半七捕物帳 雪達磨6
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問題文
(「べつにちかづきというわけじゃありません。きょねんのくれにいちどたずねてきて、)
「別に近付きというわけじゃありません。去年の暮に一度たずねて来て、
(なにかてぶんこのじょうまえがこわれているからなおしてくれというので、やどやにみに)
なにか手文庫の錠前がこわれているから直してくれというので、宿屋に見に
(いきましたが、あいにくるすで、こっちもいそがしいのでそれぎりいきませんが、)
行きましたが、あいにく留守で、こっちも忙しいのでそれぎり行きませんが、
(そのじんえもんがどうかいたしましたか」 「しらばっくれるな。さっきなんきんだまを)
その甚右衛門がどうか致しましたか」 「白ばっくれるな。さっき南京玉を
(みたときに、てめえはどうしてかおのいろをかえた。さあ、ありていにもうしたてろ。)
見たときに、てめえはどうして顔の色を変えた。さあ、有体に申し立てろ。
(てめえなんでじんえもんをころした。ほかにもどうるいがあるだろう、みんないって)
手前なんで甚右衛門を殺した。ほかにも同類があるだろう、みんな云って
(しまえ」 「でもおやぶん。むりですよ。なんでわたしがじんえもんを・・・・・・。いまも)
しまえ」 「でも親分。無理ですよ。なんで私が甚右衛門を……。今も
(いうとおり、たったいちどしかあったことのないおとこをなんでころすはずがあるんです。)
いう通り、たった一度しか逢ったことのない男をなんで殺す筈があるんです。
(さっしてください」と、とよきちはあくまでもこうべんした。)
察してください」と、豊吉は飽くまでも抗弁した。
(「まだそんなことをいうか。おれがむりかむりでねえか、なんきんだまにきいてみろ」)
「まだそんなことを云うか。おれが無理か無理でねえか、南京玉に聴いてみろ」
(と、はんしちはにらみつけた。「てめえがいつまでもごうじょうをはるなら、おれのほうから)
と、半七は睨み付けた。「てめえがいつまでも強情を張るなら、おれの方から
(いってきかせる。あのじんえもんというやつはしょうじきないなかもののようにばけているが、)
云って聞かせる。あの甚右衛門という奴は正直な田舎者のように化けているが、
(あいつはたしかににせがねつかいだ」 とよきちのかおはあいのようになった。)
あいつは確かに贋金遣いだ」 豊吉の顔は藍のようになった。
(「どうだ、ずぼしだろう」と、はんしちがたたみかけていった。「あいつがなんきんだまを)
「どうだ、図星だろう」と、半七がたたみかけて云った。「あいつが南京玉を
(かいあつめているのはにせがねのきんにつかうつもりだ。あいつらのこしらえるにせがねの)
買いあつめているのは贋金の金に使うつもりだ。あいつらのこしらえる贋金の
(じがねは、びんぼうどっくりのかけらをこまかにすりつぶしてつかうんだが、それがこのごろは)
地金は、貧乏徳利の欠片を細かに摺り潰して使うんだが、それがこの頃は
(だんだんじょうずになって、ちいさいなんきんだまをぶっかいてじがねにするということを)
だんだん上手になって、小さい南京玉をぶっ掻いて地金にするということを
(おれはかねてきいている。それもいっけんのみせでいちどにたくさんかいこむとひとのめに)
俺はかねて聴いている。それも一軒の店で一度にたくさん買い込むと人の眼に
(つくので、いなかもののふりをしてほうぼうのみせからすこしずつかいあつめていたのに)
つくので、田舎者の振りをして方々の店から少しずつ買いあつめていたのに
(そういねえ。てめえはかざりやだ。あのじんえもんとぐるになって、にせがねをこしらえる)
相違ねえ。てめえは錺屋だ。あの甚右衛門とぐるになって、贋金をこしらえる
(てつだいをしたろう。どうだ、これでもしらをきるか」 とよきちはまだだまっていた。)
手伝いをしたろう。どうだ、これでも白を切るか」 豊吉はまだ黙っていた。
(「まだいってきかせることがある」と、はんしちはあざわらいながらいいつづけた。)
「まだ云って聞かせることがある」と、半七はあざ笑いながら云いつづけた。
(「てめえはいいにょうぼうをもっているな。あのおんなはいくらでしながわからつれてきた。)
「てめえはいい女房を持っているな。あの女は幾らで品川から連れてきた。
(そのかねはどこでつごうしてきた。てめえたちがいちねんやはんとし、よるのめもねずに)
その金はどこで都合して来た。てめえ達が一年や半年、夜の目も寝ずに
(かせいだって、じょろうなんぞをうけだしてくるほどのかねはできねえはずだ。そのかねは)
稼いだって、女郎なんぞを請け出して来るほどの金はできねえ筈だ。その金は
(みんなじんえもんからでているんだろう」 ここまでといつめられても、とよきちは)
みんな甚右衛門から出ているんだろう」 ここまで問いつめられても、豊吉は
(まだごうじょうにくちをあかないので、かれをひとまずばんやにつないでおいて、はんしちはさらに)
まだ強情に口をあかないので、彼をひと先ず番屋につないで置いて、半七は更に
(そのにょうぼうをよびだして、かれのいえへふだんちかしくでいりするものをしらべた。)
その女房をよび出して、彼の家へふだん近しく出入りするものを調べた。
(そのけっか。おなじしょくにんのげんじとかつごろう、よつやのさかやはりまやでんべえ、あおやまのげたや)
その結果。おなじ職人の源次と勝五郎、四谷の酒屋播磨屋伝兵衛、青山の下駄屋
(いしざかやよしべえ、かんだのかなものやおうみやくろうえもん、あざぶのこめやちくらやちょうじゅうろうの)
石坂屋由兵衛、神田の鉄物屋近江屋九郎右衛門、麻布の米屋千倉屋長十郎の
(ろくにんをめしとって、いちいちげんじゅうにぎんみすると、はたしてかれらいちどうきょうぼうの)
六人を召し捕って、一々厳重に吟味すると、果たして彼等一同共謀の
(にせがねつかいであることがめいはくになった。)
贋金つかいであることが明白になった。
(ゆきだるまのそこにうずめられていたじんえもんは、じょうしゅうおおたざいのうまれであるが、)
雪達磨の底にうずめられていた甚右衛門は、上州太田在の生まれであるが、
(いまはいっていのじゅうしょもないのである。)
今は一定の住所もないのである。
(かれらがなんきんだまをげんりょうとしてつくりあげたにせがねはもっぱらいちぶきんとにぶきんとで、)
かれらが南京玉を原料として作りあげた贋金は専ら一分金と二分金とで、
(それをえどでばかりつかっているとはっかくのはやいおそれがあるので、じんえもんは)
それを江戸でばかり遣っていると発覚の早いおそれがあるので、甚右衛門は
(いなかものにばけて、たびからたびをわたりあるいて、たくみにそれをつかっていたので)
田舎者に化けて、旅から旅を渡りあるいて、巧みにそれを遣っていたので
(あった。 それにしてもじんえもんをだれがころしたのか。それはまだわからなかった。)
あった。 それにしても甚右衛門を誰が殺したのか。それはまだ判らなかった。