紫式部 源氏物語 夕顔 15 與謝野晶子訳

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1 omochi 7725 8.0 96.3% 312.6 2510 95 37 2024/10/07
2 subaru 7619 7.9 96.3% 313.8 2484 93 37 2024/10/15
3 berry 7616 7.7 97.7% 316.4 2467 57 37 2024/11/16
4 ヤス 7214 7.5 95.4% 329.9 2499 119 37 2024/10/04
5 デコポン 6804 S++ 6.9 97.8% 356.4 2480 55 37 2024/10/16

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問題文

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(「わたくしにもういちど、せめてこえだけでもきかせてください。どんなぜんしょうのえんだったか)

「私にもう一度、せめて声だけでも聞かせてください。どんな前生の縁だったか

(わずかなあいだのかんけいであったが、わたくしはあなたにけいとうした。それだのにわたくしをこのよに)

わずかな間の関係であったが、私はあなたに傾倒した。それだのに私をこの世に

(すてておいて、こんなかなしいめをあなたはみせる」 もうなきごえもおしまず)

捨てて置いて、こんな悲しい目をあなたは見せる」 もう泣き声も惜しまず

(はばからぬげんじだった。そうたちもだれとはわからぬながら、ししゃにたちがたい)

はばからぬ源氏だった。僧たちもだれとはわからぬながら、死者に断ちがたい

(あいちゃくをもつらしいおとこのしゅつげんをみて、みななみだをこぼした。げんじはうこんに、)

愛着を持つらしい男の出現を見て、皆涙をこぼした。源氏は右近に、

(「あなたはにじょうのいんへこなければならない」 といったのであるが、)

「あなたは二条の院へ来なければならない」 と言ったのであるが、

(「ながいあいだ、それはちいさいときからかたときもおはなれしませんでおせわになりました)

「長い間、それは小さい時から片時もお離れしませんでお世話になりました

(ごしゅじんににわかにおわかれいたしまして、わたくしはいきてかえろうとおもうところが)

御主人ににわかにお別れいたしまして、私は生きて帰ろうと思う所が

(ございません。おくさまがどうおなりになったかということを、どうほかのひとに)

ございません。奥様がどうおなりになったかということを、どうほかの人に

(はなしができましょう。おくさまをおなくししましたほかに、わたくしはまたみなに)

話ができましょう。奥様をお亡くししましたほかに、私はまた皆に

(どういわれるかということもかなしゅうございます」 こういってうこんは)

どう言われるかということも悲しゅうございます」 こう言って右近は

(なきやまない。 「わたくしもおくさまのけむりといっしょにあのよへまいりとうございます」)

泣きやまない。 「私も奥様の煙といっしょにあの世へ参りとうございます」

(「もっともだがしかし、じんせいとはこんなものだ。わかれというものに)

「もっともだがしかし、人世とはこんなものだ。別れというものに

(かなしくないものはないのだ。どんなことがあってもじゅみょうのあるあいだには)

悲しくないものはないのだ。どんなことがあっても寿命のある間には

(しねないのだよ。きをしずめてわたくしをしんらいしてくれ」 というげんじが、また、)

死ねないのだよ。気を静めて私を信頼してくれ」 と言う源氏が、また、

(「しかしそういうわたくしも、このかなしみでどうなってしまうかわからない」)

「しかしそういう私も、この悲しみでどうなってしまうかわからない」

(というのであるからこころぼそい。 「もうあけがたにちかいころだとおもわれます。)

と言うのであるから心細い。 「もう明け方に近いころだと思われます。

(はやくおかえりにならなければいけません」 これみつがこううながすので、)

早くお帰りにならなければいけません」 惟光がこう促すので、

(げんじはかえりみばかりがされて、むねもかなしみにふさがらせたままきとについた。)

源氏は顧みばかりがされて、胸も悲しみにふさがらせたまま帰途についた。

(つゆのおおいみちにあついあさぎりがたっていて、このままこのよでないくにへいくような)

露の多い路に厚い朝霧が立っていて、このままこの世でない国へ行くような

など

(さびしさがあじわわれた。ぼういんのねやにいたままのふうでゆうがおがねていたこと、)

寂しさが味わわれた。某院の閨にいたままのふうで夕顔が寝ていたこと、

(そのよるうえにかけてねたげんじじしんのべにのひとえにまだまかれていたこと、)

その夜上に掛けて寝た源氏自身の紅の単衣にまだ巻かれていたこと、

(などをおもって、ぜんたいあのひととじぶんはどんなぜんしょうのいんねんがあったのであろうと、)

などを思って、全体あの人と自分はどんな前生の因縁があったのであろうと、

(こんなことをみちみちげんじはおもった。うまをはかばかしくぎょしていけるふうでも)

こんなことを途々源氏は思った。馬をはかばかしく御して行けるふうでも

(なかったから、これみつがよこにそっていった。かもがわづつみにきてとうとうげんじは)

なかったから、惟光が横に添って行った。加茂川堤に来てとうとう源氏は

(らくばしたのである。しっしんしたふうで、 「いえのなかでもないこんなところで)

落馬したのである。失心したふうで、 「家の中でもないこんな所で

(じぶんはしぬうんめいなんだろう。にじょうのいんまではとうていいけないきがする」)

自分は死ぬ運命なんだろう。二条の院まではとうてい行けない気がする」

(といった。これみつのあたまもこんらんじょうたいにならざるをえない。じぶんがしかとした)

と言った。惟光の頭も混乱状態にならざるをえない。自分が確とした

(にんげんだったら、あんなことをげんじがおいいになっても、けいそつにこんなあんないは)

人間だったら、あんなことを源氏がお言いになっても、軽率にこんな案内は

(しなかったはずだとおもうとかなしかった。かわのみずでてをあらってきよみずのかんのんを)

しなかったはずだと思うと悲しかった。川の水で手を洗って清水の観音を

(おがみながらも、どんなしょちをとるべきだろうとはんもんした。げんじもしいてじしんを)

拝みながらも、どんな処置をとるべきだろうと煩悶した。源氏もしいて自身を

(はげまして、こころのなかでみほとけをねんじ、そしてこれみつたちのたすけもかりてにじょうのいんへ)

励まして、心の中で御仏を念じ、そして惟光たちの助けも借りて二条の院へ

(いきついた。 まいよつづいてふきそくなじかんのでいりをにょうぼうたちが、)

行き着いた。 毎夜続いて不規則な時間の出入りを女房たちが、

(「みぐるしいことですね。ちかごろはへいぜいよりもよくおしのびをなさるなかでもきのうは)

「見苦しいことですね。近ごろは平生よりもよく微行をなさる中でも昨日は

(たいへんおかげんがわるいふうだったでしょう。そんなでおありになってまた)

たいへんお加減が悪いふうだったでしょう。そんなでおありになってまた

(おでかけになったりなさるのですから、こまったことですね」)

お出かけになったりなさるのですから、困ったことですね」

(こんなふうにたんそくをしていた。)

こんなふうに歎息をしていた。

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