夢十夜 9

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プレイ回数63難易度(4.2) 1661打 長文 かな

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(だいごや)

第五夜

(こんなゆめをみた。)

こんな夢を見た。

(なんでもよほどふるいことで、かみよにちかいむかしをおもわれるが)

何でもよほど古い事で、神代に近い昔を思われるが

(じぶんがいくさをしてうんわるくまけたために、いけどりになって)

自分が軍をして運悪く敗北たために、生捕になって

(てきのたいしょうのまえにひきすえられた。)

敵の大将の前に引き据えられた。

(そのころのひとはみんなせがたかかった。そうして、みんなながいひげをはやしていた。)

その頃の人はみんな背が高かった。そうして、みんな長い髭を生やしていた。

(かわのおびをしめて、それへぼうのようなけんをつるしていた。)

革の帯を締めて、それへ棒のような剣を釣るしていた。

(ゆみはふじづるのふといのをそのままもちいたようにみえた。)

弓は藤蔓の太いのをそのまま用いたように見えた。

(うるしもぬってなければみがきもかけてない。きわめてそぼくなものだった。)

漆も塗ってなければ磨きもかけてない。極めて素朴なものだった。

(てきのたいしょうは、ゆみのまんなかをみぎのてでにぎって、そのゆみをくさのうえへついて)

敵の大将は、弓の真中を右の手で握って、その弓を草の上へ突いて

(さかがめをふせたようなもののうえにこしをかけていた。)

酒甕を伏せたようなものの上に腰をかけていた。

(そのかおをみると、はなのうえで、さゆうのまゆがふとくせつぞくっている。)

その顔を見ると、鼻の上で、左右の眉が太く接続っている。

(そのころ、かみそりというものはむろんなかった。)

その頃、剃刀と云うものは無論なかった。

(じぶんはとりこだから、こしをかけるわけにいかない。)

自分は虜だから、腰をかける訳に行かない。

(ぐさのうえにあぐらをかいていた。あしにはおおきなわらぐつをはいていた。)

草の上に胡坐をかいていた。足には大きな藁沓を穿いていた。

(このじだいのわらぐつはふかいものであった。たつとひざがしらまできた。)

この時代の藁沓は深いものであった。立つと膝頭まできた。

(そのはしのところはわらをすこしあみのこして、ぼうのようにさげて)

その端の所は藁を少し編残して、房のように下げて

(あるくとばらばらうごくようにしてかざりとしていた。)

歩くとばらばら動くようにして飾りとしていた。

(たいしょうはかがりびでじぶんのかおをみて、しぬかいきるかときいた。)

大正は篝火で自分の顔を見て、死ぬか生きるかと聞いた。

(これはそのころのしゅうかんで、ほりょにはだれでもいちおうはこうきいたものである。)

これはその頃の習慣で、捕虜にはだれでも一応はこう聞いたものである。

など

(いきるとこたえるとこうさんしたいみで、しぬというとくっぷくしないということになる。)

生きると答えると降参した意味で、死ぬと云うと屈服しないと云う事になる。

(じぶんはひとことしぬとこたえた。たいしょうはくさのうえについていたゆみをむこうへなげて)

自分は一言死ぬと答えた。大将は草の上に突いていた弓を向うへ投げて

(ごしにつりしたぼうのようなけんをするりとぬきかけた。)

腰に釣した棒のような剣をするりと抜きかけた。

(それへかぜになびいたかがりびがよこからふきつけた。)

それへ風に靡いた篝火が横から吹きつけた。

(じぶんはみぎのてをかえでのようにひらいて、てのひらをたいしょうのほうへむけて)

自分は右の手を楓のように開いて、掌を大将の方へ向けて

(めのうえへさしあげた。まてというあいずである。)

眼の上へ差し上げた。待てと云う合図である。

(たいしょうはふといけんをかちゃりとさやにおさめた。)

大将は太い剣をかちゃりと鞘に収めた。

(そのころでもこいはあった。じぶんはしぬまえにひとめおもうおんなにあいたいといった。)

その頃でも恋はあった。自分は死ぬ前に一目思う女に逢いたいと云った。

(たいしょうはよるがあけてにわとりがなくまでならまつといった。)

大将は夜が明けて鶏が鳴くまでなら待つと云った。

(にわとりがなくまでにおんなをここへよばなければならない。)

鶏が鳴くまでに女をここへ呼ばなければならない。

(にわとりがないてもおんながこなければ、じぶんはあわずにころされてしまう。)

鶏が鳴いても女が来なければ、自分は逢わずに殺されてしまう。

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