魯迅 阿Q正伝その31

関連タイピング
-
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
プレイ回数856長文3358打 -
夏目漱石「こころ」3-40
プレイ回数677長文1546打 -
江戸川乱歩の短編小説です
プレイ回数4114長文6698打 -
映画でも有名な、山本周五郎の傑作短編です。
プレイ回数833長文1618打 -
プレイ回数1426長文4893打
-
夢の中の栄枯盛衰に価値を見出している小説小品。
プレイ回数1346長文2012打 -
プレイ回数1659長文3168打
-
このタイピングはゆっくりと更新していくである5
プレイ回数317長文3368打
問題文
(いまはただにせけとうひとりをしっているだけで、)
今はただ偽毛唐一人を知っているだけで、
(そのけとうのところへ、そうだんにゆくよりほかはなかった。)
その毛唐の処へ、相談に行ゆくより外は無かった。
(せんけのだいもんはあけひろげてあった。あきゅうは、おっかなびっくりはいっていった。)
錢家の大門は開け拡げてあった。阿Qは、おっかなびっくり入って行った。
(かれはなかへはいりかけてひじょうにおどろいたのは、)
彼は中へ入りかけて非常に驚いたのは、
(にせけとうがちょうどひろばのまんなかにつったって、)
偽毛唐がちょうど広場のまん中に突っ立って、
(まっくろなようふくをきて、ぎんめだるをつけて、)
真黒な洋服を着て、銀メダルを附けて、
(てにはかつてあきゅうをこらしめたすてっきをもって、)
手にはかつて阿Qを懲らしめたステッキを持って、
(いっしゃくあまりのべんつをひらいてかたのうえにふりさげ、)
一尺余りの辮子を披いて肩の上に振り下げ、
(まるでほうほうがみのりゅうはいせんにんのようなかっこうでたっていたのだ。)
まるで蓬々髪の劉海仙人のような恰好で立っていたのだ。
(むきあってたっていたのは、ちょうはくがんのほかさんにんのかんじんで、)
向き合って立っていたのは、趙白眼の外三人の閑人で、
(ちょうどいまうやうやしくおはなしをうかがっているところだ。)
ちょうど今恭々しくお話を伺っているところだ。
(あきゅうはこっそりちかよってちょうはくがんのうしろにたち、)
阿Qはこっそり近寄って趙白眼の後ろに立ち、
(こころのなかではおひきたてにあずかろうとおもっているんだが、)
心の中ではお引立に預かろうと思っているんだが、
(さてなんといったらいいものか、いいだすことばをしらなかった。)
さて何と言ったらいいものか、言い出す言葉を知らなかった。
(かれをにせけとうというのはもとよりよくないことだ。せいようじんもおだやかでない。)
彼を偽毛唐というのはもとより好くないことだ。西洋人も穏かでない。
(かくめいとうもおだやかでない。やんしいさんといえばあるいはいいかもしれない。)
革命党も穏やかでない。洋先生といえばあるいはいいかもしれない。
(やんしいさんはめをしろくろして、)
洋先生は眼を白黒して、
(ちょうどこうぎのまっさいちゅうであったから、あきゅうにめもくれない。)
ちょうど講義の真最中であったから、阿Qに眼も呉れない。
(「おれはせっかちだからかおをみるとすぐにいった。)
「乃公はせっかちだから顔を見るとすぐに言った。
(こうくん!われわれはちゃくしゅしよう。しかしかれはけっきょくのーといった。)
洪君! われわれは著手しよう。しかし彼は結局ノーと言った。
(これはようごだからおまえたちにはわからない。)
これは洋語だからお前達には分らない。
(そうでなければもっとはやくせいこうしたんだぞ。)
そうでなければもっと早く成功したんだぞ。
(とにかく、これはかれがだいじをとってしごとをしたほうめんなんだ。)
とにかく、これは彼が大事を取って仕事をした方面なんだ。
(かれらはさいさんさいしこほくにいってくれとおれにたのんだが、)
彼等は再三再四湖北に行ってくれと乃公に頼んだが、
(おれはそれでもしょうちしないくらいだ。)
乃公はそれでも承知しないくらいだ。
(だれがこんなちっぽけなけんじょうのなかでことをおこそうとねがうやつがあるもんか」)
誰がこんな小っぽけな県城の中で事を起そうと願う奴があるもんか」
(「えーと、こーつ」)
「えーと、こーつ」
(あきゅうはかれのはなしがとぎれたひまにせいいっぱいのゆうきをふりおこしてくちをひらいた。)
阿Qは彼の話が途切れたひまに精一杯の勇気を振起ふりおこして口をひらいた。
(だが、どうしたわけかやんしいさんと、かれをよぶことができなかった。)
だが、どうしたわけか洋先生と、彼を喚ぶことが出来なかった。
(はなしをきいていたよにんのものはびっくりしてあきゅうのほうをみた。)
話を聴いていた四人の者は喫驚して阿Qの方を見た。
(やんしいさんもようやくかれにめをとめた。)
洋先生もようやく彼に目をとめた。
(「なんだ」)
「何だ」
(「わたし」)
「わたし」
(「でてゆけ」)
「出てゆけ」
(「わたしも・・・にはいりたい」)
「わたしも・・・に入りたい」
(「なまいきいうな。ころがりでろ」とやんしいさんはひとなかせぼうをふあげた。)
「生意気いうな。ころがり出ろ」と洋先生は人泣かせ棒を振上げた。
(ちょうはくがんとかんじんはくちをそろえてどなった。)
趙白眼と閑人は口を揃えて怒鳴った。
(「せんせいがころがりでろとおっしゃるのに、てめえはうなずかねえのか」)
「先生がころがり出ろと被仰るのに、てめえは肯かねえのか」
(あきゅうはあたまのうえにてをかざして、おぼえずしらずもんがいににげだした。)
阿Qは頭の上に手を翳ざして、覚えず知らず門外に逃げ出した。
(やんしいさんはおいかけてもこなかった。)
洋先生は追い馳けても来なかった。
(あきゅうはろくじゅっぽあまりもかけだしてようやくあゆみをゆるめこころのなかでゆうしゅうをかんじた。)
阿Qは六十歩余りも馳け出してようやく歩みを弛ゆるめ心の中で憂愁を感じた。
(やんしいさんがかれにかくめいをゆるさないとすると、ほかにしようがない。)
洋先生が彼に革命を許さないとすると、外に仕様がない。
(これからけっしてしろはちまき、しろかぶとのひとが)
これから決して白鉢巻、白兜の人が
(かれをむかえにくるというのぞみをおこすことができない。)
彼を迎えに来るという望みを起すことが出来ない。
(かれがもっていたほうふ、しこう、きぼう、ぜんとがただいっぴつでぼうびきされてしまった。)
彼が持っていた抱負、志向、希望、前途がただ一筆で棒引されてしまった。
(かんじんのおふれがゆきとどいて、)
閑人のお布れが行き届いて、
(しょうどん、わんうーなどにはなしのたねをくれたのは、やっぱりこんどのことであった。)
小D、王髯などに話の種を呉れたのは、やっぱり今度の事であった。