半七捕物帳 お文の魂6

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ
半七捕物帳シリーズの第一作目です。

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問題文

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(おじさんはへいぜいからとくにこんいにしているので、おばたもかくさずひみつをもらした。)

おじさんは平生から特に懇意にしているので、小幡も隠さず秘密を洩らした。

(そうして、なんとかしてこのゆうれいのしんそうをさぐりきわめるくふうはあるまいかと)

そうして、なんとかしてこの幽霊の真相を探りきわめる工夫はあるまいかと

(そうだんした。はたもとにかぎらず、ごけにんにかぎらず、えどのさむらいのじさんなんなどと)

相談した。旗本に限らず、御家人に限らず、江戸の侍の次三男などと

(いうものは、がいしてむやくのひまじんであった。ちょうなんはむろんそのいえをつぐべく)

いうものは、概して無役の閑人であった。長男は無論その家を嗣ぐべく

(うまれたのであるが、じなんさんなんにうまれたものは、じぶんにとくしゅのさいのうがあって)

うまれたのであるが、次男三男に生まれたものは、自分に特殊の才能があって

(しんきおめしだしのとくてんをうけるか、あるいはたけのようしにゆくか、)

新規御召出しの特典をうけるか、あるいは他家の養子にゆくか、

(このふたつのばあいをのぞいては、ほとんどよにでるみこみもないのであった。)

この二つの場合を除いては、殆ど世に出る見込みもないのであった。

(かれらのおおくはあにのやしきにやっかいになってだいしょうをよこたえたいちにんまえのおとこが)

かれらの多くは兄の屋敷に厄介になって大小を横たえた一人前の男が

(なんのしごともなしにひをくらしているという、いちめんからみればすこぶるのんきらしい、)

なんの仕事もなしに日を暮らしているという、一面から見れば頗る呑気らしい、

(またいちめんからみれば、すこぶるひさんなきょうぐうにおかれていた。)

また一面から見れば、頗る悲惨な境遇に置かれていた。

(こういうよぎないじじょうはかれらをかってほうじゅうらんだのこうとうゆうみんたらしめるより)

こういう余儀ない事情はかれらを駆って放縦懶惰の高等遊民たらしめるより

(ほかはなかった。かれらのおおくはどうらくものであった。たいくつしのぎに)

ほかはなかった。かれらの多くは道楽者であった。退屈しのぎに

(なにかことあれかしとまちかまえているやからであった。kのおじさんも)

何か事あれかしと待ち構えている徒であった。Kのおじさんも

(ふうんにうまれたひとりで、こんなそうだんあいてにえらばれるにはくっきょうのにんげんであった。)

不運に生まれた一人で、こんな相談相手に選ばれるには屈竟の人間であった。

(おじさんはむろんよろこんでひきうけた。)

おじさんは無論喜んで引き受けた。

(そこで、おじさんはかんがえた。むかしばなしのつなやきんときのように、らいこうのまくらもとにものものしく)

そこで、おじさんは考えた。昔話の綱や金時のように、頼光の枕もとに物々しく

(とのいをつかまつるのはもうじだいおくれである。まずだいいちにそのおふみというおんなの)

宿直を仕るのはもう時代おくれである。まず第一にそのおふみという女の

(すじょうをあらって、そのおんなとこのやしきとのあいだにどんないとがつながっているかと)

素姓を洗って、その女とこの屋敷との間にどんな糸が繋がっているかと

(いうことをさぐりださなければいけないとおもいついた。)

いうことを探り出さなければいけないと思い付いた。

(「ごとうけのえんじゃ、またはめしつかいなどのなかに、おふみというおんなのこころあたりは)

「御当家の縁者、又は召使などの中に、おふみという女の心当たりは

など

(ござるまいか」)

ござるまいか」

(このといにたいして、おばたはいっこうにこころあたりがないとこたえた。えんじゃにはむろんない。)

この問いに対して、小幡は一向に心当りがないと答えた。縁者には無論ない。

(めしつかいはたびたびでがわりをしているからいちいちにきおくしていないが、)

召使はたびたび出代わりをしているから一々に記憶していないが、

(ちかいころにそんななまえのおんなをかかえたことはないといった。さらにだんだん)

近い頃にそんな名前の女を抱えたことはないと云った。更にだんだん

(しらべてみると、おばたのやしきではむかしからふたりのおんなをつかっている。そのひとりは)

調べてみると、小幡の屋敷では昔から二人の女を使っている。その一人は

(ちぎょうしょのむらからほうこうにでてくるのがためしで、ほかのひとりはえどのうけやどから)

知行所の村から奉公に出て来るのが例で、ほかの一人は江戸の請宿から

(ずいいにやとっていることがわかった。うけやどはおとわのさかいやというのが)

随意に雇っていることが判った。請宿は音羽の堺屋というのが

(だいだいのでいりであった。)

代々の出入りであった。

(おみちのはなしからかんがえると、ゆうれいはどうしてもぶけほうこうのおんならしくおもわれるので、)

お道の話から考えると、幽霊はどうしても武家奉公の女らしく思われるので、

(kのおじさんはとおいちぎょうしょをあとまわしにして、まずてぢかのさかいやからせんさくに)

Kのおじさんは遠い知行所を後廻しにして、まず手近かの堺屋から詮索に

(とりかかろうとけっしんした。おばたがしらないとおいせんだいのころに、おふみというおんなが)

取りかかろうと決心した。小幡が知らない遠い先代の頃に、おふみという女が

(ほうこうしていたことがないともかぎらないとおもったからである。)

奉公していたことが無いとも限らないと思ったからである。

(「では、なにぶんよろしく、しかしくれぐれもおんみつにな」と、おばたはいった。)

「では、何分よろしく、しかしくれぐれも隠密にな」と、小幡は云った。

(「しょうちしました」)

「承知しました」

(ふたりはやくそくしてわかれた。それはさんがつのすえのはれたひで、おばたのやしきの)

二人は約束して別れた。それは三月の末の晴れた日で、小幡の屋敷の

(やえざくらにもあおいはがもうめだっていた。)

八重桜にも青い葉がもう目立っていた。

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