魯迅 阿Q正伝その6
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問題文
(だがむしけらといってもひまじんはけっしてはなさなかった。)
だが虫ケラと言っても閑人は決して放さなかった。
(いつものとおり、ごくちかくのどこかのかべにかれのあたまを5つ6つぶっつけて、)
いつもの通り、ごく近くのどこかの壁に彼の頭を5つ6つぶっつけて、
(そこではじめてせいせいしてかちほこってたちさる。)
そこで初めてせいせいして勝ち誇って立ち去る。
(かれはそうおもった。こんどこそあきゅうはへこたれたと。)
彼はそう思った。今度こそ阿Qはヘコたれたと。
(ところがじゅうびょうもたたないうちに)
ところが十秒もたたないうちに
(あきゅうもまんぞくしてかちほこってたちさる。)
阿Qも満足して勝ち誇って立ち去る。
(あきゅうはさとった。)
阿Qは悟った。
(おれはみずからかろんじみずからいやしむことのできるだいいちのにんげんだ。)
俺は自ら軽んじ自ら賤しむことの出来る第一の人間だ。
(そういうことがわからないものはべつとして、)
そういうことが解らない者は別として、
(そのほかのものにたいしては「だいいち」だ。)
その他の者に対しては「第一」だ。
(じょうげんもまただいいちにんしゃじゃないか。)
状元もまた第一人者じゃないか。
(「ひとをなにだとおもっていやがるんだえ」)
「人を何だと思っていやがるんだえ」
(あきゅうはこういうしゅじゅのみょうほうをもって)
阿Qはこういう種々の妙法をもって
(おんてきをたいさんせしめたあとでは、)
怨敵を退散せしめたあとでは、
(いっそゆかいになってさかやにかけつけ、)
いっそ愉快になって酒屋に馳けつけ、
(なんばいかさけをのむうちに、)
何杯か酒を飲むうちに、
(またべつのひととひととおりじょうだんをいってひととおりけんかをして、)
また別の人と一通り冗談を言って一通り喧嘩をして、
(またかちほこってゆかいになって、)
また勝ち誇って愉快になって、
(おいなりさまにかえり、あたまをよこにするがはやいか、)
土穀祠に帰り、頭を横にするが早いか、
(ぐうぐうねむってしまうのである。)
ぐうぐう眠ってしまうのである。
(もしおかねがあればかれはばくちをうちにいく。)
もしお金があれば彼は博奕を打ちに行く。
(ひとかたまりのひとがじめんにしゃがんでいる。)
ひとかたまりの人が地面にしゃがんでいる。
(あきゅうはそのなかにわりこんでいちばんいせいのいいこえをだしている。)
阿Qはその中に割込んで一番威勢のいい声を出している。
(「ちんろんすーぱ!」)
「青竜四百!」
(「よし、あけるぞ」)
「よし、あけるぞ」
(どうもとはふたをとって)
堂元は蓋を取って
(かおじゅうあせだらけになってうたいはじめる。)
顔じゅう汗だらけになって歌い始める。
(「てんもんあたり、すみがえし、)
「天門当り、隅返し、
(じんと、なかばりはりてなし)
人と、中張張手無し
(あきゅうのぜにはおとりあげ」)
阿Qの銭はお取上げ」
(「なかばりひゃくもん、よし150もん、はったぞ」)
「中張百文、よし150文、張ったぞ」
(あきゅうのぜにはこのようなぎんえいのもとに、)
阿Qの銭はこのような吟詠のもとに、
(だんだんかおじゅうあせだらけのひとのこしのあたりにいってしまう。)
だんだん顔じゅう汗だらけの人の腰のあたりに行ってしまう。
(かれはついにやむをえず、かたまりのそとへでて、)
彼は遂にやむをえず、かたまりのそとへ出て、
(うしろのほうにたってひとのことでしんぱいしているうちに、)
後ろの方に立って人の事で心配しているうちに、
(ばくちはずんずんしんこうしておしまいになる。)
博奕はずんずん進行しておしまいになる。
(それからかれはみれんらしくおいなりさまにかえり、)
それから彼は未練らしく土穀祠に帰り、
(よくじつはめのふちをはらしながらしごとにでる。)
翌日は眼のふちを腫らしながら仕事に出る。
(けれど「さいおうがうまをなくしても、さいなんときまったものではない」。)
けれど「塞翁が馬を無くしても、災難と決まったものではない」。
(あきゅうはふこうにしていちどかったが、)
阿Qは不幸にして一度勝ったが、
(かえってそれがためにほとんどおおきなしっぱいをした。)
かえってそれがためにほとんど大きな失敗をした。
(それはみしょうのまつりのばんだった。)
それは未荘の祭の晩だった。
(そのばん、れいによってしばいがあった。)
その晩、例によって芝居があった。
(れいによってたくさんのばくちばがぶたいのひだりがわにでた。)
例によってたくさんの博奕場が舞台の左側に出た。
(はやしたてるこえなどはあきゅうのみみから10りのそとへさっていた。)
囃したてる声などは阿Qの耳から10里の外へ去っていた。
(かれはただどうもとのうたのふしだけきいていた。かれはかった。またかった。)
彼はただ堂元の歌の節だけ聴いていた。彼は勝った。また勝った。
(どうかはしょうぎんかとなり、しょうぎんかはだーやんに)
銅貨は小銀貨となり、小銀貨は大洋に
(なり、だーやんはついにつみかさなった。)
なり、大洋は遂に積みかさなった。
(かれはすてきないきおいで「てんもんりゃんかい」とさけんだ。)
彼は素敵な勢いで「天門両塊」と叫んだ。
(だれとだれがなんでけんかをはじめたんだか、さっぱりわからなかった。)
誰と誰が何で喧嘩を始めたんだか、サッパリ解らなかった。
(どなるやらなぐるやら、ばたばたかけだすおとなどがして)
怒鳴るやら殴るやら、バタバタ馳け出す音などがして
(しばらくのあいだめがくらんでしまった。)
しばらくの間眼が眩んでしまった。
(かれがおきあがったときにはばくちばもなければひともなかった。)
彼が起き上った時には博奕場も無ければ人も無かった。
(みうちにかなりのいたみをおぼえていくつもげんこつをくい、)
身内にかなりの痛みを覚えて幾つもゲンコツを食い、
(いくつもけとばされたようであった。)
幾つも蹴飛ばされたようであった。
(かれはぼんやりしながらあるきだしておいなりさまにはいった。)
彼はぼんやりしながら歩き出して土穀祠に入った。