魯迅 阿Q正伝その23

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(あぶらはのこりすくなくなったがあきゅうはまだとうちゃくしなかった。)

油は残り少くなったが阿Qはまだ到着しなかった。

(ちょうけのうちのものはみなまちこがれて、あくびをしてあきゅうのきまぐれをうらみ、)

趙家の内の者は皆待ち焦れて、欠伸をして阿Qの気まぐれを恨み、

(すうしちそうのぐうたらをうらんだ。)

鄒七嫂のぐうたらを怨んだ。

(ちょうたいたいははるのいっけんがあるのでこないかもしれないとしんぱいしたが、)

趙太太は春の一件があるので来ないかもしれないと心配したが、

(ちょうだんなは、そんなことはない、おれがよべばきっとくるとおもった。)

趙太爺は、そんなことはない、俺がよべばきっと来ると思った。

(はたしてちょうだんなのけんしきはたかかった。)

果して趙太爺の見識は高かった。

(あきゅうはけっきょくすうしちそうのあとへこんいてきた。)

阿Qは結局鄒七嫂のあとへ跟いて来た。

(「このひとはただないないとばかしいっているんですが、)

「この人はただ無い無いとばかし言っているんですが、

(そんならじかにはなしてくれとわたしはいったんです。)

そんならじかに話してくれとわたしは言ったんです。

(かれはなんとかいうにちがいありません。わたしもいいます」)

彼は何とかいうにちがいありません。わたしも言います」

(すうしちそうはいきをはずませていた。)

鄒七嫂は息をはずませていた。

(「だんな!」あきゅうはうすわらいしながらのきしたにたっていた。)

「太爺!」阿Qは薄笑いしながら軒下に立っていた。

(「あきゅう、おまえ、だいぶんおかねをもうけてきたというはなしだが」)

「阿Q、お前、だいぶんお金を儲けて来たという話だが」

(とちょうだんなはそろそろちかよってあきゅうのぜんしんをめぶんりょうした。)

と趙太爺はそろそろ近寄って阿Qの全身を目分量した。

(「なにしろけっこうなこった。)

「何しろ結構なこった。

(そこで、うわさによるとおまえはふるぎをたくさんもっているそうだが、)

そこで、噂によるとお前は古着をたくさん持っているそうだが、

(ここへもってきてみせるがいい。ほかでもない、)

ここへ持って来て見せるがいい。ほかでもない、

(おれもほしいとおもっているんだ」)

俺も欲しいと思っているんだ」

(「すうしちそうにもはなしたとおりですが、みなうりきれました」)

「鄒七嫂にも話した通りですが、皆売切れました」

(「うりきれた!」ちょうだんなのこえはちょうしがはずれた。)

「売切れた!」趙太爺の声は調子が外れた。

など

(「どうしてそんなにはやくうりきれたのだ!」)

「どうしてそんなに早く売切れたのだ!」

(「あれはともだちのもので、しなかずもあんまりおおくはないのですが、)

「あれは友達の物で、品数もあんまり多くは無いのですが、

(すこしばかりわけてやったんです」)

少しばかり分けてやったんです」

(「そんなことをいっても、まだいくらかあるにちがいない」)

「そんなことを言っても、まだいくらかあるに違いない」

(「たったいちまいまくがのこっております」)

「たった一枚幕が残っております」

(「まくでもいいからもってきておみせ」とちょうたいたいはあわてていった。)

「幕でもいいから持って来てお見せ」と趙太太は慌てて言った。

(「そんなものはあしたでもいいや」)

「そんな物はあしたでもいいや」

(ちょうだんなはさほどねっしんでもなかった。)

趙太爺はさほど熱心でもなかった。

(「あきゅう、これからなんでもしなものがあるときには、)

「阿Q、これからなんでも品物がある時には、

(まず、おれのところへもってきてみせるんだぞ」)

まず、俺の処へ持って来て見せるんだぞ」

(「ねだんはけっしてほかのうちよりすくなくだすことはない」)

「値段は決してほかのうちより少なく出すことはない」

(しゅうさいはいった。)

秀才は言った。

(しゅうさいのおくさんはちらりとあきゅうのかおをみてかれがかんどうしたかどうかをうかがった。)

秀才の奥さんはチラリと阿Qの顔を見て彼が感動したかどうかを覗った。

(「わたしはかわのそでなしがいちまいほしいのだが」とちょうだんなはいった。)

「わたしは皮の袖無しが1枚欲しいのだが」と趙太太は言った。

(あきゅうはおうだくしながらもふしょうぶしょうにでていったから、)

阿Qは応諾しながらも不承々々に出て行ったから、

(きにとめているかどうかしらん。)

気にとめているかどうかしらん。

(これはちょうだんなをひじょうにしつぼうさせ、)

これは趙太爺を非常に失望させ、

(はらがたってきがかりであくびがとまってしまうくらいであった。)

腹が立って気掛りで欠伸がとまってしまうくらいであった。

(しゅうさいだんなもあきゅうのたいどにひじょうなふへいをいだき、)

秀才太爺も阿Qの態度に非常な不平を抱き、

(この「わんぱだん」けいかいするひつようがある。)

この「忘八蛋」警戒する必要がある。

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