嫁取婿取 2

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佐々木邦 作

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問題文

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(かいしゃのひまじんがこしらえたこぶくしゃばんふによると、ひがしのおおぜきがしゃちょうのじゅうにんで)

会社の閑人が拵えた子福者番附によると、東の大関が社長の十人で

(にしのおおぜきがやましたさんのはちにんだ。)

西の大関が山下さんの八人だ。

(しかししゃちょうはこどものじまんをしない。もっともみなこのましくないそうだ。)

しかし社長は子供の自慢をしない。尤も皆好ましくないそうだ。

(それにざいさんとかしょがこっとうとかとほかにほこるべきものがある。)

それに財産とか書画骨董とかと他に誇るべきものがある。

(ところがやましたさんはこどもがゆいいつのしょゆうぶつだからくちをあけばこどものことがでる。)

ところが山下さんは子供が唯一の所有物だから口を開けば子供の事がでる。

(「ぼくはこどものないふうふにほんとうのじんせいはわかるまいとおもうが)

「僕は子供のない夫婦に真正の人生は分かるまいと思うが

(どうだね?」とぶかにはなしかける。)

何うだね?」と部下に話しかける。

(「それはそうですよ」とたいていはこどもでくろうしている。)

「それはそうですよ」と大抵は子供で苦労している。

(「こどもがなければふうふのじょうあいそのものもわかるまいとおもうが)

「子供がなければ夫婦の情愛そのものも分かるまいと思うが

(どうだね?」「それはすこしごむりでしょうな」)

何うだね?」「それは少し御無理でしょうな」

(となかにはこどものないものもある。「なぜ?」)

と中には子供のないものもある。「何故?」

(「ふうふのじょうあいはふうふのじょうあいでしょう。)

「夫婦の情愛は夫婦の情愛でしょう。

(こどものあるなしにはかんけいありますまい」)

子供のあるなしには関係ありますまい」

(「いや、こどもがなければほんとうのふうふとはいえない。)

「いや、子供がなければ真正の夫婦とはいえない。

(まあいっしょうじょうふとどうせいしているようなかたちだからね」と)

まあ一生情婦と同棲しているような形だからね」と

(やましたさんはきょくたんなことをいう。「おやおや」)

山下さんは極端な事を言う。「おやおや」

(「ゆうやろうのたのしみはある」「やれやれ」とぶかだからひとたまりもない。)

「遊冶郎の楽しみはある」「やれやれ」と部下だから一溜りもない。

(「かちょうさん、わたしもいよいよじんせいがわかるようになりました」)

「課長さん、私もいよいよ人生が分かるようになりました」

(とわかてがほうこくする。「それはおめでとう。どなただね?」「おとこです」)

と若手が報告する。「それはおめでとう。何方だね?」「男です」

(「それはますますけっこうだ。はじめはおとこにかぎる」「おかげさまで」)

「それは益々結構だ。初めは男に限る」「お陰様で」

など

(「このおかげさまはちっとへんだよ。はっはっはっ」とそばからやじがはいる。)

「このお陰様はちっと変だよ。はっはっはっ」と側から弥次が入る。

(「しかしひとりばかりじゃほんとうのことはわからないよ」とやましたさんはまじめだ。)

「しかし一人ばかりじゃ真正のことは分からないよ」と山下さんは真面目だ。

(「ははあ」「さんにんからさ」とそれはやじったやつ。)

「ははあ」「三人からさ」とそれは弥次った奴。

(「いや、すくなくともよにんからうえさ。ろくにんはほしいね。)

「いや、少なくとも四人から上さ。六人は欲しいね。

(おとこのこもありおんなのこもあり、おおきいのもありちいさいのもありで)

男の子もあり女の子もあり、大きいのもあり小さいのもありで

(ほんとうのじんせいがわかるのさ」とやましたさんはわがたへみずをひく。)

真正の人生が分かるのさ」と山下さんは我が田へ水を引く。

(「ときにやましたさん」「なにですかね?」)

「時に山下さん」「何ですかね?」

(「あなたみたいぶじへいおんですごしてきたひとはともにかたるにたりませんよ。)

「あなたみたい無事平穏で過ごして来た人は共に語るに足りませんよ。

(わたしのようにろくにんうんでさんにんもころすと、じんせいのしんこくみが)

私のように六人生んで三人も殺すと、人生の深刻味が

(しみじみわかります」とこどもをうしなったけいけんのあるものがしゅちょうする。)

シミジミ分かります」と子供を失った経験のあるものが主張する。

(「きみにはひともくもふたもくもおく」)

「君には一目も二目も置く」

(「よいほうばかりがじんせいじゃありませんからね」)

「好い方ばかりが人生じゃありませんからね」

(「ごこうせつのとおりだ。しかししんこくみはふるふるだよ」)

「御高説の通りだ。しかし深刻味はフルフルだよ」

(とやましたさんはひらにごめんこうむる。「じんせいはながいです」「むろん」)

と山下さんは平に御免蒙る。「人生は長いです」「無論」

(「こどもばかりじゃなんにんあってもいまだじんじょうかです。)

「子供ばかりじゃ何人あっても未だ尋常科です。

(まごのかおをみれなければ、ほんとうのことはわかりません」と)

孫の顔を見れなければ、真正のことは分かりません」と

(いうろうはいがぶかにある。「どうかんですな」「しかしはつまごじゃだめです」)

いう老輩が部下にある。「同感ですな」「しかし初孫じゃ駄目です」

(「おやおや」とやましたさんもこのひとにはかなわない。)

「おやおや」と山下さんもこの人には敵わない。

(「まあ、わたしでしょうな、このかいしゃでほんとうにじんせいのわかるのは」)

「まあ、私でしょうな、この会社で真正に人生の分かるのは」

(「それはそうでしょう。あなたがもはんですよ」)

「それはそうでしょう。あなたが模範ですよ」

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