魯迅 阿Q正伝その5

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(あとではそれをおしひろめて「りょう」もいけない。)

あとではそれを推しひろめて「亮」もいけない。

(「こう」もいけない。)

「光」もいけない。

(そのあとまた「とう」も「しょく」もみないけなくなった。)

その後また「燈」も「燭」も皆いけなくなった。

(そういうことばをちょっとでももらそうものなら、)

そういう言葉をちょっとでも洩らそうものなら、

(それがこいであろうとなかろうと、)

それが故意であろうと無かろうと、

(あきゅうはたちまちあたまじゅうのはげをまっかにしておこりだし、)

阿Qはたちまち頭じゅうの禿を真赤にして怒り出し、

(あいてをみつもって、むくちのやつはいいまかし、よわそうなやつはなぐりつけた。)

相手を見積って、無口の奴は言い負かし、弱そうな奴は殴りつけた。

(しかしどういうものかしらん、けっきょくあきゅうがやられてしまうことがおおく、)

しかしどういうものかしらん、結局阿Qがやられてしまうことが多く、

(かれはだんだんほうしんをへんこうし、たいていのばあいはめをいからしてにらんだ。)

彼はだんだん方針を変更し、大抵の場合は目を怒らして睨んだ。

(ところがこのどもくしゅぎをさいようしてから、)

ところがこの怒目主義を採用してから、

(みしょうのひまじんはいよいよつけあがってかれをなぶりものにした。)

未荘のひま人はいよいよ附け上がって彼を弄り物にした。

(ちょっとかれのかおをみるとかれらはわざとおったまげて)

ちょっと彼の顔を見ると彼等はわざとおッたまげて

(「おや、あかるくなってきたよ」)

「おや、明るくなって来たよ」

(あきゅうはいつものとおりめをいからしてにらむと、かれらはいっこうへいきで)

阿Qはいつもの通り目を怒らして睨むと、彼等は一向平気で

(「とおもったら、くうきらんぷがここにある」)

「と思ったら、空気ランプがここにある」

(あはははははとみなはいっしょになってわらった。)

アハハハハハと皆は一緒になって笑った。

(あきゅうはしかたなしにほかのふくしゅうのはなしをして)

阿Qは仕方なしに他の復讐の話をして

(「てめえたちは、やっぱりあいてにならねえ」)

「てめえ達は、やっぱり相手にならねえ」

(このときこそ、かれのあたまのうえにはいっしゅこうしょうなるこうえいあるはげがあるのだ。)

この時こそ、彼の頭の上には一種高尚なる光栄ある禿があるのだ。

(ふだんのまだらはげとはちがう。だがまえにもいったとおりあきゅうはけんしきがある。)

ふだんの斑ら禿とは違う。だが前にも言ったとおり阿Qは見識がある。

など

(かれはすぐにきそくいはんをかんづいて、もうそのさきはいわない。)

彼はすぐに規則違犯を感づいて、もうその先は言わない。

(ひまじんたちはまだやめないでかれをあしらっていると、ついにうちあいになる。)

暇人達はまだやめないで彼をあしらっていると、遂に打ち合いになる。

(あきゅうはけいしきじょうまかされてきいろいべんつをひっぱられ、)

阿Qは形式上負かされて黄いろい辮子を引張られ、

(かべにたいして4つ5つはちあわせをちょうだいし、)

壁に対して4つ5つ鉢合せを頂戴し、

(かんじんはようやくむねをすかしてかちほこってたちさる。)

閑人はようやく胸をすかして勝ち誇って立去る。

(あきゅうはしばらくたたずんでいたが、こころのうちでおもった。)

阿Qはしばらく佇んでいたが、心の内で思った。

(「おれはつまりこどもにうたれたんだ。いまのよのなかはまったくなっていない」)

「俺はつまり子供に打たれたんだ。今の世の中は全く成っていない」

(そこでかれもまんぞくしかちほこってたちさる。)

そこで彼も満足し勝ち誇って立去る。

(あきゅうはさいしょこのことをこころのうちでおもっていたが、ついにはいつもくちへだしていった。)

阿Qは最初この事を心の内で思っていたが、遂にはいつも口へ出して言った。

(だからあきゅうとふざけるものは、かれにせいしんじょうのしょうりほうがあることを)

だから阿Qとふざける者は、彼に精神上の勝利法があることを

(ほとんどみなしってしまった。)

ほとんど皆知ってしまった。

(そこでこんどかれのきいろいべんつをひっつかむと)

そこで今度彼の黄色い辮子を引っつかむと

(きかいがくるとそのひとはまずかれにいった。)

機会が来るとその人はまず彼に言った。

(「あきゅう、これでもこどもがおやじをうつのか。さあどうだ。)

「阿Q、これでも子供が親父を打つのか。さあどうだ。

(ひとがちくしょうをうつんだぞ。じぶんでいえ、ひとがちくしょうをうつと」)

人が畜生を打つんだぞ。自分で言え、人が畜生を打つと」

(あきゅうはじぶんのべんつでじぶんのりょうてをしばられながら、)

阿Qは自分の辮子で自分の両手を縛られながら、

(あたまをゆがめていった。)

頭を歪めて言った。

(「むしけらをうつをいえばいいだろう。わしはむしけらだ。まだはなさないのか」)

「虫ケラを打つを言えばいいだろう。わしは虫ケラだ。まだ放さないのか」

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