星の王子さま 14 (16/32)

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点燈夫の星
サン=テグジュペリ作 内藤濯訳 

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問題文

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(ごばんめのほしは、とてもめずらしいほしでした。)

五番目の星は、とてもめずらしい星でした。

(ほしのうちで、いちばんちいさなほしでした。)

星のうちで、一番小さな星でした。

(そこには、ちょうど、がいとうとてんとうふとがいられるくらいのばしょ)

そこには、ちょうど、街燈と点燈夫とがいられるくらいの場所

(しかありませんでした。)

しかありませんでした。

(そらのどこかの、うちもない、すんでいるひともないほしのうえで、)

空のどこかの、家もない、住んでいる人もない星の上で、

(がいとうとてんとうふとが、いったい、どんなやくめをするのか、)

街燈と点燈夫とが、いったい、どんな役目をするのか、

(それは、おうじさまがいくらかんがえても、わからないことでした。)

それは、王子さまがいくら考えても、わからないことでした。

(それでもおうじさまは、こうおもいました。)

それでも王子さまは、こう思いました。

(「このおとこもばかばかしいひとなんだろうな。)

「この男もばかばかしい人なんだろうな。

(それでも、おうさまや、うぬぼれおとこや、じつぎょうややのみすけよりは、)

それでも、王さまや、うぬぼれ男や、実業屋や呑み助よりは、

(ばかばかしくないだろう。)

ばかばかしくないだろう。

(ともかく、このおとこのしごとには、なんかいみがある。)

ともかく、この男の仕事には、なんか意味がある。

(がいとうにひをつけるのは、ほしをひとつ、)

街燈に火をつけるのは、星を一つ、

(よけいにきらきらさせるようなものだ。)

よけいにキラキラさせるようなものだ。

(でなかったら、はなをひとつ、ぽっかりとさかせるようなものだ。)

でなかったら、花を一つ、ぽっかりと咲かせるようなものだ。

(てんとうふががいとうをけすと、はなもつぼんでしまうし、ほしもひからなくなる。)

点燈夫が街燈を消すと、花もつぼんでしまうし、星も光らなくなる。

(とてもきれいなしごとだ。 きれいだから、ほんとうにやくにたつしごとだ。)

とてもきれいな仕事だ。 きれいだから、ほんとうに役にたつ仕事だ。

(おうじさまは、ほしにあしをふみいれたとき、ていねいにてんとうふにおじぎしました。)

王子さまは、星に足をふみいれたとき、ていねいに点燈夫におじぎしました。

(「こんにちは。 なぜ、いま、がいとうのひをけしたの?」)

「こんにちは。 なぜ、いま、街燈の火を消したの?」

(「めいれいだよ。や、おはよう」 と、てんとうふがこたえました。)

「命令だよ。や、おはよう」 と、点燈夫が答えました。

など

(「どんなめいれい?」)

「どんな命令?」

(「がいとうのひをけすことだよ。や、こんばんは」)

「街燈の火を消すことだよ。や、今晩は」

(といって、てんとうふはまたひをつけました。)

といって、点燈夫はまた火をつけました。

(「だけど、なぜ、またひをつけたの?」)

「だけど、なぜ、また火をつけたの?」

(「めいれいだよ」 と、てんとうふがこたえました。)

「命令だよ」 と、点燈夫が答えました。

(「わからないな」 と、おうじさまがいいました。)

「わからないな」 と、王子さまがいいました。

(「わかる、わからないも、ありゃせん。 めいれいはめいれいだよ。や、おはよう」)

「わかる、わからないも、ありゃせん。 命令は命令だよ。や、おはよう」

(といって、てんとうふは、がいとうのひをけしました。)

といって、点燈夫は、街燈の火を消しました。

(それから、あかいごばんじまのはんけちで、ひたいをふきました。)

それから、赤いごばん縞のハンケチで、ひたいを拭きました。

(「なんしろ、とんでもないしごとだよ。 むかしは、りくつにあってたんだがね。)

「なんしろ、とんでもない仕事だよ。 むかしは、理屈にあってたんだがね。

(あさになるとひをけす。 ゆうがたになると、ひをつける。)

朝になると火を消す。 夕方になると、火をつける。

(ひるまはやすめたし、よるはねむったもんだ・・・」)

ひるまは休めたし、夜は眠ったもんだ・・・」

(「で、そのあと、めいれいがかわったてわけだね?」)

「で、そのあと、命令がかわったてわけだね?」

(「めいれいはかわりゃしないよ。)

「命令はかわりゃしないよ。

(ところで、そこがたいへんなことなんで、ものもいえないってわけさ。)

ところで、そこがたいへんなことなんで、ものも言えないってわけさ。

(ほしはいちねんましにはやくまわるっていうのに、)

星は一年ましに早く廻るっていうのに、

(めいれいはかわらないときているんだからなあ」)

命令はかわらないときているんだからなあ」

(「すると?」 と、おうじさまがいいました。)

「すると?」 と、王子さまがいいました。

(「すると、こうだよ。 いまじゃ、このほしのやつが、)

「すると、こうだよ。 いまじゃ、この星のやつが、

(いっぷんかんにひとめぐりすることになってるんで、)

一分間にひとめぐりすることになってるんで、

(おれときたら、いちびょうもやすめなくなったんだよ。)

おれときたら、一秒も休めなくなったんだよ。

(いっぷんかんにいちど、ひをつけたり、けしたりするんだからな」)

一分間に一度、火をつけたり、消したりするんだからな」

(「へんだなあ! いっぷんかんがいちにちだなんて」)

「へんだなあ! 一分間が一日だなんて」

(「ちっともへんなことなんかないよ。)

「ちっとも変なことなんかないよ。

(おれたちは、もうひとつきもはなしてるんだぜ」)

おれたちは、もう一月も話してるんだぜ」

(「ひとつき?」)

「一月?」

(「そうだよ。さんじゅっぷん。だから、さんじゅうにちさ。や、こんばんは」)

「そうだよ。三十分。だから、三十日さ。や、こんばんは」

(てんとうふはまたがいとうにひをつけました。)

点燈夫はまた街燈に火をつけました。

(おうじさまは、あいてのかおをじっとみました。)

王子さまは、あいての顔をじっとみました。

(そして、こんなにもめいれいをよくまもるてんとうふがすきになりました。)

そして、こんなにも命令をよくまもる点燈夫がすきになりました。

(すると、いぜん、こしかけているいすをうしろにひきながら、)

すると、以前、腰掛けているいすを後ろに引きながら、

(しきりにゆうひをながめようとしたことがおもいだされて、)

しきりに夕日を眺めようとしたことが思い出されて、

(すきなてんとうふのてだすけをしたくなりました。)

すきな点燈夫の手助けをしたくなりました。

(「あのね・・・ぼく、)

「あのね・・・ぼく、

(あんたがやすみたいとき、やすむほうほうをひとつしってるけど・・・」)

あんたが休みたいとき、休む方法を一つ知ってるけど・・・」

(「おれは、いつだってやすみたいんだ」 と、てんとうふがいいました。)

「おれは、いつだって休みたいんだ」 と、点燈夫がいいました。

(ひとというものは、しごとにまめないっぽうでは、なまけもののこともあるからです。)

人というものは、仕事にまめな一方では、なまけもののこともあるからです。

(おうじさまは、つづけていいました。)

王子さまは、つづけていいました。

(「きみのほしは、ほんとにちいさいんだから、さんあしあるけば、)

「きみの星は、ほんとに小さいんだから、三あし歩けば、

(ぐるりとまわってしまえるね。)

ぐるりとまわってしまえるね。

(そうとうゆっくりあるいてさえいたら、しょっちゅう、)

相当ゆっくり歩いてさえいたら、しょっちゅう、

(おひさまをながめていられるわけだよ。)

お日さまをながめていられるわけだよ。

(やすみたくなったら、あるくんだな・・・。)

休みたくなったら、歩くんだな・・・。

(そしたら、きみがほしいとおもうだけ、ひるまがつづくよ」)

そしたら、きみがほしいと思うだけ、昼間が続くよ」

(「そうしたからって、おれはたいしてたすからないな。)

「そうしたからって、おれはたいして助からないな。

(おれがこのよですきなのは、ねむることだよ」)

俺がこの世で好きなのは、眠ることだよ」

(「そりゃ、こまったね」 と、おうじさまはいいました。)

「そりゃ、こまったね」 と、王子さまはいいました。

(「うん、こまったよ。や、おはよう」)

「うん、こまったよ。や、おはよう」

(そして、てんとうふは、がいとうのひをけしました。)

そして、点燈夫は、街燈の火をけしました。

(おうじさまは、もっととおくへたびをつづけながら、こうかんがえました。)

王子さまは、もっと遠くへ旅を続けながら、こう考えました。

(ーーーあのおとこは、おうさまからも、うぬぼれおとこからも、)

ーーーあの男は、王さまからも、うぬぼれ男からも、

(のみすけからも、じつぎょうやからも、けいべつされそうだ。)

呑み助からも、実業屋からも、軽蔑されそうだ。

(でも、ぼくにこっけいにみえないひとといったら、あのひときりだ。)

でも、ぼくにこっけいに見えない人といったら、あのひときりだ。

(それも、あのひとが、じぶんのことでなく、ほかのとこをかんがえているからだろう。)

それも、あの人が、自分のことでなく、他のとこを考えているからだろう。

(おうじさまは、なにかきにかかるように、ほっとためいきをついて、)

王子さまは、なにか気にかかるように、ほっとため息をついて、

(それからこうかんがえました。)

それからこう考えました。

(「ぼくは、あのひとだけ、ともだちにすればよかったなあ。)

「ぼくは、あの人だけ、友だちにすればよかったなあ。

(だけど、あのひとのほしは、あんまりちいさすぎる。)

だけど、あの人の星は、あんまり小さすぎる。

(ふたりぶんのばしょもないほしなんだもの」)

二人分の場所もない星なんだもの」

(おうじさまがむねのうちにあることをそのままいうきになれなかったのは、)

王子さまが胸の内にあることをそのままいう気になれなかったのは、

(にじゅうよじかんごとに、せんよんひゃくども、ゆうひでうつくしくてらされたそのほしを、)

二十四時間ごとに、千四百度も、夕日で美しく照らされたその星を、

(とりわけなつかしくおもっているからでした。)

とりわけなつかしく思っているからでした。

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