半七捕物帳 雪達磨7(終)
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問題文
(にせがねつかいはえどじだいのほうとしてはりつけのじゅうざいである。かれらいちどうは)
【四】贋金つかいは江戸時代の法として磔刑の重罪である。かれら一同は
(どうでたすからないいのちであるから、だれがじんえもんをころそうともしょせんはおなじつみで)
どうで助からない命であるから、誰が甚右衛門を殺そうとも所詮は同じ罪で
(あるものの、ともかくそのじじょうをめいはくにしておくひつようがあるので、いちどうはさらに)
あるものの、ともかくその事情を明白にしておく必要があるので、一同は更に
(きびしいぎんみをうけた。そうして、かれらしちにんのなかでゆきだるまのいっけんにちょくせつ)
きびしい吟味をうけた。そうして、かれら七人のなかで雪達磨の一件に直接
(かんけいのあるのは、かのかざりしょくのとよきちとげんじと、おうみやくろうえもんといしざかや)
関係のあるのは、かの錺職の豊吉と源次と、近江屋九郎右衛門と石坂屋
(よしべえとのよにんであることがわかった。)
由兵衛との四人であることが判った。
(とよきちがしながわからつれてきたおまさというおんなは、もうねんあけまえでもあったが、)
豊吉が品川から連れてきたお政という女は、もう年開け前でもあったが、
(それでもなんやかやでさんじゅうりょうばかりのかねがいるので、とよきちはかかえぬしにたのんでまず)
それでも何やかやで三十両ばかりの金がいるので、豊吉は抱え主にたのんで先ず
(はんきんのじゅうごりょうをいれて、おんなをじぶんのほうへひきとることにした。のこるはんきんの)
半金の十五両を入れて、女を自分の方へ引き取ることにした。のこる半金の
(じゅうごりょうはきょねんのおおみそかまでにわたすやくそくであったが、とてもそのくめんは)
十五両は去年の大晦日までに渡す約束であったが、とてもその工面は
(つかないので、かれはどうるいのじんえもんにたのんだが、じんえもんはすなおにしょうち)
付かないので、彼は同類の甚右衛門にたのんだが、甚右衛門は素直に承知
(しなかった。 「おれのところへそんなことをいってくるのはまちがっている。)
しなかった。 「おれのところへそんな事を云って来るのは間違っている。
(かんだのおうみやかいしざかやへいけ」と、かれはすげなくはねつけた。)
神田の近江屋か石坂屋へ行け」と、かれは情なく跳ねつけた。
(しかしおうみやへはいままでにたびたびむしんにいっているので、とよきちもさすがに)
しかし近江屋へは今までにたびたび無心に行っているので、豊吉もさすがに
(ちゅうちょした。よんどころなくしながわのほうへはなきをいれて、ななくさのすぎるまで)
躊躇した。よんどころなく品川の方へは泣きを入れて、七草の過ぎるまで
(まってもらうことにしたが、とよきちじしんのてではしょうがつそうそうにそのくめんのはずは)
待って貰うことにしたが、豊吉自身の手では正月早々にその工面の筈は
(ないので、かれはおおゆきのこぶりになるのをまって、みっかひるすぎにふたたび)
ないので、かれは大雪の小降りになるのを待って、三日ひるすぎに再び
(じんえもんのやどへたずねてゆくと、ちょうないのかどであたかもかれのかえってくるのに)
甚右衛門の宿へ訪ねてゆくと、町内の角であたかも彼の帰ってくるのに
(であった。とよきちはよんどころないじじょうをうったえて、かさねてかねのむしんをたのむと、)
出逢った。豊吉はよんどころない事情を訴えて、かさねて金の無心をたのむと、
(じんえもんはやはりしょうちしなかった。それでもとよきちがしつこくくどくので、)
甚右衛門はやはり承知しなかった。それでも豊吉が執拗く口説くので、
(じんえもんももてあましたらしく、そんならかんだのおうみやへいっておれがいっしょに)
甚右衛門も持て余したらしく、そんなら神田の近江屋へ行っておれが一緒に
(たのんでやろうということになって、ふたりはゆきのなかをかんだのかなものやまで)
頼んでやろうということになって、二人は雪のなかを神田の鉄物屋まで
(でむいていった。 おうみやにはどうるいのいしざかやよしべえとかざりしょくのげんじとがねんしに)
出向いていった。 近江屋には同類の石坂屋由兵衛と錺職の源次とが年始に
(きていた。ちょうどいいところだとおくへとおされて、ひのくれるまでごにんがさけを)
来ていた。丁度いいところだと奥へ通されて、日の暮れるまで五人が酒を
(のんでいるうちに、じんえもんはとよきちにたのまれたじゅうごりょうのことをいいだすと、)
のんでいるうちに、甚右衛門は豊吉にたのまれた十五両のことを云い出すと、
(くろうえもんもよしべえもいやなかおをした。そして、そのくらいのかねはじんえもんが)
九郎右衛門も由兵衛もいやな顔をした。そして、そのくらいの金は甚右衛門が
(ようだてるのがとうぜんだといった。このしごとについてはじんえもんがふだんから)
用立てるのが当然だと云った。この仕事については甚右衛門がふだんから
(いちばんよけいにもうけているというふへいばなしもでた。なにしろみんなよっているので、)
一番余計に儲けているという不平話も出た。なにしろみんな酔っているので、
(ふたことみことのいいあらそいからあわやうでずくになろうとするいちせつなに、どうしたのか)
ふた言三言の云い争いからあわや腕ずくになろうとする一刹那に、どうしたのか
(じんえもんはうんとうなったままでたおれてしまった。よにんもさすがにおどろいて)
甚右衛門はうんと唸ったままで倒れてしまった。四人もさすがにおどろいて
(かいほうしたが、もういきなかった。 「さあ、どうしよう」)
介抱したが、もう蘇きなかった。 「さあ、どうしよう」
(よにんはかおをみあわせた。とんしとしてしょうじきにとどけてでればろんはないのであるが、)
四人は顔を見あわせた。頓死として正直にとどけて出れば論はないのであるが、
(かれらはなにぶんにもうしろぐらいことがあるので、じんえもんのしをなるべくひみつに)
彼等は何分にもうしろ暗いことがあるので、甚右衛門の死をなるべく秘密に
(ふしてしまいたいとおもった。よにんはよるのふけるまでじんえもんのしがいをそこに)
付してしまいたいと思った。四人は夜のふけるまで甚右衛門の死骸をそこに
(よこたえておいて、みせのもののてまえはしょうたいなくよっているかれをかいほうしてかえるように)
横たえて置いて、店の者の手前は正体なく酔っている彼を介抱して帰るように
(みせかけて、とよきちとげんじはそのしがいをかたにかけてでた。よしべえもつきそって)
見せかけて、豊吉と源次はその死骸を肩にかけて出た。由兵衛も附き添って
(でた。しゅじんのくろうえもんもなんだかふあんなので、これもそこらまでおくってゆく)
出た。主人の九郎右衛門もなんだか不安なので、これもそこらまで送ってゆく
(ふりをしてあとからでていった。 おおゆきのよはふけて、まちにはおうらいの)
振りをして後から出て行った。 大雪の夜は更けて、町には往来の
(たえているのがかれらのためにはしあわせであった。よにんはさん、よんちょうほどもしがいを)
絶えているのが彼等のためには仕合わせであった。四人は三、四町ほども死骸を
(はこびだして、ほりばたのひよけちにすてようとしたが、なるべくいちにちでもおくれて)
はこび出して、堀端の火除け地に捨てようとしたが、なるべく一日でも後れて
(ひとのめにつくことをかんがえて、かれらはきょうりょくしてそこにおおきなゆきだるまをつくった。)
人の眼につくことを考えて、かれらは協力してそこに大きな雪達磨を作った。
(そうして、じんえもんのしがいをそのそこへふかくうめておいた。いっそおうらいへ)
そうして、甚右衛門の死骸をその底へ深く埋めて置いた。いっそ往来へ
(なげだしておいたらば、とうしかゆきだおれですんだかもしれなかったので)
投げ出して置いたらば、凍死か行き倒れで済んだかも知れなかったので
(あったが、かれらのあさはかなちえがかえっておのれにわざわいして、おもいもよらない)
あったが、かれらの浅はかな知恵が却っておのれに禍いして、思いもよらない
(あくじはっかくのたんしょをひらいたのであった。 もちろん、かれらはじんえもんのふところや)
悪事発覚の端緒を開いたのであった。 勿論、かれらは甚右衛門のふところや
(たもとからしょうことなるようなしなじなをことごとくとりだしてしまった。きくいちでかった)
袂から証拠となるような品々をことごとく取り出してしまった。菊一で買った
(なんきんだまもむろんとりだしたのであったが、こころがあわてているのでそのいくつぶかを)
南京玉も無論取り出したのであったが、心が慌てているので其の幾粒かを
(こぼしたらしい。そうして、そのなんきんだまがかれらをとうぜんのうんめいにみちびいたのであった)
こぼしたらしい。そうして、その南京玉が彼等を当然の運命に導いたのであった
(にせがねつかいのあきんどよにんときょうぼうのかざりしょくさんにんがすべてほうのごとくにしょけいされたのは)
贋金つかいの商人四人と共謀の錺職三人がすべて法のごとくに処刑されたのは
(いうまでもない。さきにしんでけいりくをまぬがれたこううんのじんえもんは、もっぱらたびさきで)
云うまでもない。先に死んで刑戮をまぬがれた幸運の甚右衛門は、専ら旅先で
(にせがねをつかっていたのであるが、ほかのあきんどよにんはえどしちゅうでたくみにしよう)
贋金をつかっていたのであるが、他の商人四人は江戸市中で巧みに使用
(したことをはくじょうした。 しかしそのそうだかはまだせんりょうにのぼらなかった。)
したことを白状した。 しかしその総高はまだ千両にのぼらなかった。