半七捕物帳 少年少女の死5
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問題文
(かれはそれからねんのためににわへおりた。にわといってもにじゅっつぼばかりの)
彼はそれから念のために庭へ降りた。庭と云っても二十坪ばかりの
(ほそながいじめんで、そこにはさくらやうめなどがうえてあった。かきねのきわには)
細長い地面で、そこには桜や梅などが植えてあった。垣根の際には
(いっぽんのたかいまつがひょろひょろとたっていた。かれはとびいしづたいににわのすみずみを)
一本の高い松がひょろひょろと立っていた。彼は飛石伝いに庭の隅々を
(しらべてあるいたが、そとからはいってきたらしいあしあとはみえなかった。)
調べてあるいたが、外からはいって来たらしい足跡は見えなかった。
(よこてのきどはうちからじょうをおろしてあった。おていをさらったにんげんはおもてから)
横手の木戸は内から錠をおろしてあった。おていを攫った人間は表から
(はいってきたけはいはない。どうしてもよこてのきどぐちからにわづたいに)
はいって来た気配はない。どうしても横手の木戸口から庭づたいに
(しのびこんだらしくおもわれるのに、きどはうちからしめてある。)
忍び込んだらしく思われるのに、木戸は内から閉めてある。
(にわにもあやしいあしあとのないのをみると、かれのかんていははずれたらしい。)
庭にも怪しい足跡の無いのを見ると、彼の鑑定は外れたらしい。
(はんしちはいしどうろうのそばにつったってふたたびかんがえたが、やがてなにごころなくみをかがめて)
半七は石燈籠のそばに突っ立って再び考えたが、やがて何心なく身をかがめて
(えんのしたをのぞいてみると、そこにやっこすがたのしょうじょがよこたわっていた。)
縁の下を覗いてみると、そこに奴すがたの少女が横たわっていた。
(「おい、ししょう、やまとやのだんな。ちょいときてください」と、かれはにわからよんだ。)
「おい、師匠、大和屋の旦那。ちょいと来てください」と、彼は庭から呼んだ。
(よばれてえんさきへでてきたふたりは、はんしちがゆびさすほうをのぞいて、)
呼ばれて縁さきへ出て来た二人は、半七が指さす方をのぞいて、
(おもわずあっとこえをあげた。これにおどろかされておおぜいもあわててえんさきへでてきた。)
思わずあっと声をあげた。これに驚かされて大勢もあわてて縁先へ出て来た。
(おんなやこどもたちはいちどになきだした。)
女や子供たちは一度に泣き出した。
(なにものがむごたらしくおていをころしてえんのしたへなげこんだのか。)
何者がむごたらしくおていを殺して縁の下へ投げ込んだのか。
(おていのほそいのどくびにはしろいてぬぐいがまきつけてあって、なにものにか)
おていの細い喉首には白い手拭がまき付けてあって、何者にか
(しめころされたことはうたがいもなかった。そのてぬぐいはこんどのおさらいについて)
絞め殺されたことは疑いもなかった。その手拭は今度のお浚いについて
(ししょうのみつやっこがほうぼうへくばったもので、しろじにふじのはなをおおきくそめだした)
師匠の光奴が方々へくばったもので、白地に藤の花を大きく染め出した
(あいのにおいがまだあたらしかった。)
藍の匂いがまだ新らしかった。
(かみかくしやひとさらいはもうもんだいではなくなった。これからぶたいへでようとするしょうじょを)
神隠しや人攫いはもう問題ではなくなった。これから舞台へ出ようとする少女を
(しめころしたのはふつうのものとりなどでないこともわかりきっていた。)
絞め殺したのは普通の物取りなどでないことも判り切っていた。
(やまとやいっかにうらみをふくんでいるもののふくしゅうか、さもなければこのしょうじょにたいする)
大和屋一家に怨みをふくんでいる者の復讐か、さもなければこの少女に対する
(いっしゅのねたみか。おそらくふたつにひとつであろうとはんしちはかいしゃくした。)
一種の妬みか。おそらく二つに一つであろうと半七は解釈した。
(やまとやはしちやというしょうばいであるだけに、ひとからうらみをうけそうなこころあたりは)
大和屋は質屋という商売であるだけに、ひとから怨みを受けそうな心あたりは
(たくさんあるかもしれない。おやたちがかねにあかしてりっぱないしょうをきせて、)
たくさんあるかも知れない。親たちが金にあかして立派な衣裳をきせて、
(むすめをおさらいにだしたについて、ほかのこどものおやきょうだいからねたみをうけて、)
娘をお浚いに出したについて、ほかの子供の親兄弟から妬みをうけて、
(つみもないしょうじょがわざわいをうけたのかもしれない。どっちにもそうとうの)
罪もない少女が禍いをうけたのかも知れない。どっちにも相当の
(りくつがつくので、はんしちもすこしまよった。)
理窟が付くので、半七も少し迷った。
(なんといってもたったひとつのてがかりは、おていのくびにまきついている)
なんと云ってもたった一つの手がかりは、おていの頸にまき付いている
(しろいてぬぐいである。はんしちはそのてぬぐいをほどいてていねいにうちかえしてしらべてみた。)
白い手拭である。半七はその手拭をほどいて丁寧に打ちかえして調べてみた。
(「ししょう。これはおまえのくばりてぬぐいだが、きょうのおきゃくさまはたいてい)
「師匠。これはお前の配り手拭だが、きょうのお客さまは大抵
(もっているだろうね」)
持っているだろうね」
(「めいめいというわけにもいきますまいが、ひとくみにに、さんぼんずつは)
「めいめいというわけにも行きますまいが、ひと組に二、三本ずつは
(いきわたっているだろうかとおもいます」と、みつやっこはこたえた。)
行き渡っているだろうかと思います」と、光奴は答えた。
(「ここのうちのひとたちにもみんなくばったかえ」)
「ここの家の人達にもみんな配ったかえ」
(「はあ。じょちゅうさんたちにもみんなくばりました」)
「はあ。女中さん達にもみんな配りました」
(「そうか。じゃあ、ししょう、すこしたのみてえことがある。まさかにおれがいって)
「そうか。じゃあ、師匠、すこし頼みてえことがある。まさかに俺が行って
(いちいちしらべるわけにもいかねえから、おまえこれからにかいへいって、)
一々調べるわけにも行かねえから、お前これから二階へ行って、
(おまえがてぬぐいをくばったおぼえのあるおかみさんたちをいちじゅんきいてきてくれ」)
おまえが手拭を配った覚えのあるおかみさん達を一巡訊いて来てくれ」
(「なにをきいてくるんです」)
「なにを訊いて来るんです」
(「てぬぐいをおもちですかといって・・・・・・。むすめやこどもにはようはねえ。かねを)
「手拭をお持ちですかと云って……。娘や子供には用はねえ。鉄漿を
(つけているひとだけでいいんだ。もしてぬぐいをもっていねえというひとがあったら、)
つけている人だけでいいんだ。もし手拭を持っていねえと云う人があったら、
(すぐにおれにしらせてくれ」)
すぐに俺に知らせてくれ」
(みつやっこはすぐににかいへいった。)
光奴はすぐに二階へ行った。