紫式部 源氏物語 若紫 20 與謝野晶子訳

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 HAKU 7937 8.1 97.1% 394.2 3224 95 47 2024/10/24
2 subaru 7678 7.9 96.3% 401.0 3200 121 47 2024/10/28
3 berry 7425 7.6 97.5% 418.0 3185 81 47 2024/11/01
4 おもち 7317 7.5 96.4% 422.4 3208 117 47 2024/10/27
5 だだんどん 6369 S 6.8 93.2% 465.0 3195 233 47 2024/11/21

問題文

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(にじょうのいんはちかかったから、まだあかるくならないうちについて、にしのたいに)

二条の院は近かったから、まだ明るくならないうちに着いて、西の対に

(くるまをよせておりた。げんじはひめぎみをかるそうにだいておろした。)

車を寄せて降りた。源氏は姫君を軽そうに抱いて降ろした。

(「ゆめのようなきでここまではまいりましたが、わたくしはどうしたら」)

「夢のような気でここまでは参りましたが、私はどうしたら」

(しょうなごんはげしゃするのをちゅうちょした。 「どうでもいいよ。もうにょおうさんが)

少納言は下車するのを躊躇した。 「どうでもいいよ。もう女王さんが

(こちらへきてしまったのだから、きみだけかえりたければおくらせよう」)

こちらへ来てしまったのだから、君だけ帰りたければ送らせよう」

(げんじがつよかった。しかたなしにしょうなごんもおりてしまった。このにわかのへんどうに)

源氏が強かった。しかたなしに少納言も降りてしまった。このにわかの変動に

(せんこくからむねがなりつづけているのである。みやがじぶんをどうおせめになるだろうと)

先刻から胸が鳴り続けているのである。宮が自分をどうお責めになるだろうと

(おもうこともくろうのひとつであった。それにしてもひめぎみはどうなっておしまいになる)

思うことも苦労の一つであった。それにしても姫君はどうなっておしまいになる

(うんめいなのであろうとおもって、ともかくもははやそぼにはやくおわかれになるようなかたは)

運命なのであろうと思って、ともかくも母や祖母に早くお別れになるような方は

(まぎれもないふこうなかたであることがわかるとおもうと、なみだがとめどなく)

紛れもない不幸な方であることがわかると思うと、涙がとめどなく

(ながれそうであったが、しかもこれがひめぎみのこんかへおうつりになるだいいちにちであると)

流れそうであったが、しかもこれが姫君の婚家へお移りになる第一日であると

(おもうと、えんぎわるくなくことはえんりょしなくてはならないとつとめていた。)

思うと、縁起悪く泣くことは遠慮しなくてはならないと努めていた。

(ここはへいぜいあまりつかわれないごてんであったからちょうだいなどもおかれてなかった。)

ここは平生あまり使われない御殿であったから帳台なども置かれてなかった。

(げんじはこれみつをよんでちょうだい、びょうぶなどをそのばしょばしょにすえさせた。これまで)

源氏は惟光を呼んで帳台、屏風などをその場所場所に据えさせた。これまで

(うえへあげてかけてあったきちょうのたれぎぬはおろせばいいだけであったし、)

上へあげて掛けてあった几帳の垂れ絹はおろせばいいだけであったし、

(たたみのざなどもすこしおきなおすだけですんだのである。ひがしのたいへよぎるいを)

畳の座なども少し置き直すだけで済んだのである。東の対へ夜着類を

(とりにやってねた。ひめぎみはおそろしがって、じぶんをどうするのだろうとおもうと)

取りにやって寝た。姫君は恐ろしがって、自分をどうするのだろうと思うと

(ふるえがでるのであったが、さすがにこえをたててなくことはしなかった。)

慄えが出るのであったが、さすがに声を立てて泣くことはしなかった。

(「しょうなごんのところでわたくしはねるのよ」 こどもらしいこえでいう。)

「少納言の所で私は寝るのよ」 子供らしい声で言う。

(「もうあなたはめのとなどとねるものではありませんよ」 とげんじがおしえると、)

「もうあなたは乳母などと寝るものではありませんよ」 と源氏が教えると、

など

(かなしがってなきねをしてしまった。めのとはねむることもできず、)

悲しがって泣き寝をしてしまった。乳母は眠ることもできず、

(ただむやみになかれた。 あけてゆくあさのひかりをみわたすと、たてものやしつないのそうしょくは)

ただむやみに泣かれた。 明けてゆく朝の光を見渡すと、建物や室内の装飾は

(いうまでもなくりっぱで、にわのしきすななどもたまをかさねたもののように)

いうまでもなくりっぱで、庭の敷き砂なども玉を重ねたもののように

(うるわしかった。しょうなごんはじしんがひんじゃくにおもわれてきまりがわるかったが、このごてんには)

美しかった。少納言は自身が貧弱に思われてきまりが悪かったが、この御殿には

(にょうぼうがいなかった。あまりしたしくないきゃくなどをむかえるだけのざしきに)

女房がいなかった。あまり親しくない客などを迎えるだけの座敷に

(なっていたから、おとこのさむらいだけがえんのそとでようをきくだけだった。そうしたひとたちは)

なっていたから、男の侍だけが縁の外で用を聞くだけだった。そうした人たちは

(あらたにげんじがむかえいれたじょせいのあるのをきいて、 「だれだろう、)

新たに源氏が迎え入れた女性のあるのを聞いて、 「だれだろう、

(よほどおすきなかたなんだろう」 などとささやいていた。げんじのせんめんのみずも、)

よほどお好きな方なんだろう」 などとささやいていた。源氏の洗面の水も、

(あさのしょくじもこちらへはこばれた。おそくなってからおきて、げんじはしょうなごんに、)

朝の食事もこちらへ運ばれた。遅くなってから起きて、源氏は少納言に、

(「にょうぼうたちがいないではふじゆうだろうから、あちらにいたなんにんかをゆうがたごろに)

「女房たちがいないでは不自由だろうから、あちらにいた何人かを夕方ごろに

(むかえにやればいい」 といって、それからとくにちいさいものだけがくるようにと)

迎えにやればいい」 と言って、それから特に小さい者だけが来るようにと

(ひがしのたいのほうへどうじょをよびにやった。しばらくしてあいらしいすがたのこがよにんきた。)

東の対のほうへ童女を呼びにやった。しばらくして愛らしい姿の子が四人来た。

(にょおうはきものにくるまったままでまだよこになっていたのをげんじはむりにおこして、)

女王は着物にくるまったままでまだ横になっていたのを源氏は無理に起こして、

(「わたくしにいじわるをしてはいけませんよ。はくじょうなおとこはけっしてこんなものじゃ)

「私に意地悪をしてはいけませんよ。薄情な男は決してこんなものじゃ

(ありませんよ。おんなはきもちのやわらかなのがいいのですよ」 もうこんなふうに)

ありませんよ。女は気持ちの柔らかなのがいいのですよ」 もうこんなふうに

(おしえはじめた。ひめぎみのかおはすこしとおくからみていたときよりもずっとうつくしかった。)

教え始めた。姫君の顔は少し遠くから見ていた時よりもずっと美しかった。

(きにいるようなはなしをしたり、おもしろいえとかあそびごとをするどうぐとかをひがしのたいへ)

気に入るような話をしたり、おもしろい絵とか遊び事をする道具とかを東の対へ

(とりにやるとかして、げんじはにょおうのきげんをなおさせるのにほねをおった。)

取りにやるとかして、源氏は女王の機嫌を直させるのに骨を折った。

(やっとおきてもふくのややこいねずみのふくのきふるしてやわらかになったのをきた)

やっと起きて喪服のやや濃い鼠の服の着古して柔らかになったのを着た

(ひめぎみのかおにえみがうかぶようになると、げんじのかおにもしぜんえみがのぼった。)

姫君の顔に笑みが浮かぶようになると、源氏の顔にも自然笑みが上った。

(げんじがひがしのたいへいったあとでひめぎみはしんしつをでて、こだちのうつくしいつきやまや)

源氏が東の対へ行ったあとで姫君は寝室を出て、木立ちの美しい築山や

(いけのほうなどをみすのなかからのぞくと、ちょうどしもがれどきのにわのうえこみが)

池のほうなどを御簾の中からのぞくと、ちょうど霜枯れ時の庭の植え込みが

(えがいたえのようによくて、へいぜいみることのすくないくろのせいそうをしたしいや、)

描いた絵のようによくて、平生見ることの少ない黒の正装をした四位や、

(あかをきたごいのかんじんがまじりまじりにではいりしていた。)

赤を着た五位の官人がまじりまじりに出はいりしていた。

(げんじがいっていたようにほんとうにここはよいいえであるとにょおうはおもった。)

源氏が言っていたようにほんとうにここはよい家であると女王は思った。

(びょうぶにかかれたおもしろいえなどをみてまわって、にょおうはたよりないきょうのこころの)

屏風にかかれたおもしろい絵などを見てまわって、女王はたよりない今日の心の

(なぐさめにしているらしかった。)

慰めにしているらしかった。

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