葉桜と魔笛4(完)/太宰治

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順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 roi 6587 S+ 6.8 95.9% 438.1 3013 127 49 2024/09/26
2 りく 5953 A+ 6.1 96.8% 506.1 3116 103 49 2024/10/18
3 てんぷり 5752 A+ 5.9 96.7% 504.1 3000 100 49 2024/09/27
4 Par99 4162 C 4.3 96.4% 694.1 2999 110 49 2024/09/25

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問題文

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(まちてまちてことしさきけりさくらのはなしろとききつつはなはべになり)

待ちて待ちて ことし咲きけり 桜の花 白と聞きつつ 花は紅なり

(ぼくはべんきょうしています。すべては、うまくいっています。では、また、あした。)

僕は勉強しています。すべては、うまくいっています。では、また、明日。

(m・t。)

M・T。

(「ねえさん、あたししっているのよ。」いもうとは、すんだこえでそうつぶやき、)

「姉さん、あたし知っているのよ。」妹は、澄んだ声でそう呟き、

(「ありがとう、ねえさん、これ、ねえさんがかいたのね。」)

「ありがとう、姉さん、これ、姉さんが書いたのね。」

(わたしは、あまりのはずかしさに、そのてがみ、ちぢにひきさいて、じぶんのかみを)

私は、あまりの恥ずかしさに、その手紙、千々に引き裂いて、自分の髪を

(くしゃくしゃひきむしってしまいたくおもいました。いてもたってもおられぬ、とは)

くしゃくしゃひき毟ってしまいたく思いました。いても立ってもおられぬ、とは

(あんなおもいをさしていうのでしょう。わたしがかいたのだ。いもうとのくるしみをみかねて、)

あんな思いを指して言うのでしょう。私が書いたのだ。妹の苦しみを見かねて、

(わたしが、これからまいにち、m・tのひっせきをまねて、いもうとのしぬるひまで、てがみをかき、)

私が、これから毎日、M・Tの筆蹟を真似て、妹の死ぬる日まで、手紙を書き、

(へたなわかを、くしんしてつくり、それからばんのろくじには、こっそりへいのそとへ)

下手な和歌を、苦心してつくり、それから晩の六時には、こっそり塀の外へ

(でて、くちぶえふこうとおもっていたのです。)

出て、口笛吹こうと思っていたのです。

(はずかしかった。へたなうたみたいなものまでかいて、はずかしゅうございました。)

恥かしかった。下手な歌みたいなものまで書いて、恥ずかしゅうございました。

(みもよも、あらぬおもいで、わたしは、すぐにはへんじも、できませんでした。)

身も世も、あらぬ思いで、私は、すぐには返事も、できませんでした。

(「ねえさん、しんぱいなさらなくていいのよ。」いもうとはふしぎにもおちついて、すうこうな)

「姉さん、心配なさらなくていいのよ。」妹は不思議にも落ち着いて、崇高な

(くらいにうつくしくびしょうしていました。「ねえさん、あのみどりのりぼんでむすんであった)

くらいに美しく微笑していました。「姉さん、あの緑のリボンで結んであった

(てがみをみたのでしょう?あれは、うそ。あたし、あんまりさびしいから、)

手紙を見たのでしょう?あれは、ウソ。あたし、あんまり淋しいから、

(おととしのあきから、ひとりであんなてがみかいて、あたしにあててとうかん)

おととしの秋から、ひとりであんな手紙書いて、あたしに宛てて投函

(していたの。ねえさん、ばかにしないでね。せいしゅんというものは、ずいぶんだいじな)

していたの。姉さん、ばかにしないでね。青春というものは、ずいぶん大事な

(ものなのよ。あたし、びょうきになってから、それが、はっきりわかってきたの。)

ものなのよ。あたし、病気になってから、それが、はっきりわかって来たの。

(ひとりで、じぶんあてのてがみなんかかいてるなんて、きたない。あさましい。ばかだ。)

ひとりで、自分あての手紙なんか書いてるなんて、汚い。あさましい。ばかだ。

など

(あたしは、ほんとうにおとこのかたと、だいたんにあそべば、よかった。あたしの)

あたしは、ほんとうに男のかたと、大胆に遊べば、よかった。あたしの

(からだを、しっかりだいてもらいたかった。ねえさん、あたしはいままでいちども、)

からだを、しっかり抱いてもらいたかった。姉さん、あたしは今までいちども、

(こいびとどころか、よそのおとこのかたとはなしてみたこともなかった。ねえさんだって、)

恋人どころか、よその男のかたと話してみたこともなかった。姉さんだって、

(そうなのね。あたしたちまちがっていた。おりこうすぎた。ああ、しぬなんて、)

そうなのね。あたしたち間違っていた。お悧巧すぎた。ああ、死ぬなんて、

(いやだ。あたしのてが、ゆびさきが、かみが、かわいそう。しぬなんて、)

いやだ。あたしの手が、指先が、髪が、可哀そう。死ぬなんて、

(いやだ。いやだ。」)

いやだ。いやだ。」

(わたしは、かなしいやら、こわいやら、うれしいやら、はずかしいやら、むねが)

私は、かなしいやら、こわいやら、うれしいやら、恥ずかしいやら、胸が

(いっぱいになり、わからなくなってしまいまして、いもうとのやせたほおに、わたしのほおを)

一ぱいになり、わからなくなってしまいまして、妹の痩せた頬に、私の頬を

(ぴったりおしつけ、ただもうなみだがでてきて、そっといもうとをだいてあげました。)

ぴったり押しつけ、ただもう涙が出て来て、そっと妹を抱いてあげました。

(そのとき、ああ、きこえるのです。ひくくかすかに、でも、たしかに、ぐんかんまあちの)

そのとき、ああ、聞えるのです。低く幽かに、でも、たしかに、軍艦マアチの

(くちぶえでございます。いもうとも、みみをすましました。ああ、とけいをみるとろくじ)

口笛でございます。妹も、耳をすましました。ああ、時計を見ると六時

(なのです。わたしたち、いいしれぬきょうふに、つよくつよくだきあったまま、)

なのです。私たち、言い知れぬ恐怖に、強く強く抱き合ったまま、

(みじろぎもせず、そのおにわのはざくらのおくからきこえてくるふしぎなまあちにみみを)

身じろぎもせず、そのお庭の葉桜の奥から聞えて来る不思議なマアチに耳を

(すましておりました。)

すまして居りました。

(かみさまは、ある。きっと、いる。わたしは、それをしんじました。いもうとは、それから)

神さまは、在る。きっと、いる。私は、それを信じました。妹は、それから

(みっかめにしにました。いしゃは、くびをかしげておりました。あまりにしずかに、)

三日目に死にました。医者は、首をかしげておりました。あまりに静かに、

(はやくいきをひきとったからでございましょう。けれども、わたしは、そのとき)

早く息をひきとったからでございましょう。けれども、私は、そのとき

(おどろかなかった。なにもかもかみさまの、おぼしめしとしんじていました。)

驚かなかった。何もかも神さまの、おぼしめしと信じていました。

(いまは、としとって、もろもろのぶつよくがでてきて、おはずかしゅうございます。)

いまは、年とって、もろもろの物慾が出て来て、お恥かしゅうございます。

(しんこうとやらもすこしうすらいでまいったのでございましょうか、あのくちぶえも、)

信仰とやらも少し薄らいでまいったのでございましょうか、あの口笛も、

(ひょっとしたら、ちちのしわざではなかったろうかと、なんだかそんなうたがいをもつ)

ひょっとしたら、父の仕業ではなかったろうかと、なんだかそんな疑いを持つ

(こともございます。がっこうのおつとめからおかえりになって、となりのおへやで、)

こともございます。学校のおつとめからお帰りになって、隣のお部屋で、

(わたしたちのはなしをたちぎきして、ふびんにおもい、げんかくのちちとしてはいっせいちだいのきょうげん)

私たちの話を立聞きして、ふびんに思い、厳格の父としては一世一代の狂言

(したのではなかろうか、とおもうことも、ございますが、まさか、そんなことも)

したのではなかろうか、と思うことも、ございますが、まさか、そんなことも

(ないでしょうね。ちちがざいせいちゅうなれば、といただすこともできるのですが、)

ないでしょうね。父が在世中なれば、問いただすこともできるのですが、

(ちちがなくなって、もう、かれこれじゅうごねんにもなりますものね。いや、やっぱり)

父がなくなって、もう、かれこれ十五年にもなりますものね。いや、やっぱり

(かみさまのおめぐみでございましょう。)

神さまのお恵みでございましょう。

(わたしは、そうしんじてあんしんしておりたいのでございますけれども、どうも、)

私は、そう信じて安心しておりたいのでございますけれども、どうも、

(としとってくると、ぶつよくがおこり、しんこうもうすらいでまいって、いけないとぞんじます。)

年とって来ると、物慾が起り、信仰も薄らいでまいって、いけないと存じます。

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