風の又三郎 14

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九月七日 さいかち淵
宮沢賢治 作 全文

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(くがつなのか)

九 月 七 日

(つぎのあさはきりがじめじめふって、)

次の朝は霧がじめじめ降って、

(がっこうのうしろのやまも、ぼんやりしかみえませんでした。)

学校のうしろの山も、ぼんやりしか見えませんでした。

(ところがきょうもにじかんめころから、だんだんはれて、)

ところが今日も二時間目ころから、だんだん晴れて、

(まもなくそらはまっさおになり、ひはかんかんてって、)

間もなく空はまっ青になり、日はかんかん照って、

(おひるになってさんねんせいからしたがさがってしまうと、)

お午になって三年生から下が下ってしまうと、

(まるでなつのようにあつくなってしまいました。)

まるで夏のように暑くなってしまいました。

(ひるすぎはせんせいもたびたびきょうだんであせをふき、)

ひるすぎは先生もたびたび教壇で汗を拭き、

(よねんせいのしゅうじも、ごねんせいろくねんせいのずがも、まるでむしあつくて、)

四年生の習字も、五年生六年生の図画も、まるでむし暑くて、

(かきながらうとうとするのでした。)

書きながらうとうとするのでした。

(じゅぎょうがすむと、みんなはすぐかわしものほうへそろってでかけました。)

授業が済むと、みんなはすぐ川下の方へそろって出掛けました。

(かすけが、)

嘉助が、

(「またさぶろう、みずあびにいがなぃが。)

「又三郎、水泳(ア)びに行がなぃが。

(ちいさいやづど、いまころみんないってるぞ。」といいましたので、)

小さいやづど、今ころみんな行ってるぞ。」といいましたので、

(またさぶろうもついていきました。)

又三郎もついて行きました。

(そこはこのまえ、うえののはらへいったところよりも、もすこしかりゅうで、)

そこはこの前、上の野原へ行ったところよりも、も少し下流で、

(みぎのほうからもひとつのたにがわがはいってきて、すこしひろいかわらになり、)

右の方からも一つの谷川がはいって来て、少し広い河原になり、

(そのすぐかりゅうは、おおきなさいかちのきのはえたがけになっているのでした。)

そのすぐ下流は、巨きなさいかちの樹の生えた崖になっているのでした。

(「おおい。」と、さきにきているこどもらが、)

「おおい。」と、さきに来ているこどもらが、

(はだかでりょうてをあげてさけびました。)

はだかで両手をあげて叫びました。

など

(いちろうやみんなは、かわらのねむのきのあいだを、まるでときょうそうのようにはしって、)

一郎やみんなは、河原のねむの木の間を、まるで徒競争のように走って、

(いきなりきものをぬぐと、すぐどぶんどぶんとみずにとびこんで、)

いきなりきものをぬぐと、すぐどぶんどぶんと水に飛び込んで、

(りょうあしをかわるがわるまげて、だぁんだぁんとみずをたたくようにしながら、)

両足をかわるがわる曲げて、だぁんだぁんと水をたたくようにしながら、

(ななめにならんでむこうぎしへおよぎはじめました。)

斜めにならんで向う岸へ泳ぎはじめました。

(まえにいたこどもらも、あとからおいついておよぎはじめました。)

前に居たこどもらも、あとから追い付いて泳ぎはじめました。

(またさぶろうもきものをぬいで、みんなのあとからおよぎはじめましたが、)

又三郎もきものをぬいで、みんなのあとから泳ぎはじめましたが、

(とちゅうでこえをあげてわらいました。)

途中で声をあげてわらいました。

(するとむこうぎしについたいちろうが、かみをあざらしのようにして、)

すると向う岸についた一郎が、髪をあざらしのようにして、

(くちびるをむらさきにしてわくわくふるえながら、)

唇を紫にしてわくわくふるえながら、

(「わあまたさぶろう、なしてわらった。」といいました。)

「わあ又三郎、何(ナ)してわらった。」といいました。

(またさぶろうはやはりふるえながらみずからあがって、)

又三郎はやはりふるえながら水からあがって、

(「このかわつめたいなあ。」といいました。)

「この川冷たいなあ。」といいました。

(「またさぶろうなしてわらった?」いちろうはまたききました。)

「又三郎何してわらった?」一郎はまたききました。

(「おまえたちのおよぎかたはおかしいや。なぜあしをだぶだぶならすんだい。」)

「おまえたちの泳ぎ方はおかしいや。なぜ足をだぶだぶ鳴らすんだい。」

(といいながらまたわらいました。)

といいながらまた笑いました。

(「うわあい。」といちろうはいいましたが、なんだかきまりがわるくなったように、)

「うわあい。」と一郎はいいましたが、何だかきまりが悪くなったように、

(「いしとりさなぃが。」といいながら、しろいまるいいしをひろいました。)

「石取りさなぃが。」といいながら、白い円い石をひろいました。

(「するする。」こどもらがみんなさけびました。)

「するする。」こどもらがみんな叫びました。

(おれ、それでぁあのきのうえがらおとすがらな。といちろうはいいながら、)

おれ、それでぁあの木の上がら落すがらな。と一郎はいいながら、

(がけのなかごろからでているさいかちのきへ、するするのぼっていきました。)

崖の中ごろから出ているさいかちの木へ、するする昇って行きました。

(そして、)

そして、

(「さあおとすぞ、いちにさん。」といいながら、)

「さあ落すぞ、一二三。」といいながら、

(そのしろいいしをどぶーん、とふちへおとしました。)

その白い石をどぶーん、と淵へ落しました。

(みんなは、われがちにきしからまっさかさまにみずにとびこんで、)

みんなは、われ勝に岸からまっさかさまに水にとび込んで、

(あおじろいらっこのようなかたちをしてそこへもぐって、そのいしをとろうとしました。)

青白いらっこのような形をして底へ潜って、その石をとろうとしました。

(けれどもみんな、そこまでいかないにいきがつまってうかびだしてきて、)

けれどもみんな、底まで行かないに息がつまって浮びだして来て、

(かわるがわる、ふうとそらへきりをふきました。)

かわるがわる、ふうとそらへ霧をふきました。

(またさぶろうはじっとみんなのするのをみていましたが、)

又三郎はじっとみんなのするのを見ていましたが、

(みんながうかんできてから、じぶんもどぶんとはいっていきました。)

みんなが浮んできてから、じぶんもどぶんとはいって行きました。

(けれどもやっぱりそこまでとどかずに、ういてきたので、)

けれどもやっぱり底まで届かずに、浮いてきたので、

(みんなはどっとわらいました。)

みんなはどっと笑いました。

(そのときむこうのかわらのねむのきのところをおとながよにん、)

そのとき向うの河原のねむの木のところを大人が四人、

(はだぬぎになったり、あみをもったりしてこっちへくるのでした。)

肌ぬぎになったり、網をもったりしてこっちへ来るのでした。

(するといちろうはきのうえで、まるでこえをひくくしてみんなにさけびました。)

すると一郎は木の上で、まるで声をひくくしてみんなに叫びました。

(「おお、はっぱだぞ。しらないふりしてろ。)

「おお、発破だぞ。知らないふりしてろ。

(いしとりやめではやぐみんなしもささがれ。」)

石とりやめで早ぐみんな下流(シモ)ささがれ。」

(そこでみんなは、なるべくそっちをみないふりをしながら、)

そこでみんなは、なるべくそっちを見ないふりをしながら、

(いっしょにしものほうへおよぎました。)

いっしょに下流の方へ泳ぎました。

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