グロースターの仕立屋 13/終
ベアトリクス・ポター 作
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問題文
(うわぎのえりや、そでのふちには、ばらとぱんじーのはながししゅうされ、)
上着のえりや、袖の縁には、薔薇とパンジーの花が刺繍され、
(ちょっきはけしとやぐるまそうでかざれていた。)
チョッキはケシと矢車草で飾れていた。
(なにもかもきちんとしたてあげられ、)
なにもかもきちんと仕立て上げられ、
(ただべにいろのぼたんほーるひとつだけが、かがられずにのこっていた。)
ただべに色のボタン・ホール一つだけが、かがられずに残っていた。
(そして、そのぼたんほーるのあるべきところに、)
そして、そのボタン・ホールのあるべきところに、
(ちいさなかみがとめられて、とてもとてもちいさなもじで、)
小さな紙がとめられて、とてもとても小さな文字で、
(「あないとがたりぬ」)
「穴糸が足りぬ」
(とかいてあった。)
とかいてあった。
(そして、このときから、ぐろーすたーのしたてやのうんはひらけた。)
そして、このときから、グロースターの仕立屋の運はひらけた。
(したてやは、たいへんじょうぶになり、かなりゆうふくにもなった。)
仕立屋は、たいへん丈夫になり、かなり裕福にもなった。
(また、ぐろーすたーじゅうのかねもちのあきんどや、)
また、グロースター中の金持ちのあきんどや、
(ぐろーすたーちかくのりっぱなしんしたちのため、)
グロースター近くのりっぱな紳士たちのため、
(たいへんみごとなうわぎをつくった。)
たいへん見事な上着を作った。
(このしたてやのつくるひだかざり、またししゅうのついたかふすやえりは、)
この仕立屋の作る襞飾り、また刺繍のついたカフスや襟は、
(それまでだれもみたことのないようなものだった。)
それまでだれも見たことのないようなものだった。
(けれども、そのどれにもましてみごとなのが、)
けれども、そのどれにもまして見事なのが、
(このひとのかがるぼたんほーるであった。)
このひとのかがるボタン・ホールであった。
(そのぼたんほーるのかがりめは、まことにまことにきちんとそろい、)
そのボタン・ホールのかがり目は、まことにまことにきちんとそろい、
(どうしてあのめがねをかけて、ゆびのまがったとしよりが、)
どうしてあのめがねをかけて、指の曲がった年寄りが、
(それをつくれたのだろうと、ふしぎにおもわれた。)
それを作れたのだろうと、不思議に思われた。
(それほどそのかがりめはこまかくてこまかくて、)
それほどそのかがり目は細かくて細かくて、
(まるでちいさなねずみがさしたようにみえるのだった。)
まるで小さなねずみが刺したように見えるのだった。
(おわり。)
おわり。