魯迅 阿Q正伝その11
関連タイピング
-
プレイ回数128長文かな3030打
-
プレイ回数381長文かな2176打
-
プレイ回数437長文1257打
-
プレイ回数484長文4929打
-
プレイ回数326長文かな2092打
-
プレイ回数103長文かな2088打
-
プレイ回数324長文1489打
-
プレイ回数797長文1618打
問題文
(あきゅうのきおくではおおかたこれがいままであっただいにのくつじょくといってもいい。)
阿Qの記憶ではおおかたこれが今まであった第二の屈辱といってもいい。
(さいわいぴしゃり、ぴしゃりのひびきのあとは、)
幸いピシャリ、ピシャリの響のあとは、
(かれにかんするいちじがかんりょうしたように、かえってひじょうにきらくになった。)
彼に関する一事が完了したように、かえって非常に気楽になった。
(それにまた「すぐわすれてしまう」という)
それにまた「すぐ忘れてしまう」という
(せんぞでんらいのたからものがききめをあらわし、)
先祖伝来の宝物が利き目をあらわし、
(ぶらぶらあるいてさかやのかどぐちまできたときには)
ぶらぶら歩いて酒屋の門口まで来た時には
(もうすこぶるげんきなものであった。)
もうすこぶる元気なものであった。
(おりからむこうからきたのは、せいしゅうあんのわかいあまであった。)
折柄向うから来たのは、靜修庵の若い尼であった。
(あきゅうはふだんでもかのじょをみるときっとあくたいをつくのだ。)
阿Qはふだんでも彼女を見るときっと悪態を吐くのだ。
(ましてやくつじょくのあとだったから、)
ましてや屈辱のあとだったから、
(いつものことをおもいだすとともにてきがいしんをよびおこした。)
いつものことを想い出すと共に敵愾心を喚び起した。
(「きょうはなぜこんなにうんがわるいかとおもったら、さてこそてめえをみたからだ」)
「きょうはなぜこんなに運が悪いかと思ったら、さてこそてめえを見たからだ」
(とかれはひとりでそうきわめて、わざとかのじょにきこえるようにおおつばをはいた。)
と彼は独りでそう極めて、わざと彼女にきこえるように大唾を吐いた。
(「ぺっ、ぷっ」)
「ペッ、プッ」
(わかいあまはかいもくめもくれずあたまをさげてひたすらあるいた。)
若い尼は皆目眼も呉れず頭をさげてひたすら歩いた。
(すれちがいにあきゅうはとつぜんてをのばしてかのじょのそりたてのあたまをなでた。)
すれちがいに阿Qは突然手を伸ばして彼女の剃り立ての頭を撫でた。
(「からぼうず!はやくかえれ。おしょうがまっているぞ」)
「から坊主! 早く帰れ。和尚が待っているぞ」
(「おまえはなんだっててだしをするの」)
「お前は何だって手出しをするの」
(あまはかおじゅうまっかにしてはやあしであるきだした。)
尼は顔じゅう真赤にして早足で歩き出した。
(さかやのなかのひとはおおわらいした。)
酒屋の中の人は大笑いした。
(おのれのてがらをみとめたあきゅうはますますいいきになってはしゃぎだした。)
己れの手柄を認めた阿Qはますますいい気になってハシャギ出した。
(「おしょうはやるかもしれねえが、おらあやらねえ」)
「和尚はやるかもしれねえが、おらあやらねえ」
(かれは、かのじょのほっぺたをつまんだ。)
彼は、彼女の頬ぺたを摘んだ。
(さかやのなかのひとはまたおおわらいした。あきゅうはいっそうとくいになり、)
酒屋の中の人はまた大笑いした。阿Qはいっそう得意になり、
(けんぶつにんをまんぞくさせるためにちからまかせにひとひねりしてかのじょをつきはなした。)
見物人を満足させるために力任せに一捻りして彼女を突放した。
(かれはこのいっせんでわんうーのこともにせけとうのこともみなわすれてしまって、)
彼はこの一戦でワンウーのことも偽毛唐のことも皆忘れてしまって、
(きょうのいっさいのふうんがむくいられたようにみえた。)
きょうの一切の不運が報いられたように見えた。
(ふしぎなことにはぴしゃり、ぴしゃりのあのときよりも)
不思議なことにはピシャリ、ピシャリのあの時よりも
(ぜんしんがかるくさわやかになって、)
全身が軽く爽やかになって、
(ふらふらといまにもとびだしそうにみえた。)
ふらふらと今にも飛び出しそうに見えた。
(「あきゅうのばちあたりめ。おまえのよつぎはたえてしまうぞ」)
「阿Qの罰当りめ。お前の世継ぎは断えてしまうぞ」
(とおくのほうであまのなきごえがきこえた。)
遠くの方で尼の泣声がきこえた。
(「ははは」あきゅうはじゅうぶんとくいになった。)
「ハハハ」阿Qは十分得意になった。
(「ははは」さかやのなかのひともくぶどおりとくいになってわらった。)
「ハハハ」酒屋の中の人も九分通り得意になって笑った。