半七捕物帳 弁天娘18(終)

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問題文
(「それでもおとめはすなおにはくじょうしたんですね」)
「それでもお留は素直に白状したんですね」
(「じしんばんからかえってきたところをつかまえてせんぎすると、はじめはもちろん)
「自身番から帰って来たところをつかまえて詮議すると、初めは勿論
(しらをきっていましたが、さざえのからとつつみとをつきつけられて、)
しらを切っていましたが、蠑螺の殻と包みとをつきつけられて、
(いちもにもなくおそれいりました。よそからはいったぞくならば、そのかねをもって)
一も二もなく恐れ入りました。よそからはいった賊ならば、その金を持って
(にげるはず。わざわざかいがらなんぞへおしこんでいくわけがありません。)
逃げる筈。わざわざ貝殻なんぞへ押し込んで行くわけがありません。
(おまけにつつみがみにのこっているゆびのあとが、おとめのゆびとぴったりあって)
おまけに包み紙に残っている指のあとが、お留の指とぴったり合って
(いるんですから、うごきがとれません。ていしゅをころしたどたばたさわぎで、)
いるんですから、動きが取れません。亭主を殺したどたばた騒ぎで、
(となりのたびやがおきてきたので、おとめはてにもっているそのかねの)
隣りの足袋屋が起きて来たので、お留は手に持っているその金の
(かくしばにこまって、みせのかいがらへあわてておしこんだのがうんのつきでした。)
隠し場に困って、店の貝殻へあわてて押し込んだのが運の尽きでした。
(とうにんのはくじょうによると、とくぞうをころしたあとでいっぽうのでんすけとふうふになるきでもなく、)
当人の白状によると、徳蔵を殺したあとで一方の伝介と夫婦になる気でもなく、
(かねてたくわえてあるろく、しちりょうのかねとそのひゃくりょうとをもって、こきょうのなごやへかえって)
かねて貯えてある六、七両の金とその百両とを持って、故郷の名古屋へ帰って
(かねかしでもするつもりだったそうです。そうなると、いろおとこのでんすけもおきざりを)
金貸しでもするつもりだったそうです。そうなると、色男の伝介も置き去りを
(くうわけで、いのちをとられないのがしあわせだったかもしれませんよ。)
食うわけで、命を取られないのが仕合わせだったかも知れませんよ。
(おとめはむろんじゅうざいですから、ひきまわしのうえ、せんじゅではりつけに)
お留は無論重罪ですから、引き廻しの上、千住で磔刑(はりつけ)に
(かけられました」)
かけられました」
(これでさかなやのほうのもんだいはかいけつしたが、まだわたしのきにかかっているのは)
これで魚屋の方の問題は解決したが、まだ私の気にかかっているのは
(やましろやのむすめのいっけんであった。いっぽうにこうしたじゅうざいはんをだしたいじょう、)
山城屋の娘の一件であった。一方にこうした重罪犯を出した以上、
(そのひゃくりょうのでどころもとうぜんぎんみされなければなるまい。それについて)
その百両の出所も当然吟味されなければなるまい。それについて
(はんしちろうじんのせつめいをもとめると、ろうじんはしずかにこたえた。)
半七老人の説明を求めると、老人はしずかに答えた。
(「やましろやはきのどくでした。せっかくぶじにすませたものを、このさわぎのために)
「山城屋は気の毒でした。折角無事に済ませたものを、この騒ぎのために
(なにもかもばれてしまいました。おこのはそれについてもちろんぎんみをうけることに)
何もかもばれてしまいました。お此はそれについて勿論吟味をうけることに
(なりましたが、こぞうのいっけんはすべてわたくしのかんていどおりで、げしゅにんには)
なりましたが、小僧の一件はすべてわたくしの鑑定通りで、下手人には
(とられずにまずことずみになりましたが、もうこうなったらいよいよ)
取られずにまず事済みになりましたが、もうこうなったらいよいよ
(えんどおくなって、むこもよめもあったもんじゃありません。やましろやでもあきらめて、)
縁遠くなって、婿も嫁もあったもんじゃありません。山城屋でもあきらめて、
(ばんとうのりへえにいんがをふくめて、むりにむこになってもらうことにしました。)
番頭の利兵衛に因果をふくめて、無理に婿になって貰うことにしました。
(りへえもいろいろことわったんですが、しゅじんのほうからわたくしのほうへ)
利兵衛もいろいろ断わったんですが、主人の方からわたくしの方へ
(たのんできまして、りへえをあるところへよんで、しゅじんはてをさげないばかりに)
頼んで来まして、利兵衛を或るところへ呼んで、主人は手を下げないばかりに
(たのみ、わたくしもそばからくちをそえて、どうにかまあなっとくさせたんです。)
頼み、わたくしもそばから口を添えて、どうにかまあ納得させたんです。
(むすめもあんがいすなおにしょうちして、とどこおりなくしゅうげんのしきもすませ、)
娘も案外素直に承知して、とどこおりなく祝言(しゅうげん)の式もすませ、
(ふうふなかもしごくむつまじいので、まあよかったとしゅじんもあんしんし、)
夫婦仲も至極むつまじいので、まあよかったと主人も安心し、
(わたくしもかげながらよろこんでいましたが、そのあくるとしにむすめはしにました」)
わたくしも蔭ながら喜んでいましたが、そのあくる年に娘は死にました」
(「びょうしですか」と、わたしはすぐにききかえした。)
「病死ですか」と、私はすぐに訊き返した。
(「いいえ、なんでもろくがつごろでしたろうか、あるばんそっとぬけだして)
「いいえ、なんでも六月頃でしたろうか、ある晩そっとぬけ出して
(しのばずのいけへみをなげたんです。しがいがみつからないなんていうのはうそで、)
不忍の池へ身を投げたんです。死骸が見付からないなんていうのは嘘で、
(はすのあいだにうきあがったしがいはたしかにやましろやでひきとりました。)
蓮のあいだに浮きあがった死骸はたしかに山城屋で引き取りました。
(いっそしぬならば、むこをとらないうちにしにそうなもんでしたが、)
いっそ死ぬならば、婿を取らないうちに死にそうなもんでしたが、
(どういうわけかわかりません。べんてんさまのもうしごはとうとうべんてんさまに)
どういうわけか判りません。弁天様の申し子はとうとう弁天様に
(とりかえされたのだとせけんではもっぱらうわさしていました。そうして、)
取り返されたのだと世間では専ら噂していました。そうして、
(みのひのばんにはいけのうえでむすめのすがたをみたものがあるとかいって)
巳(み)の日の晩には池のうえで娘の姿を見たものがあるとか云って
(いましたが、うそかほんとうかしりません」)
いましたが、嘘かほんとうか知りません」