた古い鎧戸で、
(かちかちむしがなきたてるのに、にていた。)
カチカチ虫が鳴きたてるのに、似ていた。
(かたこと、かたこと、かたことかた!)
カタコト、カタコト、カタコトカタ!
(そして、どのちゃわんからも、どんぶりからも、)
そして、どの茶碗からも、どんぶりからも、
(ちいさなねずみがつぎつぎにあらわれて、たなをとびおり、)
小さなねずみがつぎつぎに現れて、棚を飛び降り、
(はめいたのあなにはいっていった。)
羽目板の穴に入っていった。
(したてやは、いっそうひのちかくにすわってなげいた。)
仕立屋は、いっそう火の近くに座ってなげいた。
(「べにいろのあないとで、かがるぼたんほーるは20とひとつ!)
「べに色の穴糸で、かがるボタン・ホールは20とひとつ!
(どようびのひるまでに、しあげにゃならぬ。)
土曜日の昼までに、仕上げにゃならぬ。
(そして、きょうはかようびだ。)
そして、今日は火曜日だ。
(あのねずみたちをにがしてやったのは、まちがいではなかったか。)
あのねずみたちを逃してやったのは、間違いではなかったか。
(あれは、たしかにしんぷきんのもちものだ。)
あれは、たしかにシンプキンの持ち物だ。
(やれやれ、わしももうおしまいだ。あないとがたりぬ」)
やれやれ、わしももうおしまいだ。穴糸が足りぬ」