風の又三郎 4

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九月二日 佐太郎の木ペン
宮沢賢治 作 全文

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問題文

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(くがつふつか)

九 月 二 日

(つぎのひこういちはあのおかしなこどもが、きょうからほんとうにがっこうへきて、)

次の日孝一はあのおかしな子どもが、今日からほんとうに学校へ来て、

(ほんをよんだりするかどうか、はやくみたいようなきがして、)

本を読んだりするかどうか、早く見たいような気がして、

(いつもよりはやくかすけをさそいました。)

いつもより早く嘉助をさそいました。

(ところがかすけのほうは、こういちよりもっとそうかんがえていたとみえて、)

ところが嘉助の方は、孝一よりもっとそう考えていたと見えて、

(とうにごはんもたべ、ふろしきにつつんだほんももって、)

とうにごはんもたべ、ふろしきに包んだ本ももって、

(いえのまえへでてこういちをまっていたのでした。)

家の前へ出て孝一を待っていたのでした。

(ふたりはとちゅうもいろいろそのこのことをはなしながらがっこうへきました。)

二人は途中もいろいろその子のことを話しながら学校へ来ました。

(するとうんどうじょうにはちいさなこどもらが、もうひち、はちにんあつまっていて、)

すると運動場には小さな子どもらが、もう七、八人集まっていて、

(ぼうかくしをしていましたが、そのこはまだきていませんでした。)

棒かくしをしていましたが、その子はまだ来ていませんでした。

(またきのうのようにきょうしつのなかにいるのかとおもって、なかをのぞいてみましたが、)

また昨日のように教室の中にいるのかと思って、中をのぞいて見ましたが、

(きょうしつのなかはしいんとしてだれもいず、)

教室の中はしいんとして誰もいず、

(こくばんのうえにはきのうそうじのときぞうきんでふいたあとが、)

黒板の上には昨日掃除のとき雑巾でふいたあとが、

(かわいてぼんやりしろいしまになっていました。)

乾いてぼんやり白いしまになっていました。

(「きのうのやつまだきてないな。」こういちがいいました。)

「昨日のやつまだ来てないな。」孝一がいいました。

(「うん。」かすけもいってそこらをみまわしました。)

「うん。」嘉助もいってそこらを見まわしました。

(こういちはそこでてつぼうのしたへいって、じゃみあがりというやりかたで、)

孝一はそこで鉄棒の下へ行って、じゃみ上りというやり方で、

(むりやりにてつぼうのうえにのぼり、りょううでをだんだんよせてみぎのうでぎにいくと、)

無理やりに鉄棒の上にのぼり、両腕をだんだんよせて右の腕木に行くと、

(そこへこしかけて、きのう、またさぶろうのいったほうをじっとみおろしてまっていました。)

そこへ腰掛けて、昨日、又三郎の行った方をじっと見おろして待っていました。

(たにがわはそっちのほうへきらきらひかってながれていき、)

谷川はそっちの方へきらきら光ってながれて行き、

など

(そのしたのやまのうえのほうでは、かぜもふいているらしく、)

その下の山の上の方では、風も吹いているらしく、

(ときどきかやがしろくなみだっていました。)

ときどき萱が白く波立っていました。

(かすけもやっぱりそのはしらのしたじっとそっちをみてまっていました。)

嘉助もやっぱりその柱の下じっとそっちを見て待っていました。

(ところがふたりはそんなにながくまつこともありませんでした。)

ところが二人はそんなに永く待つこともありませんでした。

(それはとつぜん、またさぶろうがそのしもてのみちから、)

それはとつぜん、又三郎がその下手のみちから、

(はいいろのかばんをみぎてにかかえて、はしるようにしてでてきたのです。)

灰いろのかばんを右手にかかえて、走るようにして出て来たのです。

(「きたぞ。」とこういちがおもわずしたにいるかすけへさけぼうとしていますと、)

「来たぞ。」と孝一が思わず下にいる嘉助へ叫ぼうとしていますと、

(はやくもまたさぶろうはどてをぐるっとまわって、どんどんせいもんをはいってくると、)

早くも又三郎はどてをぐるっとまわって、どんどん正門を入って来ると、

(「おはよう。」と、はっきりいいました。)

「お早う。」と、はっきりいいました。

(みんなはいっしょにそっちをふりむきましたが、)

みんなはいっしょにそっちをふり向きましたが、

(ひとりもへんじをしたものがありませんでした。)

一人も返事をしたものがありませんでした。

(それは、みんなはせんせいにはいつでも、)

それは、みんなは先生にはいつでも、

(「おはようございます」というように、ならっていたのでしたが、)

「お早うございます」というように、習っていたのでしたが、

(おたがいに「おはよう」なんていったことがなかったのに、)

お互に「お早う」なんていったことがなかったのに、

(またさぶろうにそういわれても、こういちやかすけはあんまりにわかで、)

又三郎にそういわれても、孝一や嘉助はあんまりにわかで、

(またいきおいがいいのでとうとうおくしてしまって、)

また勢がいいのでとうとう臆してしまって、

(こういちもかすけもくちのなかで、おはようというかわりに、)

孝一も嘉助も口の中で、お早うというかわりに、

(もにゃもにゃっといってしまったのでした。)

もにゃもにゃっといってしまったのでした。

(ところがまたさぶろうのほうは、べつだんそれをくにするふうもなく、)

ところが又三郎のほうは、べつだんそれを苦にする風もなく、

(にさんぽまたまえへすすむと、じっとたって、)

二三歩また前へ進むと、じっと立って、

(そのまっくろなめで、ぐるっとうんどうじょうじゅうをみまわしました。)

そのまっ黒な眼で、ぐるっと運動場じゅうを見まわしました。

(そしてしばらくだれかあそぶあいてがないか、さがしているようでした。)

そしてしばらくだれか遊ぶ相手がないか、さがしているようでした。

(けれどもみんな、きろきろまたさぶろうのほうはみていても、)

けれどもみんな、きろきろ又三郎のほうは見ていても、

(もじもじして、やはりいそがしそうにぼうかくしをしたり、)

もじもじして、やはり忙しそうに棒かくしをしたり、

(またさぶろうのほうへいくものが、ありませんでした。)

又三郎のほうへ行くものが、ありませんでした。

(またさぶろうはちょっとぐあいがわるいように、そこにつったっていましたが、)

又三郎はちょっと工合が悪いように、そこにつっ立っていましたが、

(またうんどうじょうをもういちどみまわしました。)

また運動場をもう一度見まわしました。

(それからぜんたいこのうんどうじょうはなんげんあるかというように、)

それからぜんたいこの運動場は何間あるかというように、

(せいもんからげんかんまでおおまたに、ほすうをかぞえながらあるきはじめました。)

正門から玄関まで大股に、歩数を数えながら歩きはじめました。

(こういちはいそいでてつぼうをはねおりて、)

孝一は急いで鉄棒をはねおりて、

(かすけとならんで、いきをこらしてそれをみていました。)

嘉助とならんで、息をこらしてそれを見ていました。

(そのうちまたさぶろうはむこうのげんかんのまえまでいってしまうと、)

そのうち又三郎はむこうの玄関の前まで行ってしまうと、

(こっちへむいてしばらくあんざんをするように、すこしくびをまげてたっていました。)

こっちへ向いてしばらく暗算をするように、少し首をまげて立っていました。

(みんなはやはり、きろきろそっちをみています。)

みんなはやはり、きろきろそっちを見ています。

(またさぶろうはすこしこまったように、りょうてをうしろへくむと、)

又三郎は少し困ったように、両手をうしろへ組むと、

(むこうがわのどてのほうへ、しょくいんしつのまえをとおってあるきだしました。)

むこう側の土手の方へ、職員室の前を通って歩きだしました。

(そのときかぜがざあっとふいてきて、どてのくさはざわざわなみになり、)

その時風がざあっと吹いてきて、土手の草はざわざわ波になり、

(うんどうじょうのまんなかで、さあっとちりがあがり、)

運動場のまん中で、さあっとちりがあがり、

(それがげんかんのまえまでいくと、きりきりとまわってちいさなつむじかぜになって、)

それが玄関の前まで行くと、きりきりとまわって小さなつむじ風になって、

(きいろなちりは、びんをさかさまにしたようなかたちになって、)

黄いろなちりは、びんをさかさまにしたような形になって、

(やねよりたかくのぼりました。)

屋根より高くのぼりました。

(するとかすけがとつぜんたかくいいました。)

すると嘉助が突然高くいいました。

(「そうだ。やっぱりあいづ、またさぶろうだぞ。)

「そうだ。やっぱりあいづ、又三郎だぞ。

(あいづなにかすると、きっとかぜふいてくるぞ。」)

あいづ何かすると、きっと風吹いてくるぞ。」

(「うん。」こういちはどうだかわからないとおもいながらも、)

「うん。」孝一はどうだかわからないと思いながらも、

(だまってそっちをみていました。)

だまってそっちを見ていました。

(またさぶろうはそんなことにはかまわず、)

又三郎はそんなことにはかまわず、

(どてのほうへ、やはりすたすたとあるいていきます。)

土手のほうへ、やはりすたすたと歩いて行きます。

(そのときせんせいがいつものように、よびこをもってげんかんをでてきたのです。)

そのとき先生がいつものように、呼子をもって玄関を出てきたのです。

(「おはようございます。」ちいさなこどもらは、みんなあつまりました。)

「お早うございます。」小さな子どもらは、みんな集まりました。

(「おはよう。」せんせいはちらっとうんどうじょうをみまわしてから、)

「お早う。」先生はちらっと運動場を見まわしてから、

(「ではならんで。」といいながらぷるるっとふえをふきました。)

「ではならんで。」といいながらプルルッと笛を吹きました。

(みんなはあつまってきて、きのうのとおりきちんとならびました。)

みんなは集まってきて、昨日のとおりきちんとならびました。

(またさぶろうもきのういわれたところへちゃんとたっています。)

又三郎も昨日いわれた所へちゃんと立っています。

(せんせいはおひさまがまっしょうめんなので、すこしまぶしそうにしながら、)

先生はお日さまがまっ正面なので、すこしまぶしそうにしながら、

(ごうれいをだんだんかけて、とうとうみんなはしょうこうぐちからきょうしつへはいりました。)

号令をだんだんかけて、とうとうみんなは昇降口から教室へ入りました。

(そしてれいがすむとせんせいは、)

そして礼がすむと先生は、

(「ではみなさん、きょうからべんきょうをはじめましょう。)

「ではみなさん、今日から勉強をはじめましょう。

(みなさんはちゃんとおどうぐをもってきましたね。)

みなさんはちゃんとお道具をもってきましたね。

(ではいちねんせいとにねんせいのひとはおしゅうじのおてほんとすずりとかみをだして、)

では一年生と二年生の人はお習字のお手本と硯と紙を出して、

(さんねんせいとよねんせいのひとはさんじゅつちょうとざっきちょうとえんぴつをだして、)

三年生と四年生の人は算術帳と雑記帳と鉛筆を出して、

(ごねんせいとろくねんせいのひとはこくごのほんをだしてください。」)

五年生と六年生の人は国語の本を出してください。」

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