銀河鉄道の夜 17

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七、北十字とプリオシン海岸 (1/6)  
 宮沢賢治 作
「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。」
いきなり、カムパネルラが、思い切ったというように、少しどもりながら、せきこんでいいました。

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問題文

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(なな、きたじゅうじとぷりおしんかいがん)

七、北十字とプリオシン海岸

(「おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるだろうか。」)

「おっかさんは、ぼくをゆるして下さるだろうか。」

(いきなり、かむぱねるらが、おもいきったというように、)

いきなり、カムパネルラが、思い切ったというように、

(すこしどもりながら、せきこんでいいました。)

少しどもりながら、せきこんでいいました。

(じょばんには、)

ジョバンニは、

((ああ、そうだ、ぼくのおっかさんは、)

(ああ、そうだ、ぼくのおっかさんは、

(あのとおいひとつのちりのようにみえる)

あの遠い一つのちりのように見える

(だいだいいろのさんかくひょうのあたりにいらっしゃって、)

橙いろの三角標のあたりにいらっしゃって、

(いまぼくのことをかんがえているんだった。))

いまぼくのことを考えているんだった。)

(とおもいながら、ぼんやりしてだまっていました。)

と思いながら、ぼんやりしてだまっていました。

(「ぼくはおっかさんが、ほんとうにしあわせになるなら、)

「ぼくはおっかさんが、ほんとうにしあわせになるなら、

(どんなことでもする。)

どんなことでもする。

(けれども、いったいどんなことが、)

けれども、いったいどんなことが、

(おっかさんのいちばんのしあわせなんだろう。」)

おっかさんのいちばんのしあわせなんだろう。」

(かむぱねるらは、なんだか、なきだしたいのを、)

カムパネルラは、なんだか、泣きだしたいのを、

(いっしょうけんめいこらえているようでした。)

一生けんめいこらえているようでした。

(「きみのおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの。」)

「きみのおっかさんは、なんにもひどいことないじゃないの。」

(じょばんにはびっくりしてさけびました。)

ジョバンニはびっくりして叫びました。

(「ぼくわからない。けれども、だれだって、)

「ぼくわからない。けれども、誰だって、

(ほんとうにいいことをしたら、いちばんしあわせなんだねえ。)

ほんとうにいいことをしたら、いちばんしあわせなんだねえ。

など

(だから、おっかさんは、ぼくをゆるしてくださるとおもう。」)

だから、おっかさんは、ぼくをゆるして下さると思う。」

(かむぱねるらは、なにかほんとうにけっしんしているようにみえました。)

カムパネルラは、なにかほんとうに決心しているように見えました。

(にわかに、くるまのなかが、ぱっとしろくあかるくなりました。)

にわかに、車のなかが、ぱっと白く明るくなりました。

(みると、もうじつに、こんごうせきやくさのつゆや)

見ると、もうじつに、金剛石や草の露や

(あらゆるりっぱさをあつめたような、)

あらゆるりっぱさをあつめたような、

(きらびやかなぎんがのかわどこのうえをみずはこえもなくかたちもなくながれ、)

きらびやかな銀河の河床の上を水は声もなくかたちもなく流れ、

(そのながれのまんなかに、)

その流れのまん中に、

(ぼうっとあおじろくごこうのさしたひとつのしまがみえるのでした。)

ぼうっと青白く後光の射した一つの島が見えるのでした。

(そのしまのたいらないただきに、)

その島の平らないただきに、

(りっぱなめもさめるような、しろいじゅうじかがたって、)

りっぱな目もさめるような、白い十字架がたって、

(それはもうこおったほっきょくのくもでいたといったらいいか、)

それはもう凍った北極の雲で鋳たといったらいいか、

(すきっとしたきんいろのえんこうをいただいて、)

すきっとした金いろの円光をいただいて、

(しずかにえいきゅうにたっているのでした。)

しずかに永久に立っているのでした。

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