「やまなし」宮沢賢治(2/5頁)

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(にわかにぱっとあかるくなり、)

にわかにパッと明るくなり、

(にっこうのきんはゆめのようにみずのなかにふってきました。)

日光の黄金は夢のように水の中に降って来ました。

(なみからくるひかりのあみが、そこのしろいいわのうえで)

波から来る光の網が、底の白い磐の上で

(うつくしくゆらゆらのびたりちぢんだりしました。)

美しくゆらゆらのびたりちぢんだりしました。

(あわやちいさなごみからはまっすぐなかげのぼうが、)

泡や小さなごみからはまっすぐな影の棒が、

(ななめにみずのなかにならんでたちました。)

斜めに水の中に並んで立ちました。

(さかながこんどはそこらじゅうのきんのひかりを)

魚がこんどはそこら中の黄金の光を

(まるっきりくちゃくちゃにしておまけにじぶんは)

まるっきりくちゃくちゃにしておまけに自分は

(てついろにへんにそこびかりして、)

鉄いろに変に底びかりして、

(またかみのほうへのぼりました。)

又上流の方へのぼりました。

(おさかなはなぜああいったりきたりするの。)

『お魚はなぜああ行ったり来たりするの。』

(おとうとのかにがまぶしそうにめをうごかしながらたずねました。)

弟の蟹がまぶしそうに眼を動かしながらたずねました。

(なにかわるいことをしてるんだよとってるんだよ。)

『何か悪いことをしてるんだよとってるんだよ。』

(とってるの。)

『とってるの。』

(うん。)

『うん。』

(そのおさかながまたかみからもどってきました。)

そのお魚がまた上流から戻って来ました。

(こんどはゆっくりおちついて、)

今度はゆっくり落ちついて、

(ひれもおもうごかさずただみずにだけながされながら)

ひれも尾も動かさずただ水にだけ流されながら

(おくちをわのようにまるくしてやってきました。)

お口を環のように円くしてやって来ました。

(そのかげはくろくしずかにそこのひかりのあみのうえをすべりました。)

その影は黒くしずかに底の光の網の上をすべりました。

など

(おさかなは・・。)

『お魚は……。』

(そのときです。にわかにてんじょうにしろいあわがたって、)

その時です。俄に天井に白い泡がたって、

(あおびかりのまるでぎらぎらするてっぽうだまのようなものが、)

青びかりのまるでぎらぎらする鉄砲弾のようなものが、

(いきなりとびこんできました。)

いきなり飛込んで来ました。

(にいさんのかにははっきりとそのあおいもののさきが)

兄さんの蟹ははっきりとその青いもののさきが

(こんぱすのようにくろくとがっているのもみました。)

コンパスのように黒く尖っているのも見ました。

(とおもううちに、さかなのしろいはらがぎらっとひかって)

と思ううちに、魚の白い腹がぎらっと光って

(いっぺんひるがえり、うえのほうへのぼったようでしたが、)

一ぺんひるがえり、上の方へのぼったようでしたが、

(それっきりもうあおいものもさかなのかたちもみえず)

それっきりもう青いものも魚のかたちも見えず

(ひかりのきんのあみはゆらゆらゆれ、)

光の黄金の網はゆらゆらゆれ、

(あわはつぶつぶながれました。)

泡はつぶつぶ流れました。

(にひきはまるでこえもでずいすくまってしまいました。)

二疋はまるで声も出ず居すくまってしまいました。

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