耳なし芳一 3 /9
侍は「わが主君は、そなたの琵琶で、壇ノ浦の合戦をご所望である。」
小泉八雲/原作
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問題文
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(「わたしはめしいでございます。どなたさまがおよびか、)
「私は盲でございます。どなた様がお呼びか、
(わかりかねるのでございますが」)
わかりかねるのでございますが」
(「なにもこわがることはない」)
「なにも怖がることはない」
(と、そのみしらぬものはいくぶんこえをやわらげて、)
と、その見知らぬ者はいくぶん声を和らげて、
(「わしはこのてらのちかくにやどをとっておるものだが、)
「わしはこの寺の近くに宿をとっておる者だが、
(ごしゅくんからのつかいでこうしてまいったのじゃ。)
ご主君からの使いでこうして参ったのじゃ。
(わがきみはたいそうやんごとないおかたで、)
わが君はたいそうやんごとないお方で、
(このたびおおぜいのきぞくをともにしたがえて、)
このたびおおぜいの貴族を伴に従えて、
(このあかまがせきにたいざいしておられる。)
この赤間ヶ関に滞在しておられる。
(だんのうらのかっせんのあとをごらんになりたいとのおおせで、)
壇ノ浦の合戦の跡をご覧になりたいとの仰せで、
(ほんじつそのちをおとずれになられた。)
本日その地を訪れになられた。
(ついては、そなたがかっせんのもようをかたるのがじょうずだとおききおよびになり、)
ついては、そなたが合戦の模様を語るのが上手だとお聞き及びになり、
(ぜひともそのびわをききたいとのごしょもうなのだ。)
ぜひともその琵琶を聞きたいとのご所望なのだ。
(さあ、さっそくびわをもって、わしについてまいれ。)
さあ、さっそく琵琶を持って、わしについて参れ。
(おやかたではこうきなかたがたがおまちかねであるぞ」)
お館では高貴な方々がお待ちかねであるぞ」
(とうじはさむらいのめいれいとあれば、)
当時は侍の命令とあれば、
(かるがるしくそむくわけにはまいりません。)
軽々しく背くわけには参りません。
(ほういちはぞうりをはき、びわをたずさえて、みしらぬおとこのあとにしたがいました。)
芳一は草履をはき、琵琶をたずさえて、見知らぬ男の後に従いました。
(さむらいはきようにさきをみちびいてくれたものの、)
侍は器用に先を導いてくれたものの、
(ほういちはたいへんなはやさであるかねばなりませんでした。)
芳一は大変な速さで歩かねばなりませんでした。
など
(ほういちをひいていく、そのてはてつのようでありました。)
芳一を引いていく、その手は鉄のようでありました。
(それに、さむらいがおおまたにふみだすごとに、がちゃりとおもいおとがするのは、)
それに、侍が大股に踏み出すごとに、がちゃりと重い音がするのは、
(どうやらよろいかぶとをみにつけているためです。)
どうやら鎧兜を身に着けているためです。
(おそらく、ごてんけいごにあたるぶしなのでありましょう。)
おそらく、御殿警護にあたる武士なのでありましょう。
(さいしょのきょうふしんがおさまってみると、)
最初の恐怖心が収まってみると、
(ほういちはわがみのうんがめぐってきたのかとおもいました。)
芳一はわが身の運がめぐってきたのかと思いました。
(ーーこのごけにんが、「たいそうやんごとないおかた」というからには、)
ーーこの御家人が、「たいそうやんごとないお方」というからには、
(びわをききたいとおっしゃるとのさまは、)
琵琶を聞きたいとおっしゃる殿さまは、
(まずいちりゅうのだいみょうにちがいあるまい。)
まず一流の大名に違いあるまい。
(やがて、さむらいはたちどまりました。)
やがて、侍は立ちどまりました。
(きがついてみると、いつしかおおきなもんのまえについております。)
気がついてみると、いつしか大きな門の前に着いております。
(はては、とほういちはいぶかしくおもいました。)
はては、と芳一はいぶかしく思いました。
(それにしても、あみだじのせいもんのほかに、)
それにしても、阿弥陀寺の正門のほかに、
(こんなおおきなもんがこのまちのあたりにあっただろうか。)
こんな大きな門がこの町のあたりにあっただろうか。