嫁取婿取 23

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プレイ回数40難易度(4.5) 3453打 長文
佐々木邦 作

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問題文

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(「はあ」「しかしべんきょうはしなければだめだよ」)

「はあ」「しかし勉強はしなければ駄目だよ」

(「はあ、ほうしんさえきめていただければ、いっしょうけんめいにやります」)

「はあ、方針さえ決めて戴ければ、一生懸命にやります」

(「とうとうごうじょうをはりとおしたね。よろしい」「ありがとうございました」と)

「到頭強情を張り通したね。宜しい」「有難うございました」と

(じろうくんはおおよろこびをしてたちさった。)

二郎君は大喜びをして立ち去った。

(やましたさんはちょっとのあいだかんがえたあと、てをたたいておくさんをよんだ。)

山下さんは一寸の間考えた後、手を叩いて奥さんを呼んだ。

(「どうでございましたの?」「やっぱりおまえのいうとおりだった」)

「どうでございましたの?」「やっぱりお前の言う通りだった」

(「わせだ、わせだって、いまおちゃのまのまえをおおげんきでうたいながら)

「早稲田、早稲田って、今お茶の間の前を大元気で歌いながら

(とおりましたよ」「とうとうやることにした。てこでもうごくやつじゃない」)

通りましたよ」「到頭やることにした。梃子でも動く奴じゃない」

(「それもよろしゅうございましょう」)

「それも宜しゅうございましょう」

(「かんしんしないけれど、ほかにしようがない。このあいだ、こうえんじへやったのは)

「感心しないけれど、他に仕様がない。この間、高円寺へやったのは

(こんこんとときつけてもらうつもりだったが、やつら、さぶろうなんかがんちゅうにないようだ」)

懇々と説きつけて貰うつもりだったが、奴等、三郎なんか眼中にないようだ」

(「おやのいうことさえきかないんですもの」)

「親の言うことさえ聞かないんですもの」

(「それにしゅんいちがまたあれのこもんになって、あたらしがりをいうものだから)

「それに俊一が又あれの顧問になって、新しがりを言うものだから

(ますますいけない」)

ますますいけない」

(「でも、いつまでもじゅけんせいでくさくさしていられちゃこまりますからね」)

「でも、いつまでも受験生でクサクサしていられちゃ困りますからね」

(「それもそうさ。ほんにんのしぼうどおりにしてやって、それでわるいようなら)

「それもそうさ。本人の志望通りにしてやって、それで悪いようなら

(だれもうらむこともない」「あなた」「なにだい?」)

誰も恨むこともない」「あなた」「何だい?」

(「じろうをわせだへやるとおきめになったら、まさおにこのとしうけさせても)

「二郎を早稲田へやるとお決めになったら、雅男に此年受けさせても

(よろしいじゃございませんか?」)

宜しいじゃございませんか?」

(「それさ、それをそうだんしようとおもって」と)

「それさ、それを相談しようと思って」と

など

(やましたさんはさんなんのもんだいをかんがえていた。)

山下さんは三男の問題を考えていた。

(「まさおはうけたいんですけれど、じろうときょうそうになるとおもって)

「雅男は受けたいんですけれど、二郎と競争になると思って

(ああもうしているんですわ」「よんでごらん」「はい」と)

ああ申しているんですわ」「呼んで御覧」「はい」と

(おかあさんはたって、まさおくんをつれてきた。「おすわり」「はあ」と)

お母さんは立って、雅男君をつれて来た。「お坐り」「はあ」と

(まさおくんはにこにこしながらちゃくせきした。)

雅男君はニコニコしながら着席した。

(やましたさんはこどもがおやのまえへでておそれるようではいけないというきょういくほうしんだ。)

山下さんは子供が親の前へ出て恐れるようではいけないという教育方針だ。

(「どうだね?このとしうけてみるか?」「さあ」)

「どうだね?此年受けて見るか?」「さあ」

(「にいさんはわせだへいくことにきまったよ」)

「兄さんは早稲田へ行くことに決まったよ」

(「そうですってね。いまおおさわぎしています。)

「そうですってね。今大騒ぎしています。

(しゅんいちにいさんはいんきだらけになりました」「どうしたんだい?」)

俊一兄さんはインキだらけになりました」「どうしたんだい?」

(「じろうにいさんが、わせだ、わせだ、わせだってはいっていって)

「二郎兄さんが、早稲田、早稲田、早稲田って入って行って

(いきなりうしろからしゅんいちにいさんにだきついてひっくりかえったんです。)

いきなり後ろから俊一兄さんに抱きついてひっくり返ったんです。

(にいさんはまんねんひつにいんきをいれていましたからあびちゃったんです」)

兄さんは万年筆にインキを入れていましたから浴びちゃったんです」

(「いんきをかい?」「はあ」「まあ」とおかあさんはまたたっていった。)

「インキをかい?」「はあ」「まあ」とお母さんは又立って行った。

(おうともがせわをやかせる。)

大供が世話を焼かせる。

(「それはそうと、まさおや、こうとうがっこうはどうだね?うけてみるか?」)

「それはそうと、雅男や、高等学校はどうだね?受けてみるか?」

(「にいさんがわせだへいくようなら、やってもいいです」)

「兄さんが早稲田へ行くようなら、やってもいいです」

(「にいさんはそうきまったんだよ」「それじゃやります」)

「兄さんはそう決まったんだよ」「それじゃやります」

(「したくはできているかい?」「とにかくやっていますが、このとしはばならしです」)

「支度は出来ているかい?」「兎に角やっていますが、此年は場慣らしです」

(「それでけっこうだよ。いれればこのうえなしだけれど」)

「それで結構だよ。入れればこの上なしだけれど」

(「ちほうならたいていだいじょうぶです」「でかけるかい?」)

「地方なら大抵大丈夫です」「出掛けるかい?」

(「いや。いっこうをやります。にげたなんていわれちゃざんねんですから」と)

「いや。一高をやります。逃げたなんて言われちゃ残念ですから」と

(まさおくんはちょうしがよい。おやのあいじょうにさべつはないが)

雅男君は調子が良い。親の愛情に差別はないが

(やましたさんはこのさんなんがいちばんのおきにいりだ。)

山下さんはこの三男が一番のお気に入りだ。

(「どうなりました?」とそこへおかあさんがはいってきた。)

「どうなりました?」とそこへお母さんが入って来た。

(「やるそうだよ、いっこうを」「けっこうですわ」)

「やるそうだよ、一高を」「結構ですわ」

(「しかしおかあさん、あまりきたいしてしたすっちゃこまりますよ」)

「しかしお母さん、余り期待して下すっちゃこまりますよ」

(「しけんはときのうんでしかたありませんけれどなるだけならはいってもらいたいものね」)

「試験は時の運で仕方ありませんけれどなるだけなら入って貰いたいものね」

(「むろんできるだけのことはします」)

「無論出来るだけの事はします」

(「えいごだけでもいまからすこしさながらにいさんにみてもらっちゃどう?」)

「英語だけでも今から少し宛兄さんに見て貰っちゃどう?」

(「だめですよ、にいさんは。もうながくやらないものだから)

「駄目ですよ、兄さんは。もう長くやらないものだから

(じしょばかりひいていてめんどうでしかたありません」「こうえんじのにいさんよ」)

辞書ばかり引いていて面倒で仕方ありません」「高円寺の兄さんよ」

(「ははあ」「さぶろうにいさんならがっこうでおしえているんですから)

「ははあ」「三郎兄さんなら学校で教えているんですから

(おてのものでしょう?」「しかしぼく、さぶろうけいさんいやです」)

お手のものでしょう?」「しかし僕、三郎兄さん厭です」

(「なぜ?」「しびれがきれます」「げんかくだから?」「ええ、かくばりですもの」)

「何故?」「痺れが切れます」「厳格だから?」「ええ、角張りですもの」

(「ばかね」「がっこうでやるだけでたくさんです」)

「馬鹿ね」「学校でやるだけで沢山です」

(「それじゃうけることにしてべんきょうしなさい。よろしい」とおとうさんはまさおくんを)

「それじゃ受けることにして勉強しなさい。宜しい」とお父さんは雅男君を

(たたせたあと、「つねこや、さぶろうのことをみなでかくばりというようだが)

立たせた後、「常子や、三郎のことを皆で角張りと言うようだが

(どうしたものだね?」ときいた。「さあ」)

どうしたものだね?」と訊いた。「さあ」

(「おまえもいうそうじゃないか?「おほほ、じょうだんにいちにどもうしただけですわ」)

「お前も言うそうじゃないか?「オホホ、冗談に一二度申しただけですわ」

(「いけないね。しゅんいちがつけたんだろう?」)

「いけないね。俊一がつけたんだろう?」

(「はあ。わたし、もうしあげたいとおもっていましたがしゅんいちとさぶろうは)

「はあ。私、申し上げたいと思っていましたが俊一と三郎は

(どうもそりがあいませんのよ」「ふうむ」)

どうも反りが合いませんのよ」「ふうむ」

(「ぎろんをしますの。しゅんいちはああいうちょうしですからちゃかすんです。)

「議論をしますの。俊一はああいう調子ですから茶化すんです。

(さぶろうはまじめですからむきになっていきどおるんです」「それはこまる」)

三郎は真面目ですから剥きになって憤るんです」「それは困る」

(「どなたもどなたですからね」「しゅんいちをよんでごらん」)

「何方も何方ですからね」「俊一を呼んで御覧」

(「けれどもしゅんいちだけにおこごとをおっしゃってもだめでございますよ」)

「けれども俊一だけにお小言を仰っても駄目でございますよ」

(「それはわかっている」「それならよんでまいります」と)

「それは分かっている」「それなら呼んで参ります」と

(おかあさんはまたたった。なかなかいそがしい。)

お母さんは又立った。なかなか忙しい。

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