嫁取婿取 18

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プレイ回数37難易度(4.3) 2698打 長文
佐々木邦 作

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問題文

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(「とにかく、ごあいさつをもうしあげてかえりましょう」と)

「兎に角、ご挨拶を申し上げて帰りましょう」と

(やましたふじんものっぴきならない。)

山下夫人も退っ引きならない。

(「さあ、おくさんもはるこさんもどうぞこちらへ」とさいとうさんがしょうじた。)

「さあ、奥さんも春子さんもどうぞ此方へ」と斎藤さんが請じた。

(したみがみあいになった。はるこさんはうつむいていた。)

下見が見合いになった。春子さんは俯いていた。

(おさふねくんはかくばっていた。かえりとにはるこさんは)

長船君は角張っていた。帰り途に春子さんは

(「わたし、もうさいとうさんのごふうふをしんよういたしませんよ」とふんがいした。)

「私、もう斎藤さんのご夫婦を信用致しませんよ」と憤慨した。

(「なぜ?」「はじめからふたりきょうぼうになっていてみあいにしたんですわ」)

「何故?」「初めから二人共謀になっていて見合いにしたんですわ」

(「そんなことはないでしょう?」「いいえ、そうよ。しつれいですわ。ほんとうに」)

「そんなことはないでしょう?」「いいえ、そうよ。失礼ですわ。本当に」

(「でもよいじゃありませんか。)

「でも良いじゃありませんか。

(どうせみあいをすることにきまっていたんですから」)

どうせ見合いをすることに決まっていたんですから」

(「みあいならみあい、わたし、おしたくがありましたわ。)

「見合いなら見合い、私、お支度がありましたわ。

(こんなふだんぎでみあいをするものはございませんよ」)

こんな普段着で見合いをするものはございませんよ」

(「せんぽうもせびろだったじゃありませんか?おたがいよ」とおかあさんがなだめた。)

「先方も背広だったじゃありませんか?お互いよ」とお母さんが宥めた。

(はるこさんはおさふねくんがきにいったようであり、きにいらないようでもあった。)

春子さんは長船君が気に入ったようであり、気に入らないようでもあった。

(「どうだったね?どうにもかたぐるしいかんじのするおとこだったろう?」と)

「どうだったね?どうにも堅苦しい感じのする男だったろう?」と

(いうおとうさんのひはんにたいしては)

いうお父さんの批判に対しては

(「そうでもございませんでしたわ。さいとうさんとよくうちとけて)

「そうでもございませんでしたわ。斎藤さんとよく打ち解けて

(おはなしになっていましたもの」とこたえた。)

お話になっていましたもの」と答えた。

(「ぶんがくしほうがくしだけあって、なかなかわかったひとらしいのね」という)

「文学士法学士だけあって、なかなか分った人らしいのね」という

(おかあさんのすいせんは、「わたし、おっしゃることがきにいりませんのよ。)

お母さんの推薦は、「私、仰ることが気に入りませんのよ。

など

(あのほう、よっぽどあたまがふるいんですわ」とたたきつけた。「なぜ?」)

あの方、よっぽど頭が古いんですわ」と叩きつけた。「何故?」

(「ははがきにいったとかなんとか、まるでおかあさんのおよめさんを)

「母が気に入ったとか何とか、まるでお母さんのお嫁さんを

(さがしているようですわ」)

探しているようですわ」

(「それはじぶんのきにいったといいにくいからでしょう」)

「それは自分の気に入ったと言いにくいからでしょう」

(「ひきょうね、それじゃ」)

「卑怯ね、それじゃ」

(「おともだちならとにかく、さいとうさんはむかしのせんせいでございますからね」)

「お友達なら兎に角、斎藤さんは昔の先生でございますからね」

(「せんせいにしてもなこうどじゃありませんか。)

「先生にしても仲人じゃありませんか。

(やっぱりあれがほんねでしょう。)

やっぱりあれが本音でしょう。

(はははもだんがーるがきらいだなんて、なんでもははですわ」)

母はモダン・ガールが嫌いだなんて、何でも母ですわ」

(「それじゃなんていえばいいの?」)

「それじゃ何て言えばいいの?」

(「もっとじぶんほんいのかんがえをはっぴょうしていただきとうございますわ」)

「もっと自分本位の考えを発表して戴きとうございますわ」

(「きむずかしいひとね」とおかあさんはあきれたようにいったが)

「気むずかしい人ね」とお母さんは呆れたように言ったが

(「まあまあ、ゆっくりかんがえてごらんなさい」とさしあたりついきゅうをひかえた。)

「まあまあ、ゆっくり考えて御覧なさい」と差当り追及を控えた。

(はるこさんはよくあさ、「おかあさん、わたし、あんなあっぱくてきなみあいで)

春子さんは翌朝、「お母さん、私、あんな圧迫的な見合いで

(きめることはできませんよ」とじはつてきにもうしでた。)

決めることは出来ませんよ」と自発的に申し出た。

(「あれはしぜんああなったんですわ」「おうぼうよ、なこうどが」)

「あれは自然ああなったんですわ」「横暴よ、仲人が」

(「さいとうさんはとにかく、おさふねさんはどう?」「・・・」)

「斎藤さんは兎に角、長船さんはどう?」「・・・」

(「おまえのかんがえしだいでおはなしをすすめるなりうちきるなりいたします。)

「お前の考え次第でお話を進めるなり打ち切るなり致します。

(よくきいておいておくれっておとうさんがおっしゃいましたよ」)

よく訊いておいておくれってお父さんが仰いましたよ」

(「わたし、わかりませんわ」)

「私、分かりませんわ」

(「さくや、おめにかかったときのこころもちだけでいいのよ」)

「昨夜、お目にかかった時の心持ちだけでいいのよ」

(「でもただにらみあったばかりですもの」)

「でも唯睨み合ったばかりですもの」

(「みあいってみなあんなものですよ」)

「見合いって皆あんなものですよ」

(「ははがははがって、すっかりおかあさんほんいなんですもの)

「母が母がって、すっかりお母さん本位なんですもの

(ほんにんのきごころがちっともわかりませんわ」)

本人の気心がちっともわかりませんわ」

(「それじゃどうすればいいの?おことわりするの?」「・・・」)

「それじゃどうすればいいの?お断りするの?」「・・・」

(「それともこのままつづけてすすめますの?」「・・・」「どなた?」)

「それともこのまま続けて進めますの?」「・・・」「何方?」

(「わたし、いっしょうのことですから、もっとしんちょうにけんきゅうしてみたいんです」)

「私、一生のことですから、もっと慎重に研究して見たいんです」

(「それはむろんそうですが、どうすればいいの?」)

「それは無論そうですが、どうすればいいの?」

(「わたし、おめにかかっておはなしてみたいとおもいますの」「けっこうね」)

「私、お目にかかってお話してみたいと思いますの」「結構ね」

(「もういっぺん、さいとうさんにおたのみしていただけませんでしょうか?」)

「もう一遍、斎藤さんにお頼みして頂けませんでしょうか?」

(「でもあのなこうどはおうぼうよ」「いやよ、おかあさん」)

「でもあの仲人は横暴よ」「厭よ、お母さん」

(「さっそくおたのみいたしましょう」)

「早速お頼み致しましょう」

(「くちをきいたこともないひとのところへおよめにいくなんて)

「口を利いたこともない人のところへお嫁に行くなんて

(やばんじんならとにかく」とおかあさんはしょうちだった。)

野蛮人なら兎に角」とお母さんは承知だった。

(きょういくのあるむすめさんはけんしきをおもんじる。)

教育のある娘さんは見識を重んじる。

(あいてがきにいっていてもなんとかいろをつけてもらわないと)

相手が気に入っていても何とか色をつけて貰わないと

(どうもおさまりがよくない。)

どうも納まりが良くない。

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