「山月記」中島敦(2/6頁)

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(よくねん、かんさつぎょし、ちんぐんのえんさんというもの、)

翌年、監察御史、陳郡の袁傪という者、

(ちょくめいをほうじてれいなんにつかいし、みちにしょうおのちにとまった。)

勅命を奉じて嶺南に使し、途に商於の地に宿った。

(つぎのあさまだくらいうちにしゅっぱつしようとしたところ、)

次の朝未だ暗い中に出発しようとしたところ、

(えきりがいうことに、これからさきのみちにひとくいとらがでるゆえ、)

駅吏が言うことに、これから先の道に人喰虎が出る故、

(たびびとははくちゅうでなければ、とおれない。)

旅人は白昼でなければ、通れない。

(いまはまだあさがはやいから、いますこしまたれたがよろしいでしょうと。)

今はまだ朝が早いから、今少し待たれたが宜しいでしょうと。

(えんさんは、しかし、ともまわりのたぜいなのをたのみ、)

袁傪は、しかし、供廻りの多勢なのを恃み、

(えきりのことばをしりぞけて、しゅっぱつした。)

駅吏の言葉を斥けて、出発した。

(ざんげつのひかりをたよりにりんちゅうのくさちをとおっていったとき、)

残月の光をたよりに林中の草地を通って行った時、

(はたしていっぴきのもうこがくさむらのなかからおどりでた。)

果して一匹の猛虎が叢の中から躍り出た。

(とらは、あわやえんさんにおどりかかるかとみえたが、)

虎は、あわや袁傪に躍りかかるかと見えたが、

(たちまちみをひるがえして、もとのくさむらにかくれた。)

忽ち身を飜して、元の叢に隠れた。

(くさむらのなかからにんげんのこえで「あぶないところだった」と)

叢の中から人間の声で「あぶないところだった」と

(くりかえしつぶやくのがきこえた。そのこえにえんさんはききおぼえがあった。)

繰返し呟くのが聞えた。その声に袁傪は聞き憶えがあった。

(きょうくのなかにも、かれはとっさにおもいあたって、さけんだ。)

驚懼の中にも、彼は咄嗟に思いあたって、叫んだ。

(「そのこえは、わがとも、りちょうしではないか?」)

「その声は、我が友、李徴子ではないか?」

(えんさんはりちょうとどうねんにしんしのだいにのぼり、)

袁傪は李徴と同年に進士の第に登り、

(ゆうじんのすくなかったりちょうにとっては、もっともしたしいともであった。)

友人の少かった李徴にとっては、最も親しい友であった。

(おんわなえんさんのせいかくが、しゅんしょうなりちょうのせいじょうと)

温和な袁傪の性格が、峻峭な李徴の性情と

(しょうとつしなかったためであろう。)

衝突しなかったためであろう。

など

(くさむらのなかからは、しばらくへんじがなかった。)

叢の中からは、暫く返辞が無かった。

(しのびなきかとおもわれるかすかなこえがときどきもれるばかりである。)

しのび泣きかと思われる微かな声が時々洩れるばかりである。

(ややあって、ひくいこえがこたえた。)

ややあって、低い声が答えた。

(「いかにもじぶんはろうさいのりちょうである」と。)

「如何にも自分は隴西の李徴である」と。

(えんさんはきょうふをわすれ、うまからおりてくさむらにちかづき、なつかしげにきゅうかつをじょした。)

袁傪は恐怖を忘れ、馬から下りて叢に近づき、懐かしげに久闊を叙した。

(そして、なぜくさむらからでてこないのかととうた。りちょうのこえがこたえていう。)

そして、何故叢から出て来ないのかと問うた。李徴の声が答えて言う。

(じぶんはいまやいるいのみとなっている。)

自分は今や異類の身となっている。

(どうして、おめおめととものまえにあさましいすがたをさらせようか。)

どうして、おめおめと故人の前にあさましい姿をさらせようか。

(かつまた、じぶんがすがたをあらわせば、)

かつ又、自分が姿を現せば、

(かならずきみにいふけんえんのじょうをおこさせるにきまっているからだ。)

必ず君に畏怖嫌厭の情を起させるに決っているからだ。

(しかし、いま、はからずもともにあうことをえて、)

しかし、今、図らずも故人に遇うことを得て、

(きたんのねんをもわすれるほどになつかしい。)

愧赧の念をも忘れる程に懐かしい。

(どうか、ほんのしばらくでいいから、わがしゅうあくないまのがいけいをいとわず、)

どうか、ほんの暫くでいいから、我が醜悪な今の外形を厭わず、

(かつてきみのともりちょうであったこのじぶんとはなしをかわしてくれないだろうか。)

曾て君の友李徴であったこの自分と話を交してくれないだろうか。

(あとでかんがえればふしぎだったが、そのとき、えんさんは、このちょうしぜんのかいいを、)

後で考えれば不思議だったが、その時、袁傪は、この超自然の怪異を、

(じつにすなおにうけいれて、すこしもあやしもうとしなかった。)

実に素直に受容れて、少しも怪もうとしなかった。

(かれはぶかにめいじてぎょうれつのしんこうをとめ、じぶんはくさむらのかたわらにたって、)

彼は部下に命じて行列の進行を停め、自分は叢の傍らに立って、

(みえざるこえとたいだんした。みやこのうわさ、きゅうゆうのしょうそく、えんさんがげんざいのちい、)

見えざる声と対談した。都の噂、旧友の消息、袁傪が現在の地位、

(それにたいするりちょうのしゅくじ。せいねんじだいにしたしかったものどうしの、)

それに対する李徴の祝辞。青年時代に親しかった者同志の、

(あのへだてのないごちょうで、それらがかたられたのち、えんさんは、)

あの隔てのない語調で、それ等が語られた後、袁傪は、

(りちょうがどうしていまのみとなるにいたったかをたずねた。)

李徴がどうして今の身となるに至ったかを訊ねた。

(そうちゅうのこえはつぎのようにかたった。)

草中の声は次のように語った。

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