紫式部 源氏物語 榊 16 與謝野晶子訳

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1 はく 7734 7.9 96.8% 465.3 3719 120 57 2024/12/13
2 subaru 7624 7.9 96.4% 465.6 3685 135 57 2024/12/12
3 おもち 7251 7.5 96.2% 491.6 3708 143 57 2024/12/09
4 ヤス 7055 7.4 95.1% 499.5 3712 188 57 2024/12/16
5 だだんどん 6087 A++ 6.7 90.8% 543.2 3676 369 57 2024/12/16

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問題文

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(にじょうのいんへかえってもにしのたいへはいかずに、じしんのいまのほうにひとりぶしをしたが)

二条の院へ帰っても西の対へは行かずに、自身の居間のほうに一人臥しをしたが

(ねむりうるわけもない。ますますじんせいがかなしくおもわれて)

眠りうるわけもない。ますます人生が悲しく思われて

(じしんもそうになろうというこころのおこってくるのを、そうしてはとうぐうが)

自身も僧になろうという心の起こってくるのを、そうしては東宮が

(おかわいそうであるとおもいかえしもした。せめてははみやだけをさいこうのちいに)

おかわいそうであると思い返しもした。せめて母宮だけを最高の地位に

(おいておけばといんはおぼしめしたのであったが、そのちいもこういをもたぬものの)

置いておけばと院は思召したのであったが、その地位も好意を持たぬ者の

(くるしいあっぱくのためにおすてになることになった。あまにおなりになっては)

苦しい圧迫のためにお捨てになることになった。尼におなりになっては

(きさきとしてのごたいぐうもおうけになることもおできにならないであろうし、)

后としての御待遇もお受けになることもおできにならないであろうし、

(そのうえじぶんまでがとうぐうのおちからになれぬことになってはならないと)

その上自分までが東宮のお力になれぬことになってはならないと

(げんじはおもうのである。よどおしこのことをかんがえぬいてさいごにげんじはちゅうぐうのために)

源氏は思うのである。夜通しこのことを考え抜いて最後に源氏は中宮のために

(にそうようのおちょうど、おいふくをつくってさしあげるぜんこうをしなければならぬとおもって、)

尼僧用のお調度、お衣服を作ってさしあげる善行をしなければならぬと思って、

(ねんないにすべてのものをととのえたいといそいだ。おうみょうぶもおともをして)

年内にすべての物を調えたいと急いだ。王命婦もお供をして

(あまになったのである。このひとへもげんじはあまようのしなじなをおくった。)

尼になったのである。この人へも源氏は尼用の品々を贈った。

(こんなばあいにりっぱなしいかができてよいわけであるから、みやのにょうぼうのうたなどが)

こんな場合にりっぱな詩歌ができてよいわけであるから、宮の女房の歌などが

(とうじのくわしいきじとともにみいだせないのをひっしゃはざんねんにおもう。)

当時の詳しい記事とともに見いだせないのを筆者は残念に思う。

(げんじがさんじょうのみやていをごほうもんすることもきらくにできるようになり、)

源氏が三条の宮邸を御訪問することも気楽にできるようになり、

(みやのほうでもごじしんでおはなしをあそばすこともあるようになった。)

宮のほうでも御自身でお話をあそばすこともあるようになった。

(しょうねんのひからおもいつづけたげんじのこいはごしゅっけによってかいしょうされはしなかったが、)

少年の日から思い続けた源氏の恋は御出家によって解消されはしなかったが、

(これいじょうにごせっきんすることはげんじとして、こんにちかんがえるべきことでは)

これ以上に御接近することは源氏として、今日考えるべきことでは

(なかったのである。 はるになった。ごしょではないえんとか、)

なかったのである。 春になった。御所では内宴とか、

(とうかとかつづいてはなやかなことばかりがおこなわれていたが)

踏歌とか続いてはなやかなことばかりが行われていたが

など

(ちゅうぐうはじんせいのひあいばかりをかんじておいでになって、ごせのためのほとけづとめに)

中宮は人生の悲哀ばかりを感じておいでになって、後世のための仏勤めに

(はげんでおいでになると、たのもしいちからもおのずからさずけられつつあるきも)

励んでおいでになると、頼もしい力もおのずから授けられつつある気も

(あそばされたし、げんじのじょうかからのがれえられたことにもおよろこびがあった。)

あそばされたし、源氏の情火から脱れえられたことにもお悦びがあった。

(おいまにとなったねんずのへやのほかに、あたらしくけんちくされたみどうが)

お居間に隣った念誦の室のほかに、新しく建築された御堂が

(にしのたいのまえをすこしはなれたところにあってそこではまたにそうらしいげんじゅうなつとめを)

西の対の前を少し離れた所にあってそこではまた尼僧らしい厳重な勤めを

(あそばされた。げんじがしこうした。しょうがつであってもらいほうしゃはまれで、おつきやくにんの)

あそばされた。源氏が伺候した。正月であっても来訪者は稀で、お付き役人の

(いくにんだけがさびしいかっこうをして、ちからのないふうにじむをとっていた。)

幾人だけが寂しい恰好をして、力のないふうに事務を取っていた。

(あおうまのせちえであったから、これだけはこのみやへもひかれてきて、)

白馬の節会であったから、これだけはこの宮へも引かれて来て、

(にょうぼうたちがけんぶつしたのである。こうかんがいくにんとなくしこうしていたようなことは)

女房たちが見物したのである。高官が幾人となく伺候していたようなことは

(もうかこのじじつになって、それらのひとびとはみやていをすどおりして、むかいがわの)

もう過去の事実になって、それらの人々は宮邸を素通りして、向かい側の

(げんだじょうだいじんていへあつまっていくのも、とうぜんといえばとうぜんであるが、)

現太政大臣邸へ集まって行くのも、当然といえば当然であるが、

(さびしさににたかんじをみやもおおぼえになった。そんなところへ)

寂しさに似た感じを宮もお覚えになった。そんな所へ

(せんにんのこうかんにあたるようなすがたでげんじがわざわざさんがにきたのを)

千人の高官にあたるような姿で源氏がわざわざ参賀に来たのを

(ごらんになったときは、わけもなくみやはらくるいをあそばした。げんじもなんとなく)

御覧になった時は、わけもなく宮は落涙をあそばした。源氏もなんとなく

(みにしむふうにあたりをながめていて、しばらくのあいだはものがいえなかった。)

身にしむふうにあたりをながめていて、しばらくの間はものが言えなかった。

(じゅんぜんたるあまぎみのおすまいになって、みすのふちのいろもきちょうもにびいろであった。)

純然たる尼君のお住居になって、御簾の縁の色も几帳も鈍色であった。

(そんなもののあいだからみえるのもにょうぼうたちのうすにびいろのふく、きいろなしたがさねの)

そんな物の間から見えるのも女房たちの淡鈍色の服、黄色な下襲の

(そでぐちなどであったが、かえってえんにじょうひんにみえないこともなかった。)

袖口などであったが、かえって艶に上品に見えないこともなかった。

(とけてきたいけのはくひょうにも、めをだしそめたやなぎにもしぜんのはるだけがみえて、)

解けてきた池の薄氷にも、芽をだしそめた柳にも自然の春だけが見えて、

(いろいろにげんじのこころをいたましくした。「おとにきくまつがうらしまきょうぞみる)

いろいろに源氏の心をいたましくした。「音に聞く松が浦島今日ぞ見る

(うべこころあるあまはすみけり」というこかをくちずさんでいる)

うべ心ある海人は住みけり」という古歌を口ずさんでいる

(げんじのようすがうつくしかった。 )

源氏の様子が美しかった。

(ながめかるあまのすみかとみるからにまづしおたるるまつがうらしま )

ながめかる海人の住処と見るからにまづしほたるる松が浦島

(とげんじはいった。いまはおざしきのだいぶぶんをほとけにゆずっておいでになって、)

と源氏は言った。今はお座敷の大部分を仏に譲っておいでになって、

(おいまははしのほうへかえられたおすまいであったから、みやのござと)

お居間は端のほうへ変えられたお住居であったから、宮の御座と

(げんじじしんのざのちかさがおぼえられて、 )

源氏自身の座の近さが覚えられて、

(ありしよのなごりだになきうらしまにたちよるなみのめづらしきかな )

ありし世の名残りだになき浦島に立ちよる波のめづらしきかな

(ととりつぎのにょうぼうへおおしえになるおこえもほのかにきこえるのであった。)

と取り次ぎの女房へお教えになるお声もほのかに聞こえるのであった。

(げんじのなみだがほろほろとこぼれた。いまではじんせいをさとりきったあまになっている)

源氏の涙がほろほろとこぼれた。今では人生を悟りきった尼になっている

(にょうぼうたちにこれらをみられるのがはずかしくて、ながくはいずにげんじはたいしゅつした。)

女房たちにこれらを見られるのが恥ずかしくて、長くはいずに源氏は退出した。

(「ますますごりっぱにおみえになる。あらゆるこうふくをごじぶんだけのものにして)

「ますますごりっぱにお見えになる。あらゆる幸福を御自分だけのものにして

(いらっしゃったころは、ただてんかのだいいちのひとであるだけで、それだけではまだ)

いらっしゃったころは、ただ天下の第一の人であるだけで、それだけではまだ

(じんせいがおわかりにならなかったわけで、ごりっぱでもおきれいでも、)

人生がおわかりにならなかったわけで、ごりっぱでもおきれいでも、

(ただしいいみではかけていらっしゃるところがあったのです。ごこうふくばかりでなく)

正しい意味では欠けていらっしゃるところがあったのです。御幸福ばかりでなく

(おなりになって、ふかみがおできになりましたね。しかしおきのどくなことですよ」)

おなりになって、深味がおできになりましたね。しかしお気の毒なことですよ」

(などとおいたにょうぼうがなきながらほめていた。ちゅうぐうもおこころにいろいろなばあいの)

などと老いた女房が泣きながらほめていた。中宮もお心にいろいろな場合の

(かこのげんじのおもかげをおもっておいでになった。)

過去の源氏の面影を思っておいでになった。

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