紫式部 源氏物語 夕顔 20 與謝野晶子訳(終)
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問題文
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(げんじはせめてゆめにでもゆうがおをみたいと、ながくねがっていたがひえいでほうじをした)
源氏はせめて夢にでも夕顔を見たいと、長く願っていたが比叡で法事をした
(つぎのばん、ほのかではあったが、やはりそのひとのいたばしょはそれがしのいんで、げんじが)
次の晩、ほのかではあったが、やはりその人のいた場所は某の院で、源氏が
(まくらもとにすわったすがたをみたおんなをそこにそったゆめをみた。このことで、こうはいした)
枕もとにすわった姿を見た女をそこに添った夢を見た。このことで、荒廃した
(いえなどにすむあやかしが、うつくしいげんじにこいをしたがために、あいじんを)
家などに済む妖怪が、美しい源氏に恋をしたがために、愛人を
(とりころしたのであるとふしぎがかいけつされたのである。げんじじしんもずいぶん)
取り殺したのであると不思議が解決されたのである。源氏自身もずいぶん
(きけんだったことをしっておそろしかった。
いよのすけがじゅうがつのはじめにしこくへ)
危険だったことを知って恐ろしかった。
伊予介が十月の初めに四国へ
(たつことになった。さいくんをつれていくことになっていたから、ふつうのばあいよりも)
立つことになった。細君をつれて行くことになっていたから、普通の場合よりも
(おおくのせんべつひんがげんじからおくられた。またそのほかにもひみつなおくりものがあった。)
多くの餞別品が源氏から贈られた。またそのほかにも秘密な贈り物があった。
(ついでにうつせみのぬけがらといったなつのうすものもかえしてやった。
)
ついでに空蝉の脱殻と言った夏の薄衣も返してやった。
(あうまでのかたみばかりとみしほどにひたすらそでのくちにけるかな
)
逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖の朽ちにけるかな
(こまごましいてがみのないようはしょうりゃくする。おくりもののつかいはかえってしまったが、そのあとで)
細々しい手紙の内容は省略する。贈り物の使いは帰ってしまったが、そのあとで
(うつせみはこぎみをつかいにしてこうちぎのへんかだけをした。
)
空蝉は小君を使いにして小袿の返歌だけをした。
(せみのはもたちかえてけるなつごろもかえすをみてもねはなかれけり
)
蝉の羽もたち変へてける夏ごろもかへすを見ても音は泣かれけり
(げんじはうつせみをおもうと、ふつうのじょせいのとりえないたいどをとりつづけたおんなともこれで)
源氏は空蝉を思うと、普通の女性のとりえない態度をとり続けた女ともこれで
(わかれてしまうのだとなげかれて、うんめいのつめたさというようなものがかんぜられた。)
別れてしまうのだと歎かれて、運命の冷たさというようなものが感ぜられた。
(きょうからふゆのきにはいるひは、いかにもそれらしく、しぐれがこぼれたりして、)
今日から冬の季にはいる日は、いかにもそれらしく、時雨がこぼれたりして、
(そらのいろもみにしんだ。しゅうじつげんじはものおもいをしていて、
)
空の色も身に沁んだ。終日源氏は物思いをしていて、
(すぎにしもきょうわかるるもふたみちにゆくかたしらぬあきのくれかな
)
過ぎにしも今日別るるも二みちに行く方知らぬ秋の暮かな
(などとおもっていた。ひみつなこいをするもののくるしさがげんじにわかったであろうと)
などと思っていた。秘密な恋をする者の苦しさが源氏にわかったであろうと
(おもわれる。
こうしたうつせみとかゆうがおとかいうようなはなやかでないおんなと)
思われる。
こうした空蝉とか夕顔とかいうようなはなやかでない女と
など
(げんじがしたこいのはなしは、げんじじしんがひじょうにかくしていたことがあるからとおもって、)
源氏がした恋の話は、源氏自身が非常に隠していたことがあるからと思って、
(さいしょはかかなかったのであるが、ていおうのこだからといって、そのこいびとまでが)
最初は書かなかったのであるが、帝王の子だからといって、その恋人までが
(みなかんぜんにちかいじょせいで、いいことばかりがかかれているではないかといって、)
皆完全に近い女性で、いいことばかりが書かれているではないかといって、
(かさくしたもののようにいうひとがあったから、これらをおぎなってかいた。)
仮作したもののように言う人があったから、これらを補って書いた。
(なんだかげんじにすまないきがする。)
なんだか源氏に済まない気がする。