半七捕物帳 津の国屋3

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岡本綺堂 半七捕物帳シリーズ 第16話

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問題文

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(「おまえさんはうらてんまちょうのなんといううちをたずねていくの」)

「おまえさんは裏伝馬町のなんという家を訪ねて行くの」

(「つのくにやというさかやへ・・・・・・」 「そうしておまえさんはどこからきたの」)

「津の国屋という酒屋へ……」 「そうしておまえさんは何処から来たの」

(「はちおうじのほうから」 「そう」)

「八王子の方から」 「そう」

(とはいったが、もじはるはいよいよおかしくおもった。ちかいところといっても、)

とは云ったが、文字春はいよいよおかしく思った。近いところと云っても、

(はちおうじからえどのあかさかまでたどってくるのは、このじだいではひとつのたびである。)

八王子から江戸の赤坂まで辿って来るのは、この時代では一つの旅である。

(しかもみたところでは、このむすめはなんのたびじたくもしていない。かさもなく、)

しかも見たところでは、この娘はなんの旅支度もしていない。笠もなく、

(てにもつもなく、わらじすらもはいていない。かのじょはゆかたのすそさえも)

手荷物もなく、草鞋すらも穿いていない。彼女は浴衣の裳さえも

(ひきあげないで、あさうらのぞうりをはいているらしかった。わかいおんながこんな)

引き揚げないで、麻裏の草履を穿いているらしかった。若い女がこんな

(ゆうちょうらしいすがたではちおうじからえどへくる--それがどうももじはるのふに)

悠長らしい姿で八王子から江戸へ来る--それがどうも文字春の腑に

(おちなかった。しかしいったんこうしてことばをかけたいじょう、こっちもにげだすわけにも)

落ちなかった。しかし一旦こうして詞をかけた以上、こっちも逃げ出すわけにも

(ゆかず、せんぽうでもいよいよつきまとってはなれまいとおもったので、かのじょは)

ゆかず、先方でもいよいよ付まとって離れまいと思ったので、彼女は

(よんどころなくどきょうをすえて、このあやしいみちづれのむすめとはなしながらあるいた。)

よんどころなく度胸を据えて、この怪しい道連れの娘と話しながら歩いた。

(「つのくにやにはだれかしっているひとでもあるの」)

「津の国屋には誰か知っている人でもあるの」

(「はい。あいにいくひとがあります」 「なんというひと」)

「はい。逢いにいく人があります」 「なんという人」

(「おゆきさんというこに・・・・・・」)

「お雪さんという娘に……」

(おゆきというのはつのくにやのひぞうむすめで、もじはるのところへときわずのけいこに)

お雪というのは津の国屋の秘蔵娘で、文字春のところへ常磐津の稽古に

(くるのであった。あやしいむすめがじぶんのでしをたずねてゆく--もじはるはさらに)

来るのであった。怪しい娘が自分の弟子をたずねてゆく--文字春は更に

(ふあんのたねをました。おゆきはことしじゅうしちで、ちょうないでもひょうばんのきりょうよしである。)

不安の種をました。お雪は今年十七で、町内でも評判の容貌好しである。

(つのくにやはかなりのしんだいで、しかもおやたちがゆうげいをこのむのでししょうにとっては)

津の国屋は可なりの身代で、しかも親達が遊芸を好むので師匠にとっては

(ためになるでしでもあった。もじはるはじぶんのたいせつなでしのみのうえが)

為になる弟子でもあった。文字春は自分の大切な弟子の身の上が

など

(なんとなくあやぶまれるので、ねほりはほりにせんさくをはじめた。)

なんとなく危ぶまれるので、根掘り葉ほりに詮索をはじめた。

(「そのおゆきさんをまえからしっているの」 「いいえ」と、むすめはかすかにこたえた。)

「そのお雪さんを前から識っているの」 「いいえ」と、娘は微かに答えた。

(「いちどもあったことはないの」)

「いちども逢ったことはないの」

(「あったことはありません。ねえさんにはあいましたけれど・・・・・・」)

「逢ったことはありません。姉さんには逢いましたけれど……」

(もじはるはなんだかいやなこころもちになった。おゆきのあねのおきよは、いまからじゅうねんまえに)

文字春はなんだか忌な心持になった。お雪の姉のお清は、今から十年前に

(きゅうびょうでしんだのである。それにしてもこのむすめがどうしてそのおきよを)

急病で死んだのである。それにしても此の娘がどうしてそのお清を

(しっているのかを、かのじょはさらにせんぎしなければならなかった。)

識っているのかを、彼女は更に詮議しなければならなかった。

(「しんだおきよさんはおまえさんのおともだちなの」 むすめはだまっていた。)

「死んだお清さんはお前さんのお友達なの」 娘は黙っていた。

(「おまえさんのなは」 むすめはうつむいてなんにもいわなかった。)

「おまえさんの名は」 娘は俯向いてなんにも云わなかった。

(こんなことをいっているうちに、あたりはもうよるのけしきになって、)

こんなことを云っているうちに、あたりはもう夜の景色になって、

(そこらのみせさきのすずみだいではにぎやかなわらいごえもきこえた。それでももじはるは)

そこらの店先の涼み台では賑やかな笑い声もきこえた。それでも文字春は

(なんだかうしろがみられて、どうしてもこのあやしいむすめにたいするうたがいが)

なんだかうしろが見られて、どうしてもこの怪しい娘に対する疑いが

(とけなかった。かのじょはだまってあるきながらよこめにのぞくと、むすめのしまだは)

解けなかった。彼女は黙ってあるきながら横目に覗くと、娘の島田は

(むごたらしいようにくずれかかって、そのおくれげがあおじろいほおのうえにふるえていた。)

むごたらしいように崩れかかって、その後れ毛が蒼白い頬の上にふるえていた。

(もじはるはえにかいたゆうれいをおもいだして、いよいようすきみわるくなってきた。)

文字春は絵にかいた幽霊を思い出して、いよいよ薄気味悪くなって来た。

(いくらにぎやかなまちなかでも、こんなおんなとつれだってあるくのは、)

いくら賑やかな町なかでも、こんな女と連れ立ってあるくのは、

(どうかんがえてもいいこころもちではなかった。)

どう考えてもいい心持ではなかった。

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