耳なし芳一 5 /9

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プレイ回数1423難易度(4.1) 2308打 長文
二位の局が幼帝と海中に飛び込む段では啜り泣きと嘆きが響きました。
小泉八雲/原作

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問題文

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(そこでほういちはこえをはりあげ、)

そこで芳一は声を張り上げ、

(かんなんをきわめたかいせんのもようをかたりだしました。)

艱難を極めた海戦の模様を語りだしました。

(ーーびわをたくみにかきならして、)

ーー琵琶を巧みにかき鳴らして、

(かいをあやつるおと、ぐんせんがなみがしらをきってすすむおと、)

櫂をあやつる音、軍船が波頭を切ってすすむ音、

(ゆみやのひゅうひゅうととびかうひびき、)

弓矢のひゅうひゅうと飛び交う響き、

(つわものどものおたけびのこえやあしをふみならすおと、)

つわものどもの雄叫びの声や足を踏み鳴らす音、

(かぶとにうちあたるたちのにぶいおと、)

兜に打ち当たる太刀の鈍い音、

(うたれたものがかいちゅうにおちるおとなどを、)

打たれた者が海中に落ちる音などを、

(それはもののみごとにひょうげんしてみせました。)

それはものの見事に表現してみせました。

(えんそうのあいまに、ほういちのみみにはみぎからひだりからも)

演奏の合間に、芳一の耳には右から左からも

(しょうさんのつぶやきがきこえてきます。)

称賛のつぶやきが聞こえてきます。

(「これはまた、なんとすばらしいうでまえじゃ」)

「これはまた、なんとすばらしい腕前じゃ」

(「これほどにみごとなびわは、みやこでもきいたためしがありませぬ」)

「これほどに見事な琵琶は、都でもきいたためしがありませぬ」

(「いや、いかにひのもとひろしといえども、)

「いや、いかに日の本広しといえども、

(このほういちほどのかたりてはござりますまい」)

この芳一ほどの語り手はござりますまい」

(そこでほういちはいよいよげんきがわいてきて、)

そこで芳一はいよいよ元気が湧いてきて、

(まえよりいっそうたくみにだんじ、かつかたりました。)

前よりいっそう巧みに弾じ、かつ語りました。

(もはやしゅういはかんたんのあまり、じっとちんもくしてききいっております。)

もはや周囲は感嘆のあまり、じっと沈黙して聴き入っております。

(さて、いよいよおんなこどもという、うつくしきひと、かよわきものたちの)

さて、いよいよ女子どもという、美しき人、か弱き者たちの

(かなしいさいごをかたるだんにさしかかりますと、)

悲しい最期を語る段にさしかかりますと、

など

(とりわけにいのつぼねがようていをむねにかきいだいて、)

とりわけ二位の局が幼帝を胸にかき抱いて、

(かいちゅうにとびこむくだりにまいりますと、)

海中に飛び込む件に参りますと、

(きくものはだれもかれも、おののきふるえんばかりに、)

聞く者は誰もかれも、おののき震えんばかりに、

(ながいながいくもんのさけびをあげました。)

長い長い苦悶の叫びをあげました。

(そうして、ひどくこわだかにくるおしくむせびなきますので、)

そうして、ひどく声高に狂おしくむせび泣きますので、

(もうじんはみずからひきおこしたあまりにはげしいかなしさに、)

盲人はみずから引き起こしたあまりに激しい悲しさに、

(われながらおそろしくなったほどでありました。)

我ながら恐ろしくなったほどでありました。

(そのまま、すすりなきとなげきはながらくやみませんでした。)

そのまま、すすり泣きと嘆きは長らく止みませんでした。

(それでも、しだいにそのひたんのこえもよわまっていき、)

それでも、次第にその悲嘆の声も弱まっていき、

(いつしかふかいしずけさが、それにとってかわりました。)

いつしか深い静けさが、それに撮って代わりました。

(と、そのとき、ほういちはふたたび)

と、そのとき、芳一はふたたび

(さきほどのろうじょとおもえるおんなのこえをみみにしました。)

先ほどの老女と思える女の声を耳にしました。

(「かねてより、そなたがびわのめいしゅとはきいておりましたけれど、)

「かねてより、そなたが琵琶の名手とは聞いておりましたけれど、

(こよいのびわはまことにもってすばらしいものでござりました。)

今宵の琵琶はまことにもって素晴らしいものでござりました。

(これほどのものがよにあろうとはおもってもみませんでしたぞ。)

これほどの者が世にあろうとは思ってもみませんでしたぞ。

(わがきみもたいそうおよろこびのごようすで、)

わが君もたいそうお喜びのご様子で、

(しかるべきほうびをたまわるとのおおせです。)

しかるべき褒美をたまわるとの仰せです。

(あとむいかかんはとうちにおとまりなされるので、)

あと六日間は当地にお泊まりなされるので、

(そのあいだ、まいばんおまえでびわをひくようにとのごしょもうでござりまする。)

その間、毎晩御前で琵琶を弾くようにとのご所望でござりまする。

(それゆえ、みょうばんもおなじじこくにきょうとおなじつかいのものをさしむけましょう。)

それゆえ、明晩も同じ時刻に今日と同じ使いの者を差し向けましょう。

(ーーそれから、もうひとつだけそなたにもうしつかわしておきますが、)

ーーそれから、もう一つだけそなたに申しつかわしておきますが、

(あかまがせきにわがきみのごたいざいちゅう、そなたがこちらにうかがったことは、)

赤間ヶ関にわが君のご滞在中、そなたがこちらに伺ったことは、

(けっしてだれにもこうがいしてはなりませぬぞ。)

決して誰にも口外してはなりませぬぞ。

(このたびはおしのびのたびであらせられますから、)

このたびはお忍びの旅であらせられますから、

(かようなことはなんびとにももらしてはなりませぬーー)

かようなことは何人にも漏らしてはなりませぬーー

(さあ、それではこれにててらにもどるがよい」)

さあ、それではこれにて寺に戻るがよい」

(うやうやしくれいをのべると、ほういちはおじょちゅうのてにみちびかれて、)

うやうやしく礼を述べると、芳一はお女中の手に導かれて、

(げんかんぐちまでやってきました。)

玄関口までやって来ました。

(そこには、このやかたまでみちあんないしてくれたぶしがまっていて、)

そこには、この館まで道案内してくれた武士が待っていて、

(そこからさきは、てらのうらにわのえんさきまで、ぶじにおくりとどけてくれました。)

そこから先は、寺の裏庭の縁先まで、無事に送り届けてくれました。

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