半七捕物帳 山祝いの夜6

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第14話

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問題文

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(「おい、おめえはここでなにをしていた。しょうじきにいわねえとためにならねえぞ。)

「おい、おめえはここで何をしていた。正直に云わねえと為にならねえぞ。

(おめえはこのざしきにいたきゃくのうちで、だれかしっているひとでもあるのか。)

おめえはこの座敷にいた客のうちで、誰か知っている人でもあるのか。

(ほかのじょちゅうはみんなちいさくなってひっかたまっているのに、おめえひとりは)

ほかの女中はみんな小さくなって引っ固まっているのに、おめえ一人は

(さっきからそこらをうろうろしているのは、なにかわけがあるにそういねえ。)

さっきから其処らをうろうろしているのは、なにか訳があるに相違ねえ。

(このおとこをしっているのか」と、はんしちはかやのなかにたおれているしちぞうを)

この男を識っているのか」と、半七は蚊帳のなかに倒れている七蔵を

(ゆびさしてきいた。 じょちゅうはみをすくめながらかぶりをふった。)

指さして訊いた。 女中は身をすくめながら頭をふった。

(「それじゃあつれのおとこをしっているのか」)

「それじゃあ連れの男を識っているのか」

(じょちゅうはやはりしらないといった。かのじょはおどおどしてしじゅううつむきがちで)

女中はやはり識らないと云った。彼女はおどおどして始終うつむき勝ちで

(あったが、ときどきにとこのまにならんだおしいれのほうへそのおちつかないひとみを)

あったが、ときどきに床の間に列んだ押入れの方へその落ち着かない瞳を

(くばっているらしいのが、はんしちのめについた。そのころのはたごやにはおしいれなどを)

配っているらしいのが、半七の眼についた。その頃の旅籠屋には押入れなどを

(つくっていないのがふつうであったが、このざしきはとくべつのぞうさくとみえて、)

作っていないのが普通であったが、この座敷は特別の造作とみえて、

(かたばかりのとこのまもあった。それにならんでいっけんのおしいれもついていた。)

式ばかりの床の間もあった。それに列んで一間の押入れも付いていた。

(そのおしいれをよこめにみて、はんしちはうなずいた。)

その押入れを横眼に見て、半七はうなずいた。

(「おい、ねえさん。かくしちゃいけねえ。おめえはどうしてもこのざしきの)

三 「おい、ねえさん。隠しちゃいけねえ。おめえはどうしてもこの座敷の

(さんにんのうちに、なにかかかりあいがあるにそういねえ。しょうじきにいえばよし、)

三人のうちに、何か係り合いがあるに相違ねえ。正直にいえばよし、

(さもなければおまえをひきずっていって、やくにんしゅうにひきわたすからそうおもえ。)

さもなければお前を引き摺って行って、役人衆に引き渡すからそう思え。

(そうなったら、おめえばかりじゃねえ、ほかにもめいわくするひとができるかも)

そうなったら、おめえばかりじゃねえ、ほかにも迷惑する人が出来るかも

(しれねえぜ。おめえがすなおにはくじょうしてくれれば、おれがうけあってだれにも)

知れねえぜ。おめえが素直に白状してくれれば、おれが受け合って誰にも

(めいわくをかけねえようにしてやる。まだわからねえか。おれはえどのごようききで、)

迷惑をかけねえようにしてやる。まだ判らねえか。おれは江戸の御用聞きで、

(こんやちょうどここへとまりあわせたんだ。けっしてわるいようにしねえから)

今夜丁度ここへ泊まりあわせたんだ。決して悪いようにしねえから

など

(なにもかもいってくれ」)

何もかも云ってくれ」

(はんしちのすじょうをきかされて、わかいじょちゅうはいよいよおびえたらしくみえたが、)

半七の素姓を聞かされて、若い女中はいよいよおびえたらしく見えたが、

(いろいろおどされて、すかされて、かのじょはとうとうしょうじきにはくじょうした。)

いろいろ嚇されて、賺されて、彼女はとうとう正直に白状した。

(かれはおせきというおんなで、おとどしからここにほうこうしているものであった。)

かれはお関という女で、おとどしからここに奉公している者であった。

(ゆうべこのざしきでやまいわいのさけがでたときに、おせきはそのきゅうじにでて)

ゆうべこの座敷で山祝いの酒が出たときに、お関はその給仕に出て

(みなのしゃくをしたが、とものふたりにくらべると、さすがにしゅじんのわかいぶけは)

皆の酌をしたが、供の二人にくらべると、さすがに主人の若い武家は

(みずぎわだってりっぱにみえたので、こっちもとしのわかいおせきのめはとかくに)

水際立って立派に見えたので、こっちも年の若いお関の眼は兎角に

(そのひとのほうにばかりうごいた。とものふたりはそれをはやくもみつけて、いろいろに)

その人の方にばかり動いた。供の二人はそれを早くも見つけて、いろいろに

(おせきをなぶった。そうして、おれたちにたのめばきっとだんなにとりもってやる)

お関をなぶった。そうして、おれ達にたのめばきっと旦那に取り持ってやる

(などといった。)

などと云った。

(そのじょうだんがほんとうになって、しちぞうがはばかりにいったのをおくっていったおせきは、)

その冗談がほんとうになって、七蔵が便所に行ったのを送って行ったお関は、

(ろうかでそっとかれにとりもちをたのむと、よっているしちぞうはむぞうさにうけあって、)

廊下でそっと彼に取り持ちを頼むと、酔っている七蔵は無造作に受け合って、

(おれからだんなにいいようにふきこんでやるから、うちじゅうがねしずまったころに)

おれから旦那にいいように吹き込んでやるから、家じゅうが寝静まった頃に

(しのんでこいといった。おせきはそれをまにうけて、よふけにそっとじぶんのねどこを)

忍んで来いと云った。お関はそれを真に受けて、夜ふけにそっと自分の寝床を

(ぬけだしていったが、いちのすけのざしきのまえまできてかのじょはまたちゅうちょした。)

ぬけ出して行ったが、市之助の座敷のまえまで来て彼女はまた躊躇した。

(しょうじのひきてにてをかけて、かれはきゅうにはずかしくなった。まずはなこうどの)

障子の引手に手をかけて、かれは急に恥ずかしくなった。まずは媒酌人の

(しちぞうをよびおこして、こんやのしゅびをたしかめようと、かのじょはさらにつぎのまの)

七蔵をよび起こして、今夜の首尾を確かめようと、彼女は更に次の間の

(しょうじをあけると、よいつぶれたしちぞうはかやからかたあしをだしてうわばみのような)

障子をあけると、酔い潰れた七蔵は蚊帳から片足を出して蟒蛇のような

(おおいびきをかいていた。ひとつのかやにまくらをならべているはずのきさぶろうのねどこは)

大鼾をかいていた。一つの蚊帳に枕をならべている筈の喜三郎の寝床は

(からになっていた。)

空になっていた。

(いくらゆりおこしても、しちぞうはなかなかめをさまさないので、おせきもほとほと)

いくら揺り起しても、七蔵はなかなか眼を醒まさないので、お関もほとほと

(もてあましていると、そこへきさぶろうがそとからぬっとはいってきた。かれはおせきをみて)

持て余していると、そこへ喜三郎が外からぬっとはいって来た。彼はお関を見て

(ひどくびっくりしたようなようすで、しばらくつったったままで)

ひどくびっくりしたような様子で、しばらく突っ立ったままで

(じっとにらんでいるので、おせきはいよいよきまりがわるくなって、あんどんの)

じっと睨んでいるので、お関はいよいよきまりが悪くなって、行燈の

(あぶらをさしにきたのだとごまかして、そうそうにそこをにげだした。)

油をさしに来たのだと誤魔かして、早々にそこを逃げ出した。

(それでもみれんで、かのじょはまだたちさらずにえんがわにしのんでいると、うちではしちぞうが)

それでも未練で、彼女はまだ立ち去らずに縁側に忍んでいると、内では七蔵が

(めをさましたらしかった。そうして、きさぶろうとなにかひそひそはなしあって)

眼を醒ましたらしかった。そうして、喜三郎となにかひそひそ話し合って

(いるらしかったが、やがてふたたびしょうじがそっとあいたので、おせきはろくろくに)

いるらしかったが、やがて再び障子がそっとあいたので、お関は碌々に

(そのひとのすがたもみきわめないで、あわててじぶんのへやににげてかえった。)

その人の姿も見きわめないで、あわてて自分の部屋に逃げて帰った。

(うらにかいのひとごろしがほんとうのあぶらさしのおとこにはっけんされたのは、)

裏二階の人殺しがほんとうの油差しの男に発見されたのは、

(それからこはんときののちであった。)

それから小半刻の後であった。

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