半七捕物帳 筆屋の娘11

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問題文
(うちあわせをしておいて、はんしちはそっとおもてへでると、めのさきにつかえている)
打ち合わせをして置いて、半七はそっと表へ出ると、眼のさきに支えている
(みょうぎのやまはほしあかりのしたにまっくろにそそりたって、ねとりをおどろかすやまかぜが)
妙義の山は星あかりの下に真っ黒にそそり立って、寝鳥をおどろかす山風が
(ときどきにすぎのこずえをゆすっていた。おおきいすぎをこだてにして、はんしちは)
ときどきに杉の梢をゆすっていた。大きい杉を小楯にして、半七は
(せきどやのにかいにめをくばっていると、やがてちくそうをめりめりとおしやぶるような)
関戸屋の二階に眼を配っていると、やがて竹窓をめりめりと押し破るような
(おとがひくくきこえて、くろいひとかげがにかいのよこてにあらわれた。)
音が低くきこえて、黒い人影が二階の横手にあらわれた。
(かげはいたぶきのやねをはって、のきさきにつきでているおおきいさるすべりをあしがかりに、)
影は板葺きの屋根を這って、軒先に突き出ている大きい百日紅を足がかりに、
(するするとすべりおちてくるらしかった。)
するすると滑り落ちて来るらしかった。
(「よのすけ。ごようだ」と、はんしちはそのかげをとらえようとしてかけよると、)
「与之助。御用だ」と、半七はその影を捕えようとして駈け寄ると、
(かげはあともどりをしてさかみちをいっさんにかけおりた。はんしちはつづいておっていった。)
影はあと戻りをして坂路を一散に駈け降りた。半七はつづいて追って行った。
(すぎばやしにかこまれたさかみちをころげるようにかけてゆくよのすけは、とちゅうから)
杉林に囲まれた坂路をころげるように駈けてゆく与之助は、途中から
(ほうがくをかえてつぎのさかみちをかけあがろうとするらしかった。はんしちは)
方角をかえて次の坂路を駆け上がろうとするらしかった。半七は
(ふときがついた。このさかのうえにはくろもんがある。みょうぎのくろもんはうえののりんのうじにつぐ)
ふと気がついた。この坂の上には黒門がある。妙義の黒門は上野の輪王寺に次ぐ
(じかくで、いかなるざいにんでもこのくろもんのうちへかけこめばころものそでにかくされて、)
寺格で、いかなる罪人でもこの黒門の内へかけ込めば法衣の袖に隠されて、
(そとからはうかつにてがつけられなくなる。それにきがつくと、はんしちもすこしあわてた。)
外からは迂闊に手がつけられなくなる。それに気がつくと、半七も少し慌てた。
(なかせんどうをここまでおいこんできて、ひとあしのところでくろもんへかけこまれて)
中仙道をここまで追い込んで来て、ひと足のところで黒門へ駈け込まれて
(しまってはなんにもならない。かれはいっしょうけんめいによのすけのあとをおった。)
しまっては何にもならない。彼は一生懸命に与之助のあとを追った。
(にげるものももちろんいっしょうけんめいである。よのすけはくらいさかみちをいきもつかずに)
逃げる者も勿論一生懸命である。与之助は暗い坂路を呼吸もつかずに
(かけあがっていった。さかのこうばいはなかなかきゅうで、にげるものもおうものも)
駈けあがって行った。坂の勾配はなかなか急で、逃げる者も追うものも
(ひたるようなあせになった。ふたりのきょりはわずかにいっけんばかりしか)
浸るような汗になった。ふたりの距離はわずかに一間ばかりしか
(はなれていないのであるが、はんしちのてはどうしてもかれのえりくびにとどかなかった。)
離れていないのであるが、半七の手はどうしても彼の襟首にとどかなかった。
(そのうちにながいさかももうはんぶんいじょうをこえてしまって、ころものそでをひろげたような)
そのうちに長い坂ももう半分以上を越えてしまって、法衣の袖を拡げたような
(くろいもんは、ほしのひかりでおぼろげにあおがれた。もんのなかにはいしどうろうのともしびが)
黒い門は、星の光りでおぼろげに仰がれた。門のなかには石灯籠の灯が
(かすかにみえた。)
微かに見えた。
(はんしちはもうきがきでなかった。このさかひとつをぶじにこすかこされぬかは、)
半七はもう気が気でなかった。この坂一つを無事に越すか越されぬかは、
(よのすけにとってもいっしょうのうんめいのわかれみちであった。くろもんのかげがだんだんに)
与之助に取っても一生の運命の岐れ道であった。黒門の影がだんだんに
(めのまえにせまってくるにしたがって、よのすけもいそいだ。はんしちもあせった。)
眼のまえに迫って来るにしたがって、与之助も急いだ。半七もあせった。
(しかしよのすけはうんがなかった。かれはくろもんからにけんほどのてまえで)
しかし与之助は運がなかった。かれは黒門から二間ほどの手前で
(いしにつまずいてたおれてしまった。)
石につまずいて倒れてしまった。