紫式部 源氏物語 榊 12 與謝野晶子訳

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1 subaru 7807 8.1 96.4% 346.7 2809 102 42 2024/12/11
2 HAKU 7777 8.0 96.4% 351.9 2841 104 42 2024/12/08
3 ヤス 7568 7.9 95.5% 356.6 2832 133 42 2024/12/18
4 おもち 7478 7.7 96.4% 364.8 2831 103 42 2024/12/09
5 だだんどん 6779 S++ 7.3 93.2% 382.9 2800 204 42 2024/12/14

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問題文

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(げんじはまたきょねんのののみやのわかれがこのころであったとおもいだして、)

源氏はまた去年の野の宮の別れがこのころであったと思い出して、

(じぶんのこいをさまたげるものは、かみたちであるともおもった。むずかしいじじょうが)

自分の恋を妨げるものは、神たちであるとも思った。むずかしい事情が

(あいだにあればあるほどじょうねつのたかまるくせをみずからしらないのである。)

間にあればあるほど情熱のたかまる癖をみずから知らないのである。

(それをのぞんだのであったらかものにょおうとのけっこんはこんなんなことでも)

それを望んだのであったら加茂の女王との結婚は困難なことでも

(なかったのであるが、とうじはのんきにしていて、いまさらこうかいのなみだを)

なかったのであるが、当時は暢気にしていて、今さら後悔の涙を

(むげんにながしているのである。さいいんもふつうのたじょうでかかれるてがみでないものを、)

無限に流しているのである。斎院も普通の多情で書かれる手紙でないものを、

(これまでどれだけうけておいでになるかもしれないのであって、)

これまでどれだけ受けておいでになるかもしれないのであって、

(げんじをよくりかいしたおこころからてがみのへんじもたまにはおかきになるのである。)

源氏をよく理解したお心から手紙の返事もたまにはお書きになるのである。

(げんせいにいえば、しんせいなしょくをもっておいでになって、)

厳正にいえば、神聖な職を持っておいでになって、

(すこしきんしんがたりないといもいうべきことであるが。)

少し謹慎が足りないといもいうべきことであるが。

(てんだいのきょうてんろくじゅっかんをよんで、いみのなんかいなところをそうたちにきいたりなどして)

天台の経典六十巻を読んで、意味の難解な所を僧たちに聞いたりなどして

(げんじがてらにとどまっているのを、そうたちのぜんこうによってぶつりきでこのひとが)

源氏が寺にとどまっているのを、僧たちの善行によって仏力でこの人が

(てらへつかわされたもののようにおもって、ほうしのめいよであると、かきゅうのやからまでも)

寺へつかわされたもののように思って、法師の名誉であると、下級の輩までも

(よろこんでいた。しずかなてらのあさゆうにじんせいをかんじてはかえることがどんなにいやなことに)

喜んでいた。静かな寺の朝夕に人生を観じては帰ることがどんなにいやなことに

(おもわれたかしれないのであるが、むらさきのにょおうひとりがすてがたいほだしになって、)

思われたかしれないのであるが、紫の女王一人が捨てがたい絆になって、

(ながくたいりゅうせずにかえろうとするげんじは、そのまえにさかんなずきょうをおこなった。)

長く滞留せずに帰ろうとする源氏は、その前に盛んな誦経を行なった。

(あるだけのほうしはむろん、そのへんのかそうみんにもものをおおくほどこした。)

あるだけの法師はむろん、その辺の下層民にも物を多く施した。

(かえっていくときには、てらのまえのひろばのそこここにそうしたひとたちがあつまって、)

帰って行く時には、寺の前の広場のそこここにそうした人たちが集まって、

(なみだをながしながらみおくっていた。りょうあんちゅうのくろいくるまにのったもふくすがたのげんじは)

涙を流しながら見送っていた。諒闇中の黒い車に乗った喪服姿の源氏は

(へいぜいよりもすぐれてみえるわけもないが、びぼうにこころをひかれないひともなかった。)

平生よりもすぐれて見えるわけもないが、美貌に心を惹かれない人もなかった。

など

(ふじんはいくにちかのうちにいちだんときれいになったようにおもわれた。)

夫人は幾日かのうちに一段ときれいになったように思われた。

(こうがにおちついているなかに、げんじのあいをふあんがるようすのみえるのが)

高雅に落ち着いている中に、源氏の愛を不安がる様子の見えるのが

(かれんであった。いくにんかのひとをおもういくつかのはんもんはそとへでて、このひとの)

可憐であった。幾人かの人を思う幾つかの煩悶は外へ出て、この人の

(めにつくほどのことがあったのであろう、「いろかわる」というようなうたを)

目につくほどのことがあったのであろう、「色変はる」というような歌を

(よんできたのではないかとあわれにおもって、げんじはつねよりもつよいあいを)

詠んできたのではないかと哀れに思って、源氏は常よりも強い愛を

(ふじんにかんじた。やまからおってかえったもみじはにわのにくらべるとすぐれてあかく)

夫人に感じた。山から折って帰った紅葉は庭のに比べるとすぐれて紅く

(きれいであったから、それを、ながくなんともてがみをかかないでいることによって、)

きれいであったから、それを、長く何とも手紙を書かないでいることによって、

(またたえがたいさびしさもかんじているげんじは、ただなんでもないおくりものとして、)

また堪えがたい寂しさも感じている源氏は、ただ何でもない贈り物として、

(ごしょにおいでになるちゅうぐうのところへもたせてやった。)

御所においでになる中宮の所へ持たせてやった。

(てがみはみょうぶへかいたのであった。 めずらしくごしょへおはいりになりましたことを)

手紙は命婦へ書いたのであった。 珍しく御所へおはいりになりましたことを

(うかがいまして、りょうみやさまいずれもごぶさたしておりますので、そのさいにも)

伺いまして、両宮様いずれも御無沙汰しておりますので、その際にも

(あがってみたかったのですが、しばらくしゅうきょうてきなべんきょうをしようとそのまえから)

上がってみたかったのですが、しばらく宗教的な勉強をしようとその前から

(おもいたっていまして、ひどりなどをきめていたものですからしつれいいたしました。)

思い立っていまして、日どりなどを決めていたものですから失礼いたしました。

(もみじはわたくしひとりでみていましては、にしきをくらいところへおいておくきがして)

紅葉は私一人で見ていましては、錦を暗い所へ置いておく気がして

(なりませんからもたせてあげます。よろしいきかいにみやさまの)

なりませんから持たせてあげます。よろしい機会に宮様の

(おめにかけてください。 というのである。じっさいめずらしいほど)

お目にかけてください。 と言うのである。実際珍しいほど

(きれいなもみじであったから、ちゅうぐうもよろこんでみておいでになったが、そのえだに)

きれいな紅葉であったから、中宮も喜んで見ておいでになったが、その枝に

(ちいさくむすんだてがみがひとつついていた。にょうぼうたちがそれをみつけだしたとき、)

小さく結んだ手紙が一つついていた。女房たちがそれを見つけ出した時、

(みやはおかおのいろもかわって、まだあのこころをすてていない、どうじょうしんのふかい)

宮はお顔の色も変わって、まだあの心を捨てていない、同情心の深い

(りっぱなじんかくをもちながら、こうしたことをとっぱつてきにするむじゅんがあのひとにある、)

りっぱな人格を持ちながら、こうしたことを突発的にする矛盾があの人にある、

(にょうぼうたちもふしんをおこすにちがいないとはんかんをおおぼえになって、かめにささせて、)

女房たちも不審を起こすに違いないと反感をお覚えになって、瓶に挿させて、

(ひさしのまのはしらのところへだしておしまいになった。)

庇の間の柱の所へ出しておしまいになった。

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