半七捕物帳 槍突き15(終)
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問題文
(「そのきょうだいはりょうしでしょう」と、わたしはまたきいた。「えどにいるあいだは)
「その兄弟は猟師でしょう」と、わたしは又訊いた。「江戸にいる間は
(いつもどうしてくっていたんです」)
いつもどうして食っていたんです」
(「それがまたふしぎですよ」と、ろうじんはせつめいした。「あにきもおとうともばくちが)
「それが又不思議ですよ」と、老人は説明した。「兄貴も弟も博奕が
(うまいんです。こうしゅうのやまおくからでてきたさるのようなやつだとおもって、)
うまいんです。甲州の山奥から出て来た猿のような奴だと思って、
(ばかにしてかかるとみなあべこべにまきあげられてしまうんです。)
馬鹿にしてかかると皆あべこべに巻き上げられてしまうんです。
(もちろん、こばくちですからいくらのものでもありますまいけれども、どっちも)
勿論、小ばくちですから幾らの物でもありますまいけれども、どっちも
(ひどくつましいにんげんで、きちんやどにごろごろして、さんどのめしさえ)
ひどく約しい人間で、木賃宿にごろごろして、三度の飯さえ
(とどこおりなくくっていればいいというふうでしたから、えどにくらしていても)
とどこおりなく食っていればいいという風でしたから、江戸に暮らしていても
(いくらもかかりゃしません。そうして、くらいばんになるとたけやりをかついであるく。)
幾らもかかりゃしません。そうして、暗い晩になると竹槍をかついであるく。
(じつにらんぼうなやつらで、きょうだいそろってそんなにんげんができたというのは、)
実に乱暴な奴らで、兄弟揃ってそんな人間が出来たというのは、
(せっしょうのむくいだろうなんて、そのころのひとたちはもっぱらひょうばんしていたそうですが、)
殺生の報いだろうなんて、その頃の人達は専ら評判していたそうですが、
(どんなものですかね。なにかそういうきちがいじみたちすじをひいているのか、)
どんなものですかね。何かそういう気ちがいじみた血筋を引いているのか、
(それともふだんからくまやおおかみをあいてにしているので、しぜんにそんなさつばつなにんげんに)
それともふだんから熊や狼を相手にしているので、自然にそんな殺伐な人間に
(なったのか。さびしいやまおくからきゅうにはなやかなえどのまんなかへ)
なったのか。さびしい山奥から急に華やかな江戸のまん中へ
(ほうりだされたもので、なんだかきがおかしくなったのか。)
ほうり出されたもので、なんだか気がおかしくなったのか。
(いまのよのなかでしたら、いろいろのがくしゃたちがよくせつめいして)
今の世の中でしたら、いろいろの学者たちがよく説明して
(くれたんでしょうけれど、そのじだいのことですから、たいていのひとは)
くれたんでしょうけれど、その時代のことですから、大抵の人は
(せっしょうのむくいだとかいんがだとか、すぐにきめてしまったようです」)
殺生の報いだとか因果だとか、すぐにきめてしまったようです」