緋のエチュード 25

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タグ小説 文学
シャーロックホームズシリーズ第一弾

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問題文

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(ほろばしゃでいっていたいのりをとなえなさい」)

幌馬車で言っていた祈りを唱えなさい」

(「どうしてじぶんでいわないの?」しょうじょはふしぎそうなめでたずねた。)

「どうして自分で言わないの?」少女は不思議そうな目で尋ねた。

(「おもいだせないんだ」かれはこたえた。)

「思い出せないんだ」彼は答えた。

(「わたしはこのじゅうのはんぶんくらいだったころからいったことがない。)

「私はこの銃の半分くらいだったころから言った事がない。

(しかしおそすぎるということはないだろうな。おいのりをいってごらん。)

しかし遅すぎるということはないだろうな。お祈りを言ってごらん。

(わたしはそばにたっていっしょにいおう」)

私は側に立って一緒に言おう」

(「それならひざまずかないと。わたしもね」)

「それならひざまずかないと。私もね」

(しょうじょはそのためにしょーるをじめんにしいていった。)

少女はそのためにショールを地面に敷いて言った。

(「りょうてをこんなふうにあげて。こころがおだやかになるわ」)

「両手をこんな風に上げて。心が穏やかになるわ」

(ひめこんどるいがいにみるものがあれば、それはきみょうなこうけいだったろう。)

ヒメコンドル以外に見る者があれば、それは奇妙な光景だったろう。

(ちいさなしょーるに、ふたりのほうろうしゃが、)

小さなショールに、二人の放浪者が、

(ちいさなよくしゃべるこどもとむこうみずでがんこなぼうけんかが、)

小さな良くしゃべる子供と向こう見ずで頑固な冒険家が 、

(ならんでひざまずいていた。しょうじょのまるまるとしたかおと、)

並んでひざまずいていた。少女の丸まるとした顔と、

(おとこのつかれてやせこけたかおは、りょうほうともくもひとつないそらをみあげ、)

男の疲れて痩せこけた顔は、両方とも雲ひとつない空を見上げ、

(こころからのこんがんをいけいするかみとむかいあい、ふたつのこえが、)

心からの懇願を畏敬する神と向かい合い、二つの声が、

(ひとつはほそくとうめいかんがあり、もうひとつはひくくしわがれた、)

一つは細く透明感があり、もう一つは低くしわがれた、

(あわさってじひとゆるしをこっていた。いのりをおわり、)

合わさって慈悲と許しを請っていた。祈りを終わり、

(かれらはきょせきのかどにもういちどこしをおろした。)

彼らは巨石の角にもう一度腰を降ろした。

(ほごしゃのひろいむねにからだをよせてこどもはねむりこんだ。)

保護者の広い胸に体を寄せて子供は眠り込んだ。

(おとこはしょうじょがうたたねするのをながめていた。しかし、)

男は少女がうたた寝するのを眺めていた。しかし、

など

(このだいしぜんはかれにとってはげしすぎるとわかった。みっかみばん、)

この大自然は彼にとって激しすぎると分かった。三日三晩、

(おとこはやすんでいなかった。つかれためにゆっくりとまぶたがたれてきて、)

男は休んでいなかった。疲れた目にゆっくりと瞼が垂れてきて、

(おとこのあたまはどんどんとうなだれ、ごましおひげがしょうじょのきんぱつとあわさった。)

男の頭はどんどんとうなだれ、ごま塩髭が少女の金髪と合わさった。

(そしてふたりは、おなじようにふかくゆめのないまどろみへとおちていった。)

そして二人は、同じように深く夢のないまどろみへと落ちていった。

(このほうろうしゃがあと30ぷんおきていたら、きみょうなこうけいがめにはいっただろう。)

この放浪者があと30分起きていたら、奇妙な光景が目に入っただろう。

(あるかりのだいちのきょくげんのはしのかなたに、)

アルカリの大地の極限の端の彼方に、

(ちいさなつちぼこりがまきあがっていた。さいしょはごくわずかで、)

小さな土ぼこりが巻き上がっていた。最初はごく僅かで、

(とおくのもやとほとんどくべつがつかなかった。しかしじょじょにたかくひろく、)

遠くのもやとほとんど区別がつかなかった。しかし徐々に高く広く、

(しっかりとしてりんかくがめいりょうなくもとなるまでにせいちょうした。)

しっかりとして輪郭が明瞭な雲となるまでに成長した。

(このくもはどんどんとおおきさをましていき、)

この雲はどんどんと大きさを増して行き、

(うごいているせいぶつのたいぐんからわきおこったものにちがいないことが)

動いている生物の大群から沸き起ったものに違いない事が

(はっきりしてきた。もっとひよくなちであれば、)

はっきりしてきた。もっと肥沃な地であれば、

(これをみるものはそうげんをはむばいそんのたいぐんが)

これを見る者は草原を食むバイソンの大群が

(ちかづきつつあるというけつろんにたっしただろう。このかわききったこうやでは、)

近づきつつあるという結論に達しただろう。この乾ききった荒野では、

(あきらかにそんなことはありえなかった。ふんじんのうずが、)

明らかにそんなことはありえなかった。粉塵の渦が、

(ふたりのほうろうしゃがやすんでいるこのひとざとはなれただんがいにちかづくにつれ、)

二人の放浪者が休んでいるこの人里はなれた断崖に近づくにつれ、

(きゃんばすちのほろばしゃと、ぶそうしたぎょしゃのすがたが、)

キャンバス地の幌馬車と、武装した御者の姿が、

(もやのなかからあらわれはじめた。そしてとつぜんあらわれたものは、)

もやの中から現れ始めた。そして突然現れたものは、

(せいぶにむかうきょだいなきゃらばんたいだとわかった。)

西部に向かう巨大なキャラバン隊だと分かった。

(しかしなんというきゃらばんたいだ!)

しかしなんと言うキャラバン隊だ!

(そのせんとうがやまのふもとにとうちゃくしたとき、)

その先頭が山のふもとに到着した時、

(さいこうびはまだすいへいせんにすがたをあらわしていなかった。)

最後尾はまだ水平線に姿を現していなかった。

(きょだいなへいげんをこえてのびるのは、どこまでもつらなる、よりんばしゃ、)

巨大な平原を越えて伸びるのは、どこまでも連なる、四輪馬車、

(にりんばしゃ、うまにまたがったおとこたち、とほのおとこたちのならびだ。)

二輪馬車、馬にまたがった男達、徒歩の男達の並びだ。

(かぞえきれないほどのじょせいがにもつをせによろよろあるき、)

数え切れないほどの女性が荷物を背によろよろ歩き、

(そしてこどもはにばしゃのよこをよちよちあるくかしろいほろのしたから)

そして子供は荷馬車の横をよちよち歩くか白い幌の下から

(かおをのぞかせた。これはあきらかにふつうのいじゅうしゃのいちだんではなかった。)

顔をのぞかせた。これは明らかに普通の移住者の一団ではなかった。

(むしろかんきょうのあつりょくからやむをえずしんてんちをさがしているほうろうのたみだった。)

むしろ環境の圧力からやむを得ず新天地を探している放浪の民だった。

(しゃりんのきしみやうまのいななきとともに、ひじょうにおおくのにんげんからでる、)

車輪の軋みや馬のいななきと共に、非常に多くの人間から出る、

(こんらんしたがたがた、ごとごというおとが、すんだたいきにひびきわたった。)

混乱したガタガタ、ゴトゴト言う音が、澄んだ大気に響き渡った。

(いかにこのおとがうるさくても、)

いかにこの音がうるさくても、

(かれらのずじょうにいるつかれたほうろうしゃをめざめさせるにはじゅうぶんではなかった。)

彼らの頭上にいる疲れた放浪者を目覚めさせるには十分ではなかった。

(たいれつのせんとうには、きびしい、いしがかたそうなかおをしてうまにのったおとこが、)

隊列の先頭には、厳しい、意志が堅そうな顔をして馬に乗った男が、

(じゅうにんいじょういた。かれらは、くろっぽいておりのふくをまとい、)

十人以上いた。彼らは、黒っぽい手織りの服をまとい、

(らいふるでぶそうしていた。だんがいのふもとにくるとかれらはたちどまり、)

ライフルで武装していた。断崖の麓に来ると彼らは立ち止まり、

(かんたんなかいぎをおこなった。)

簡単な会議を行った。

(「みぎにいくといどがある、きょうだい」ひとりがいった。しらがまじりのかみで、)

「右に行くと井戸がある、兄弟」一人が言った。白髪混じりの髪で、

(きれいにひげをそり、くちをしっかりとむすんだおとこだった。)

綺麗に髭を剃り、口をしっかりと結んだ男だった。

(「ぶらんこさんみゃくのみぎにいけば、・・・りおぐらんでにつくだろう」)

「ブランコ山脈の右に行けば、・・・リオ・グランデに着くだろう」

(べつのおとこがいった。)

別の男が言った。

(「みずのしんぱいはない」さんばんめのおとこがいった。)

「水の心配はない」三番目の男が言った。

(「いわからみずをひきだすことができたかみが、)

「岩から水を引き出すことができた神が、

(みずからえらんだたみをここでみすてようか」)

自ら選んだ民をここで見捨てようか」

(「あーめん!あーめん!」ぜんいんがこたえた。)

「アーメン!アーメン!」全員が応えた。

(かれらがたびをつづけようとしたとき、)

彼らが旅を続けようとした時、

(いちばんわかくするどいめをしたおとこがおどろきのさけびをあげ、)

一番若く鋭い目をした男が驚きの叫びを上げ、

(ずじょうのごつごつしたいわやまをゆびさした。そのいただきに、)

頭上のごつごつした岩山を指差した。その頂きに、

(うしろのはいいろのいわをせにしてくっきりとあかるく、)

後ろの灰色の岩を背にしてくっきりと明るく、

(ぴんくいろのちいさいものがはためいていた。これをみて、)

ピンク色の小さいものがはためいていた。これを見て、

(ひとりのせんとういんがうまのたづなをひき、じゅうをてにした。)

一人の戦闘員が馬の手綱を引き、銃を手にした。

(せんどうしゃをしえんするため、うまにのったおとこたちがあらたにかけよった。)

先導者を支援するため、馬に乗った男達が新たに駆け寄った。

(「いんでぃあんだ」ということばがみなのくちにあがった。)

「インディアンだ」という言葉が皆の口に上がった。

(「ここにはいんでぃあんはひとりもいないはずだ」)

「ここにはインディアンは一人もいないはずだ」

(しきをとっているらしいろうじんがいった。「ぽにーぞくのとちをすぎた。)

指揮をとっているらしい老人が言った。「ポニー族の土地を過ぎた。

(さんみゃくをこえるまではほかのしゅぞくはいないが」)

山脈を越えるまでは他の種族はいないが」

(「いってみてこようか、すたんがーそんきょうだい?」たいれつのひとりがたずねた。)

「行って見て来ようか、スタンガーソン兄弟?」隊列の一人が尋ねた。

(「おれも」「おれも」たくさんのこえがした。)

「俺も」「俺も」沢山の声がした。

(「うまはしたにおいていけ。われわれはここでまつ」ろうじんはこたえた。そのしゅんかん、)

「馬は下に置いていけ。我々はここで待つ」老人は答えた。その瞬間、

(わかいおとこたちはうまをおり、たづなをしばって、)

若い男達は馬を下り、手綱を縛って、

(きりたったしゃめんをかれらのきょうみをひいたぶったいにむかってのぼっていた。)

切り立った斜面を彼らの興味を引いた物体に向かって登っていた。

(かれらはじゅくれんのていさつたいのじしんときようさですばやくしずかにすすんだ。)

彼らは熟練の偵察隊の自信と器用さで素早く静かに進んだ。

(したのへいげんからみあげると、かれらはいわからいわにみがるにとびうつり、)

下の平原から見上げると、彼らは岩から岩に身軽に飛び移り、

(ついにはかれらのからだのせんがそらをはいけいにつきでてみえた。)

遂には彼らの体の線が空を背景に突き出て見えた。

(さいしょにけいこくをはっしたせいねんがせんとうにたっていた。)

最初に警告を発した青年が先頭に立っていた。

(それをおいかけていたおとこたちは、)

それを追いかけていた男たちは、

(このせいねんがおどろきをこらえきれないように、)

この青年が驚きをこらえきれないように、

(とつぜんてをあげるのをめにした。おいついてそのこうけいをみたしゅんかん、)

突然手を上げるのを目にした。追いついてその光景を見た瞬間、

(かれらもおなじようなかんがいにとらわれた。)

彼らも同じような感慨にとらわれた。

(ふもうなおかにかこまれたちいさなたかだいに、きょだいなまるいしがあり、)

不毛な丘に囲まれた小さな高台に、巨大な丸石があり、

(このきょせきにもたれて、せのたかいおとこがよこたわっていた。)

この巨石にもたれて、背の高い男が横たわっていた。

(ひげはながくきびしいかおつきだったがきょくたんにやせほそっていた。)

髭は長く厳しい顔つきだったが極端にやせ細っていた。

(おだやかなかおできそくてきなこきゅうをしていたので、)

穏やかな顔で規則的な呼吸をしていたので、

(かれはぐっすりねむっているとわかった。おとこのよこにこどもがねていた。)

彼はぐっすり眠っていると分かった。男の横に子供が寝ていた。

(こどもは、おとこのちゃいろいすじばったくびにしろいまるまるとしたてをまわし、)

子供は、男の茶色い筋張った首に白い丸々とした手を回し、

(きんぱつのあたまをおとこのべるべっとのうわぎのむねにねかせていた。)

金髪の頭を男のベルベットの上着の胸に寝かせていた。

(しょうじょのばらのようなくちびるはひらかれており、)

少女の薔薇のような唇は開かれており、

(ゆきのようにしろいきれいなはならびをのぞかせて、)

雪のように白い綺麗な歯並びを覗かせて、

(こどもっぽいかおにようきなえみがひろがっていた。)

子供っぽい顔に陽気な笑みが広がっていた。

(しょうじょのにくづきのよいちいさなあしのさきには、)

少女の肉付きの良い小さな足の先には、

(しろいくつしたととめがねがぴかぴかのきれいなくつがはかされていて、)

白い靴下と留め金がピカピカの綺麗な靴が履かされていて、

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