紫式部 源氏物語 桐壺 3 與謝野晶子訳

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2 kkk 6885 S++ 7.1 96.5% 603.4 4307 152 61 2024/11/09
3 おもち 6875 S++ 7.2 94.7% 592.0 4307 237 61 2024/09/30
4 だだんどん 6351 S 6.9 92.2% 616.7 4278 361 61 2024/10/26
5 HAKU 6302 S 6.7 93.5% 635.9 4306 298 61 2024/09/23

問題文

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(どんなにおしいひとでもいがいはいがいとしてあつかわれねばならぬ、そうぎがおこなわれる)

どんなに惜しい人でも遺骸は遺骸として扱われねばならぬ、葬儀が行われる

(ことになって、ははのみぼうじんはいがいとどうじにかそうのけむりになりたいと)

ことになって、母の未亡人は遺骸と同時に火葬の煙になりたいと

(なきこがれていた。そしてそうそうのにょうぼうのくるまにしいてのぞんでいっしょにのって)

泣きこがれていた。そして葬送の女房の車にしいて望んでいっしょに乗って

(おたぎののにいかめしくもうけられたしきじょうへついたときのみぼうじんのこころはどんなに)

愛宕の野にいかめしく設けられた式場へ着いた時の未亡人の心はどんなに

(かなしかったであろう。 「しんだひとをみながら、やはりいきているひとのように)

悲しかったであろう。 「死んだ人を見ながら、やはり生きている人のように

(おもわれてならないわたしのまよいをさますためにいくひつようがあります」)

思われてならない私の迷いをさますために行く必要があります」

(とかしこそうにいっていたが、くるまからおちてしまいそうになくので、こんなことに)

と賢そうに言っていたが、車から落ちてしまいそうに泣くので、こんなことに

(なるのをおそれていたとにょうぼうたちはおもった。 きゅうちゅうからおつかいがそうじょうへきた。)

なるのを恐れていたと女房たちは思った。 宮中からお使いが葬場へ来た。

(こういにさんみをおくられたのである。ちょくしがそのせんみょうをよんだときほどみぼうじんにとって)

更衣に三位を贈られたのである。勅使がその宣命を読んだ時ほど未亡人にとって

(かなしいことはなかった。さんみはにょごにそうとうするいかいである。いきていたひに)

悲しいことはなかった。三位は女御に相当する位階である。生きていた日に

(にょごともいわせなかったことがみかどにはのこりおおくおぼしめされてぞういを)

女御とも言わせなかったことが帝には残り多く思召されて贈位を

(たまわったのである。こんなことででもこうきゅうのあるひとびとははんかんをもった。)

賜わったのである。こんなことででも後宮のある人々は反感を持った。

(どうじょうのあるひとはこじんのうつくしさ、せいかくのなだらかさなどでにくむことのできなかった)

同情のある人は故人の美しさ、性格のなだらかさなどで憎むことのできなかった

(ひとであると、いまになってきりつぼのこういのしんかをおもいだしていた。あまりにひどい)

人であると、今になって桐壺の更衣の真価を思い出していた。あまりにひどい

(ごしゅちょうぶりであったからそのとうじはしっとをかんじたのであるとそれらのひとはいぜんの)

御殊寵ぶりであったからその当時は嫉妬を感じたのであるとそれらの人は以前の

(ことをおもっていた。やさしいどうじょうぶかいじょせいであったのを、みかどづきのにょかんたちは)

ことを思っていた。優しい同情深い女性であったのを、帝付きの女官たちは

(みなこいしがっていた。「なくてぞひとはこいしかりける」とはこうしたばあいのことで)

皆恋しがっていた。「なくてぞ人は恋しかりける」とはこうした場合のことで

(あろうとみえた。ときはひとのかなしみにかかわりもなくすぎてなぬかなぬかのぶつじが)

あろうと見えた。時は人の悲しみにかかわりもなく過ぎて七日七日の仏事が

(つぎつぎにおこなわれる、そのたびにみかどからはおとむらいのしなじながくだされた。)

次次に行なわれる、そのたびに帝からはお弔いの品々が下された。

(あいじんのしんだのちのひがたっていくにしたがってどうしようもないさびしさ)

愛人の死んだのちの日がたっていくにしたがってどうしようもない寂しさ

など

(ばかりをみかどはおおぼえになるのであって、にょご、こういをとのいにめされることも)

ばかりを帝はお覚えになるのであって、女御、更衣を宿直に召されることも

(たえてしまった。ただなみだのなかのごちょうせきであって、はいけんするひとまでがしめっぽい)

絶えてしまった。ただ涙の中の御朝夕であって、拝見する人までがしめっぽい

(こころになるあきであった。 「しんでからまでもひとのきをわるくさせるごちょうあいぶりね」)

心になる秋であった。 「死んでからまでも人の気を悪くさせる御寵愛ぶりね」

(などといって、うだいじんのむすめのこきでんのにょごなどはいまさえもしっとをすてなかった。)

などと言って、右大臣の娘の弘徽殿の女御などは今さえも嫉妬をすてなかった。

(みかどはいちのおうじをごらんになってもこういのわすれがたみのおうじのこいしさばかりを)

帝は一の皇子を御覧になっても更衣の忘れがたみの皇子の恋しさばかりを

(おおぼえになって、したしいにょかんや、ごじしんのおめのとなどをそのいえへおつかわしに)

お覚えになって、親しい女官や、御自身のお乳母などをその家へおつかわしに

(なってわかみやのようすをほうこくさせておいでになった。 のわきふうにかぜがでてはださむの)

なって若宮の様子を報告させておいでになった。 野分ふうに風が出て肌寒の

(おぼえられるひのゆうがたに、へいぜいよりもいっそうこじんがおおもわれになって、ゆげいの)

覚えられる日の夕方に、平生よりもいっそう故人がお思われになって、靫負の

(みょうぶというひとをつかいとしておだしになった。ゆうづきよのうつくしいじこくにみょうぶを)

命婦という人を使いとしてお出しになった。夕月夜の美しい時刻に命婦を

(でかけさせて、そのままふかいものおもいをしておいでになった。いぜんにこうした)

出かけさせて、そのまま深い物思いをしておいでになった。以前にこうした

(つきよはおんがくのあそびがおこなわれて、こういはそのひとりにくわわってすぐれたおんがくしゃの)

月夜は音楽の遊びが行われて、更衣はその一人に加わってすぐれた音楽者の

(そしつをみせた。またそんなよるによむうたなどもへいぼんではなかった。かのじょのまぼろしはみかどの)

素質を見せた。またそんな夜に詠む歌なども平凡ではなかった。彼女の幻は帝の

(おめにたちそってすこしもきえない。しかしながらどんなにこいまぼろしでもしゅんかんの)

お目に立ち添って少しも消えない。しかしながらどんなに濃い幻でも瞬間の

(げんじつのかちはないのである。 みょうぶはこだいなごんけについてくるまがもんからなかへ)

現実の価値はないのである。 命婦は故大納言家に着いて車が門から中へ

(ひきいれられたせつなからもういいようのないさびしさがあじわわれた。みぼうじんのいえで)

引き入れられた刹那からもう言いようのない寂しさが味わわれた。未亡人の家で

(あるが、ひとりむすめのためにすまいのがいけんなどにもみすぼらしさがないようにと、)

あるが、一人娘のために住居の外見などにもみすぼらしさがないようにと、

(りっぱなていさいをたもってくらしていたのであるが、こをうしなったおんなあるじのむみょうのひが)

りっぱな体裁を保って暮らしていたのであるが、子を失った女主人の無明の日が

(つづくようになってからは、しばらくのうちににわのざっそうがぎょうぎわるくたかくなった。)

続くようになってからは、しばらくのうちに庭の雑草が行儀悪く高くなった。

(またこのごろののわきのかぜでいっそうていないがあれたきのするのであったが、)

またこのごろの野分の風でいっそう邸内が荒れた気のするのであったが、

(げっこうだけはのびたくさにもさわらずさしこんだそのみなみむきのざしきにみょうぶをしょうじて)

月光だけは伸びた草にもさわらずさし込んだその南向きの座敷に命婦を招じて

(でてきたおんなあるじはすぐにもものがいえないほどまたもかなしみにむねをいっぱいに)

出て来た女主人はすぐにもものが言えないほどまたも悲しみに胸をいっぱいに

(していた。 「むすめをしなせましたははおやがよくもいきていられたものと)

していた。 「娘を死なせました母親がよくも生きていられたものと

(いうように、うんめいがただうらめしゅうございますのに、こうしたおつかいがあばらやへ)

いうように、運命がただ恨めしゅうございますのに、こうしたお使いが荒ら屋へ

(おいでくださるとまたいっそうじぶんがはずかしくてなりません」)

おいでくださるとまたいっそう自分が恥ずかしくてなりません」

(といって、じっさいたえられないだろうとおもわれるほどなく。)

と言って、実際堪えられないだろうと思われるほど泣く。

(「こちらへあがりますと、またいっそうおきのどくになりまして、たましいも)

「こちらへ上がりますと、またいっそうお気の毒になりまして、魂も

(きえるようでございますと、せんじつないしのすけはへいかへもうしあげて)

消えるようでございますと、先日典侍は陛下へ申し上げて

(いらっしゃいましたが、わたくしのようなあさはかなにんげんでもほんとうにかなしさが)

いらっしゃいましたが、私のようなあさはかな人間でもほんとうに悲しさが

(みにしみます」 といってから、しばらくしてみょうぶはみかどのおおせをつたえた。)

身にしみます」 と言ってから、しばらくして命婦は帝の仰せを伝えた。

(「とうぶんゆめではないであろうかというようにばかりおもわれましたが、ようやく)

「当分夢ではないであろうかというようにばかり思われましたが、ようやく

(おちつくとともに、どうしようもないかなしみをかんじるようになりました。)

落ち着くとともに、どうしようもない悲しみを感じるようになりました。

(こんなときはどうすればよいのか、せめてはなしあうひとがあればいいのですが)

こんな時はどうすればよいのか、せめて話し合う人があればいいのですが

(それもありません。めだたぬようにしてときどきごしょへこられてはどうですか。)

それもありません。目だたぬようにして時々御所へ来られてはどうですか。

(わかみやをながくみずにいてきがかりでならないし、またわかみやもかなしんでおられるひと)

若宮を長く見ずにいて気がかりでならないし、また若宮も悲しんでおられる人

(ばかりのなかにいてかわいそうですから、かれもはやくきゅうちゅうへいれることにして、)

ばかりの中にいてかわいそうですから、彼も早く宮中へ入れることにして、

(あなたもいっしょにおいでなさい」 「こういうおことばですが、なみだにむせかえって)

あなたもいっしょにおいでなさい」 「こういうお言葉ですが、涙にむせ返って

(おいでになって、しかもひとによわさをみせまいとごえんりょをなさらないでもない)

おいでになって、しかも人に弱さを見せまいと御遠慮をなさらないでもない

(ごようすがおきのどくで、ただおおよそだけをうけたまわっただけでまいりました」)

御様子がお気の毒で、ただおおよそだけを承っただけでまいりました」

(といって、またみかどのおことづてのほかのごしょうそくをわたした。 「なみだでこのごろはめも)

と言って、また帝のお言づてのほかの御消息を渡した。 「涙でこのごろは目も

(くらくなっておりますが、かぶんなかたじけないおおせをこうみょうにいたしまして」)

暗くなっておりますが、過分なかたじけない仰せを光明にいたしまして」

(みぼうじんはおふみをはいけんするのであった。)

未亡人はお文を拝見するのであった。

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