紫式部 源氏物語 夕顔 6 與謝野晶子訳

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(はちがつのじゅうごやであった。あかるいげっこうがいたやねのすきまだらけのいえのなかへ)

八月の十五夜であった。明るい月光が板屋根の隙間だらけの家の中へ

(さしこんで、せまいいえのなかのものがげんじのめにめずらしくみえた。もうよあけにちかい)

さし込んで、狭い家の中の物が源氏の目に珍しく見えた。もう夜明けに近い

(じこくなのであろう。きんじょのいえいえでまずしいおとこたちがめをさましてこうしょうではなすのが)

時刻なのであろう。近所の家々で貧しい男たちが目をさまして高声で話すのが

(きこえた。 「ああさむい。ことしこそもうしょうばいのうまくいくじしんが)

聞こえた。 「ああ寒い。今年こそもう商売のうまくいく自信が

(もてなくなった。ちほうまわりもできそうでないんだからこころぼそいものだ。きたどなりさん、)

持てなくなった。地方廻りもできそうでないんだから心細いものだ。北隣さん、

(まあおききなさい」 などといっているのである。あわれなそのひそのひのしごとの)

まあお聞きなさい」 などと言っているのである。哀れなその日その日の仕事の

(ためにおきだして、そろそろろうどうをはじめるおとなどもちかいところでするのをおんなは)

ために起き出して、そろそろ労働を始める音なども近い所でするのを女は

(はずかしがっていた。きどったおんなであればしぬほどきまりのわるさをかんじるばしょに)

恥ずかしがっていた。気どった女であれば死ぬほどきまりの悪さを感じる場所に

(ちがいない。でもゆうがおはおおようにしていた。ひとのうらめしさも、じぶんのかなしさも、)

違いない。でも夕顔はおおようにしていた。人の恨めしさも、自分の悲しさも、

(たいめんのたもたれぬきまりわるさも、できるだけおもったとはみせまいとはするふうで、)

体面の保たれぬきまり悪さも、できるだけ思ったとは見せまいとはするふうで、

(じぶんじしんはきぞくのこらしく、むすめらしくして、ひどいきんじょのかいわのないようも)

自分自身は貴族の子らしく、娘らしくして、ひどい近所の会話の内容も

(わからぬようであるのが、はじいられたりするよりもかんじがよかった。)

わからぬようであるのが、恥じ入られたりするよりも感じがよかった。

(ごほごほとかみなりいじょうのこわいおとをさせるからうすなども、すぐねどこのそばでなるように)

ごほごほと雷以上の恐い音をさせる唐臼なども、すぐ寝床のそばで鳴るように

(きこえた。げんじもやかましいとこれはおもった。けれどもこのきこうしも)

聞こえた。源氏もやかましいとこれは思った。けれどもこの貴公子も

(なにからおこるおととはしらないのである。おおきなたまらぬおんきょうのするなにかだと)

何から起こる音とは知らないのである。大きなたまらぬ音響のする何かだと

(おもっていた。そのほかにもまだおおくのさわがしいざつおんがきこえた。しろいあさぬのをうつ)

思っていた。そのほかにもまだ多くの騒がしい雑音が聞こえた。白い麻布を打つ

(きぬたのかすかなおともあちこちにした。そらをゆくかりのこえもした。あきのひあいが)

砧のかすかな音もあちこちにした。空を行く雁の声もした。秋の悲哀が

(しみじみとかんじられる。にわにちかいへやであったから、よこのひきどをあけてふたりで)

しみじみと感じられる。庭に近い室であったから、横の引き戸を開けて二人で

(そとをながめるのであった。ちいさいにわにしゃれたすがたのたけがたっていて、くさのうえの)

外をながめるのであった。小さい庭にしゃれた姿の竹が立っていて、草の上の

(つゆはこんなところのもにじょうのいんのせんざいのにかわらずきらきらとひかっている。)

露はこんなところのも二条の院の前栽のに変わらずきらきらと光っている。

など

(むしもたくさんないていた。かべのなかでなくといわれてにんげんのいばしょにもっともちかく)

虫もたくさん鳴いていた。壁の中で鳴くといわれて人間の居場所に最も近く

(なくものになっているこおろぎでさえもげんじはとおくのこえだけしか)

鳴くものになっている蟋蟀でさえも源氏は遠くの声だけしか

(きいていなかったが、ここではどのむしもみみのそばへとまってなくような)

聞いていなかったが、ここではどの虫も耳のそばへとまって鳴くような

(ふうがわりなじょうしゅだとげんじがおもうのも、ゆうがおをふかくあいするこころがなにごともわるくは)

風変わりな情趣だと源氏が思うのも、夕顔を深く愛する心が何事も悪くは

(おもわせないのであろう。しろいあわせにやわらかいうすむらさきをかさねたはなやかなすがたではない、)

思わせないのであろう。白い袷に柔らかい淡紫を重ねたはなやかな姿ではない、

(ほっそりとしたひとで、どこかきわだってひじょうによいというところはないが)

ほっそりとした人で、どこかきわだって非常によいというところはないが

(せんさいなかんじのするびじんで、ものをいうようすによわよわしいかれんさがじゅうぶんにあった。)

繊細な感じのする美人で、ものを言う様子に弱々しい可憐さが十分にあった。

(さいきらしいものをすこしこのひとにそえたらとげんじはひひょうてきにみながらも、もっと)

才気らしいものを少しこの人に添えたらと源氏は批評的に見ながらも、もっと

(このひとをしりたいきがして、 「さあでかけましょう。このちかくのあるいえへ)

この人を知りたい気がして、 「さあ出かけましょう。この近くのある家へ

(いって、きらくにあすまではなしましょう。こんなふうでいつもくらいあいだに)

行って、気楽に明日まで話しましょう。こんなふうでいつも暗い間に

(わかれていかなければならないのはくるしいから」 というと、)

別れていかなければならないのは苦しいから」 と言うと、

(「どうしてそんなにきゅうなことをおいいだしになりますの」)

「どうしてそんなに急なことをお言い出しになりますの」

(おおようにゆうがおはいっていた。かわらぬこいをしごのせかいにまでつづけようとげんじの)

おおように夕顔は言っていた。変わらぬ恋を死後の世界にまで続けようと源氏の

(ちかうのをみるとなんのぎねんもはさまずにしんじてよろこぶようすなどのうぶさは、)

誓うのを見ると何の疑念もはさまずに信じてよろこぶ様子などのうぶさは、

(いちどけっこんしたけいけんのあるおんなとはおもえないほどかれんであった。げんじはもうだれの)

一度結婚した経験のある女とは思えないほど可憐であった。源氏はもうだれの

(おもわくもはばかるきがなくなって、うこんにずいしんをよばせて、くるまをにわへ)

思わくもはばかる気がなくなって、右近に随身を呼ばせて、車を庭へ

(いれることをめいじた。ゆうがおのにょうぼうたちも、このかようおとこがおんなあるじを)

入れることを命じた。夕顔の女房たちも、この通う男が女主人を

(ふかくあいしていることをしっていたから、だれともわからずにいながらそうとうに)

深く愛していることを知っていたから、だれともわからずにいながら相当に

(しんらいしていた。)

信頼していた。

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