紫式部 源氏物語 末摘花 13 與謝野晶子訳

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(よくじつみょうぶがせいりょうでんにでていると、そのだいばんどころをげんじがのぞいて、)

翌日命婦が清涼殿に出ていると、その台盤所を源氏がのぞいて、

(「さあへんじだよ。どうもはれがましくてかたくなってしまったよ」)

「さあ返事だよ。どうも晴れがましくて堅くなってしまったよ」

(とてがみをなげた。おおぜいいたにょかんたちはげんじのてがみのないようをいろいろに)

と手紙を投げた。おおぜいいた女官たちは源氏の手紙の内容をいろいろに

(そうぞうした。「たたらめのはなのごと、みかさのやまのおとめをばすてて」というかしを)

想像した。「たたらめの花のごと、三笠の山の少女をば棄てて」という歌詞を

(うたいながらげんじはいってしまった。またあかいはなのうたであるとおもうと、みょうぶは)

歌いながら源氏は行ってしまった。また赤い花の歌であると思うと、命婦は

(おかしくなってわらっていた。りゆうをしらないにょうぼうらはくちぐちに、)

おかしくなって笑っていた。理由を知らない女房らは口々に、

(「なぜひとりわらいをしていらっしゃるの」 といった。)

「なぜひとり笑いをしていらっしゃるの」 と言った。

(「いいえさむいしものあさにね、「たたらめのはなのごとかいねりこのむや」という)

「いいえ寒い霜の朝にね、『たたらめの花のごと掻練好むや』という

(うたのように、あかくなったはなをまぎらすようにあかいかいねりをきていたのをいつか)

歌のように、赤くなった鼻を紛らすように赤い掻練を着ていたのをいつか

(みつかったのでしょう」 とたゆうのみょうぶがいうと、)

見つかったのでしょう」 と大輔の命婦が言うと、

(「わざわざあんなうたをおうたいになるほどあかいはなのひともここにはいないでしょう。)

「わざわざあんな歌をお歌いになるほど赤い鼻の人もここにはいないでしょう。

(さこんのみょうぶさんかひごのうねめがいっしょだったのでしょうか、そのときは」)

左近の命婦さんか肥後の采女がいっしょだったのでしょうか、その時は」

(などと、そのひとたちはげんじのなぞのいみにじしんらがかんけいのあるようにも)

などと、その人たちは源氏の謎の意味に自身らが関係のあるようにも

(ないようにもいってさわいでいた。 みょうぶがもたせてよこしたげんじのへんしょを、)

ないようにも言って騒いでいた。 命婦が持たせてよこした源氏の返書を、

(ひたちのみやでは、にょうぼうがあつまっておおさわぎしてよんだ。 )

常陸の宮では、女房が集まって大騒ぎして読んだ。

(あわぬよをへだつるなかのころもでにかさねていとどみもしみよとや )

逢はぬ夜を隔つる中の衣手に重ねていとど身も沁みよとや

(ただしろいかみへむぞうさにかいてあるのがひじょうにうつくしい。 みそかのゆうがたにみやけから)

ただ白い紙へ無造作に書いてあるのが非常に美しい。 三十日の夕方に宮家から

(おくったころもばこのなかへ、げんじがほかからおくられたしろいこそでのひとかさね、あかむらさきのおりものの)

贈った衣箱の中へ、源氏が他から贈られた白い小袖の一重ね、赤紫の織物の

(うわぎ、そのほかにもやまぶきいろとかいろいろなものをいれたのをみょうぶがもたせて)

上衣、そのほかにも山吹色とかいろいろな物を入れたのを命婦が持たせて

(よこした。 「こちらでおつくりになったのがよいいろじゃなかったという)

よこした。 「こちらでお作りになったのがよい色じゃなかったという

など

(あてつけのいみがあるのではないでしょうか」 とひとりのにょうぼうがいうように、)

あてつけの意味があるのではないでしょうか」 と一人の女房が言うように、

(だれもじょうしきでかんがえてそうとれるのであるが、 「でもあれだってあかくて、)

だれも常識で考えてそうとれるのであるが、 「でもあれだって赤くて、

(おもおもしいできばえでしたよ。まさかこちらのこういがむだになるということは)

重々しいできばえでしたよ。まさかこちらの好意がむだになるということは

(ないはずですよ」 おいたおんなどもはそうきめてしまった。)

ないはずですよ」 老いた女どもはそう決めてしまった。

(「おうただって、こちらのはいみがつよくてっていしておできになっていましたよ。)

「お歌だって、こちらのは意味が強く徹底しておできになっていましたよ。

(ごへんかはぎこうがかちすぎてますね」 これもそのれんちゅうのいうことである。)

御返歌は技巧が勝ち過ぎてますね」 これもその連中の言うことである。

(すえつむはなもだいくしんをしたけっしょうであったから、じさくをかみにかいておいた。)

末摘花も大苦心をした結晶であったから、自作を紙に書いておいた。

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