魯迅 故郷その4

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問題文
(「おやまただれかきたよ。)
「おやまた誰か来たよ。
(かぐをかうといってはてあたりしだいにもっていくんだから、)
家具を買うと言っては手当り次第に持って行くんだから、
(わたしがちょっとみてきましょう」)
わたしがちょっと見て来ましょう」
(ははがでていくともんがいのほうでしごにんのおんなのこえがした。)
母が出て行くと門外の方で四五人の女の声がした。
(わたしはこうじをそばへよんでかれとはなしをした。)
わたしは宏兒をそばへ呼んで彼と話をした。
(じがかけるか、このうちをでていきたいとおもうか、)
字が書けるか、このうちを出て行きたいと思うか、
(などということをきいてみた。)
などということを訊いてみた。
(「わたしどもはきしゃにのってゆくのですか」)
「わたしどもは汽車に乗ってゆくのですか」
(「きしゃにのってゆくんだよ」)
「汽車に乗ってゆくんだよ」
(「ふねは?」「まずふねにのるんだ」)
「船は?」「まず船に乗るんだ」
(「おや、こんなになったんですかね。おひげがまあながくなりましたこと」)
「おや、こんなになったんですかね。お鬚がまあ長くなりましたこと」
(いっしゅとがったおかしなこえがとつぜんわめきだした。)
一種尖ったおかしな声が突然わめき出した。
(わたしはびっくりしてあたまをあげると、きょうこつのとがったくちびるのうすい、)
わたしはびっくりして頭を上げると、頬骨の尖った唇の薄い、
(ごじゅうぜんごのおんながひとり、わたしのめのまえにつったっていた。)
五十前後の女が一人、わたしの眼の前に突っ立っていた。
(はかまもなしにももひきばきのりょうあしをふんばっているすがたは、)
袴も無しに股引穿きの両足を踏ん張っている姿は、
(まるでせいずきのこんぱすみたいだ。)
まるで製図器のコンパスみたいだ。
(わたしはぎょっとした。)
わたしはぎょっとした。
(「わからないかね、わたしはおまえをいだいてやったことがいくどもあるよ」)
「解らないかね、わたしはお前を抱いてやったことが幾度もあるよ」
(わたしはいよいよおどろいたが、いいあんばいにすぐあとからははがはいってきてそばから)
わたしはいよいよ驚いたが、いい塩梅にすぐあとから母が入って来て側から
(「このひとはながいあいだたきょうにでていたから、みんなわすれてしまったんです。)
「この人は永い間他郷に出ていたから、みんな忘れてしまったんです。
(おまえ、おぼえておいでだろうね」とわたしのほうへむかって)
お前、覚えておいでだろうね」とわたしの方へ向って
(「これはすじむこうのようにそうだよ。そらとうふやさんの」)
「これはすじ向うの楊二嫂だよ。そら豆腐屋さんの」
(おおそういわれるとおもいだした。)
おおそう言われると想い出した。
(わたしのこどものじぶん、)
わたしの子供の時分、
(すじむこうのとうふやのおくにいちにちすわりこんでいたのがたしかようにそうとかいった。)
すじ向うの豆腐屋の奥に一日坐り込んでいたのがたしか楊二嫂とか言った。
(かのじょはきんじょでひょうばんの「とうふせいし」でおしろいをこてこてぬっていたが、)
彼女は近所で評判の「豆腐西施」で白粉をコテコテ塗っていたが、
(きょうこつもこんなにたかくはなく、くちびるもこんなにうすくはなく、)
頬骨もこんなに高くはなく、唇もこんなに薄くはなく、
(それにまたいつもすわっていたので、)
それにまたいつも坐っていたので、
(こんなぶんまわしのようなしせいをみるのはわたしもはじめてで、)
こんな分廻しのような姿勢を見るのはわたしも初めてで、
(そのじぶん、かのじょがいるからこそ)
その時分、彼女がいるからこそ
(このとうふやのしょうばいがはんじょうするといううわさをきいていたが、)
この豆腐屋の商売が繁盛するという噂をきいていたが、
(それもねんれいのかんけいで、)
それも年齢の関係で、
(わたしはいまだかつてかんかをうけたことがないからまるきりおぼえていない。)
わたしは未だかつて感化を受けたことがないからまるきり覚えていない。
(ところがこんぱすせいしはわたしにたいしてはなはだふへいらしく、)
ところがコンパス西施はわたしに対してはなはだ不平らしく、
(たちまちあなどりのいろをあらわし、さながらふらんすじんにしてなぽれおんをしらず、)
たちまち侮りの色を現し、さながらフランス人にしてナポレオンを知らず、
(あめりかじんにしてわしんとんをしらざるをあざけるごとくれいしょうした。)
アメリカ人にしてワシントンを知らざるを嘲る如く冷笑した。