落語 死神2

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投稿者投稿者しぶいいね0お気に入り登録
プレイ回数154難易度(3.6) 3810打 長文 かな
人物と「」()内の表現は省いてタイピングするように作成してます。
東西落語特選から引用。
http://www.niji.or.jp/home/dingo/rakugo2/

関連タイピング

問題文

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(ああ......あぁ...)

八五郎「ああ......あぁ...

(いきてんのがいやになっちまったな...)

生きてんのが嫌になっちまったな...

(いっそかかぁのいうとおり、ほんとうにしんじまおうかなぁ...)

いっそかかぁの言う通り、本当に死んじまおうかなぁ...

(けど、どうやってしのうかなぁ...くびでもつって...)

けど、どうやって死のうかなぁ...首でも吊って...

(いや、あれはいけねぇ。まえにくびつりみたことがあるんだ。)

いや、あれはいけねぇ。前に首吊り見たことがあるんだ。

(くびがのびてはなみずやよだれがでて、あれはかたちがよくねぇ。)

首が伸びて鼻水やよだれが出て、あれは形がよくねぇ。

(くびつりはやめだな...)

首吊りはやめだな...

(うみにでもとびこむかな...いや、どざえもんてのもよくねぇな。)

海にでも飛び込むかな...いや、土左衛門てのもよくねぇな。

(くたばったあと、さかなにつつかれるなんざぞっとしねぇや...)

くたばった後、サカナにつつかれるなんざゾッとしねぇや...

(どざえもんもだめだな...)

土左衛門もだめだな...

(あいくちでのどでもつくか...なんかいたそうだな...)

匕首で喉でも突くか...なんか痛そうだな...

(どうやってしぬのがかたちがよくてらくかなぁ...)

どうやって死ぬのが形がよくて楽かなぁ...」

(おしえてやろうか)

死神「教えてやろうか」

(えっ!?な、なんだ、だれでぇ...)

八五郎「えっ!? な、なんだ、誰でぇ...

(おまえか、だれだ、おまえは?うすぎたねぇなりしやがって)

お前か、誰だ、お前は? 薄汚ねぇなりしやがって」

(うすぎたねぇたぁおたがいさまだ...おれか?)

死神「薄汚ねぇたぁお互い様だ...おれか?

(へっへっへ...おれは...しにがみだ...)

へっへっへ...おれは...死神だ...」

(しにがみぃ?ははぁ、おまえのしわざか!)

八五郎「死神ぃ? ははぁ、お前の仕業か!

(おれはいままでどんなにびんぼうしたって)

おれは今までどんなに貧乏したって

(しにてぇなんておもったことはこっからさきだってねぇんだ。)

死にてェなんて思ったことはこっから先だってねぇんだ。

など

(それがここへきたらきゅうにしにたくなっちまった。)

それがここへ来たら急に死にたくなっちまった。

(おれにみょうなじゅつをかけてとりころそうってんだな!)

おれに妙な術をかけて取り殺そうってんだな!

(くそっ、そうはいくけぇ!)

くそっ、そうは行くけぇ!

(うせやがれっ!どっかいきやがれ!)

うせやがれっ! どっか行きやがれ!」

(へっへっへ...そうじゃけんにするもんじゃねぇ。)

死神「へっへっへ...そう邪険にするもんじゃねぇ。

(べつにおまえさんをとりころそうなんてきはねぇんだ。)

別にお前さんを取り殺そうなんて気はねぇんだ。

(でぇいち、おまえさんのじゅみょうはまだつきちゃいねぇ。)

でぇいち、お前さんの寿命はまだ尽きちゃいねぇ。

(じゅみょうののこったやつをころすなんてことは)

寿命の残ったヤツを殺すなんてことは

(しにがみのめんつにかけてもできゃしねぇ。あんしんしな)

死神のメンツにかけてもできゃしねぇ。安心しな」

(なら、なにしにでてきやがったんだよぉ)

八五郎「なら、何しに出てきやがったんだよォ」

(へっへっへ...ひとだすけだよ、ひとだすけ...)

死神「へっへっへ...人助けだよ、人助け...

(おまえさん、ずいぶんかねにこまってるようすだな...)

お前さん、ずいぶん金に困ってる様子だな...

(ずぼしだろう...へっへっへ...)

図星だろう...へっへっへ...

(じつはな、おまえさんにかねもうけをおしえてたすけてやろうってんだ)

実はな、お前さんに金もうけを教えて助けてやろうってんだ

(し、しにがみがひとだすけしようなんて、)

八五郎「し、死神が人助けしようなんて、

(いってぇどういうりょうけんでぇ?)

いってぇどういう了見でぇ?」

(へっへっへ...せんぞのいんねんだよ...)

死神「へっへっへ...先祖の因縁だよ...

(おまえさんのはちだいまえのせんぞってのがかわりものでな...)

お前さんの八代前の先祖ってのが変わり者でな...

(ほこらをつくってしにがみをまつってたんだ。)

祠(ほこら)を作って死神を祭ってたんだ。

(そのくどくでな、)

その功徳でな、

(そのまつえいのなかでもいちばんおちぶれたやつをたすけてやろうってんだ...)

その末裔の中でも一番落ちぶれたヤツを助けてやろうってんだ...

(つまりおまえさんだよ...へっへっへ...)

つまりお前さんだよ...へっへっへ...

(こうみえてもしにがみってぇのはな...ぎりがてぇんだ...)

こう見えても死神ってぇのはな...義理堅てェんだ...

(へっへっへ...)

へっへっへ...」

(お、おぃ、うすっきみわりぃつらでわらうのぁ、よせよ...)

八五郎「お、おぃ、薄っ気味わりぃツラで笑うのァ、よせよ...

(しかし、いちばんおちぶれたやつか...)

しかし、「一番落ちぶれた」ヤツか...

(へっ、ちげぇねぇや。ま、こうなったらどうにもしょうがねぇ、)

ヘッ、違ぇねぇや。ま、こうなったらどうにもしょうがねぇ、

(しにがみでもなんでもせわになりてぇところだけどさ...)

死神でもなんでも世話になりてぇところだけどさ...

(どんなかねもうけだい?どっかからおたからでもほりだそうってのか?)

どんな金もうけだい? どっかからお宝でも掘り出そうってのか?」

(そんなんじゃねぇ。おまえさん...いしゃになんな)

死神「そんなんじゃねぇ。お前さん...医者になんな」

(いしゃ?いしゃったって、おれぁみゃくのとりかただってわからねぇぜ)

八五郎「医者? 医者ったって、おれァ脈の取り方だってわからねぇぜ」

(みゃくなんぞとらなくていいんだ。)

死神「脈なんぞとらなくていいんだ。

(そのかわりおまえさんにびょうにんをなおすまじないをおしえてやる)

その代わりお前さんに病人を治すまじないを教えてやる」

(まじない?まじないって、どんなまじないでぇ?)

八五郎「まじない? まじないって、どんなまじないでぇ?」

(いえへかえったらすぐにいしゃのかんばんをだせ。)

死神「家へ帰ったらすぐに医者の看板を出せ。

(そのうちにおねがいしますとだれかがたのみにくる...)

そのうちに「お願いします」と誰かが頼みに来る...

(いやいや、しんぱいするな。)

いやいや、心配するな。

(おまえみてぇなやろうのところへでも)

お前みてぇな野郎のところへでも

(きゃくがくるようにじゅつをかけといてやるよ。)

客が来るように術をかけといてやるよ。

(そいつのうちへでかけていって、)

そいつのうちへ出かけて行って、

(ねているびょうにんをまえにしたら、)

寝ている病人を前にしたら、

(いいか、びょうにんのあしもとかまくらもとをみろ。)

いいか、病人の足元か枕元を見ろ。

(かならずどっちかにしにがみがすわっている。)

必ずどっちかに死神が座っている。

(まくらもとにしにがみがすわっていたら、)

枕元に死神が座っていたら、

(ておくれですといっててをつけずにかえってくるんだ。)

「手遅れです」と言って手をつけずに帰ってくるんだ。

(こいつはもうどうしたってたすからねぇ。)

こいつはもうどうしたって助からねぇ。

(しかし、あしもとにすわっていたら、これをなおすてがある)

しかし、足元に座っていたら、これを治す手がある

(ど、どうすりゃいいんだ?)

八五郎「ど、どうすりゃいいんだ?」

(いまおしえてやる。いいか、いちどでおぼえるんだぞ。)

死神「今教えてやる。いいか、一度で憶えるんだぞ。

(あじゃらかもくれんきゅーらいそてけれっつのぱ)

「アジャラカモクレン キューライソ テケレッツノパ」

(このあとぱん、ぱんっ...と、てをふたつたたくんだ。)

このあとパン、パンッ...と、手を二つ叩くんだ。

(これをやられるとしにがみははなれなきゃぁならねぇきまりになってる。)

これをやられると死神は離れなきゃぁならねぇ決まりになってる。

(しにがみがいなくなればびょうにんはすぐになおる。)

死神がいなくなれば病人はすぐに治る。

(おまえさんはれいきんをたっぷりともらえるってぇすんぽうだ)

お前さんは礼金をたっぷりと貰えるってぇ寸法だ」

(でも、おれ、しにがみなんてみえねぇぞ)

八五郎「でも、おれ、死神なんて見えねぇぞ」

(いま、おれのつらがみえてるじゃねぇか...)

死神「今、おれのツラが見えてるじゃねぇか...

(しんぱいいらねぇ。おまえにはもうおれのじゅつがかかってる。)

心配いらねぇ。お前にはもうおれの術がかかってる。

(いいか、わかったな。まぁ、だまされたとおもってやってみな。)

いいか、わかったな。まぁ、騙されたと思ってやってみな。

(それから、いっておくが、おまえさんがたすけられるびょうにんははちにんまでだ。)

それから、言っておくが、お前さんが助けられる病人は八人までだ。

(そうなんにんもたすけられちゃ、おれたちのしょうばいがあがったりだからな)

そう何人も助けられちゃ、俺達の商売が上がったりだからな」

(...なんで、はちにんなんだよ)

八五郎「...なんで、八人なんだよ」

(むかしからいうじゃないか...しにがはち...と)

死神「昔から言うじゃないか...「四二(死に)が八」...と」

(...いやなしゃれだなぁ、ほんとかよ...)

八五郎「...嫌なシャレだなぁ、ホントかよ...

(まぁ、だめだったって、どうせもともとだけど...)

まぁ、だめだったって、どうせもともとだけど...

(みょうなもんくだなぁ、)

妙な文句だなぁ、

(あじゃらかもくれんきゅーらいそてけれっつのぱ...)

アジャラカモクレン キューライソ テケレッツノパ...

(で、てをかい?...)

で、手を(パン、パンッ)かい? ...

(あれ?しにがみ?...しにがみさん?いなくなっちゃった...)

あれ? 死神? ...死神さん? いなくなっちゃった...

(そうか、おれがまじないをやったから、)

そうか、おれがまじないをやったから、

(いられなくなってきえちまったんだ。)

いられなくなって消えちまったんだ。

(へへっ、こりゃぁ、ことによるとほんものかもしれねぇ。)

へへっ、こりゃァ、ことによると本物かも知れねぇ。

(だめでもともとだ、よしっ、いしゃんなってみよう)

ダメでもともとだ、よしっ、医者ンなってみよう」

(はちごろう、きゅうにげんきんなっちまって、すぐにながやへひっかえすてぇと、)

八五郎、急に元気ンなっちまって、すぐに長屋へ引っ返すてぇと、

(にょうぼうにがみがみいわれながらも、)

女房にガミガミ言われながらも、

(かしのいた...なんてものはございませんから、)

樫の板...なんてものはございませんから、

(かまぼこいたに、かんじなんかかけませんから)

カマボコ板に、漢字なんか書けませんから

(ひらがなでいしやとかいてながやのとぐちにくぎでうちつけた。)

ひら仮名で「いしや」と書いて長屋の戸口に釘で打ち付けた。

(いしゃだかいしやだかわかりゃしません。)

「医者」だか「石屋」だか分かりゃしません。

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