紫式部 源氏物語 夕顔 5 與謝野晶子訳

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問題文

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(それから、あのこれみつのうけもちのごじょうのおんなのいえをさぐるけん、それについてこれみつは)

それから、あの惟光の受け持ちの五条の女の家を探る件、それについて惟光は

(いろいろなざいりょうをえてきた。 「まだだれであるかはわたくしにわからないひとで)

いろいろな材料を得てきた。 「まだだれであるかは私にわからない人で

(ございます。かくれていることのしれないようにとずいぶんくしんするようすです。)

ございます。隠れていることの知れないようにとずいぶん苦心する様子です。

(ひまなものですから、みなみのほうのたかいまどのあるたてもののほうへいって、くるまのおとが)

閑暇なものですから、南のほうの高い窓のある建物のほうへ行って、車の音が

(するとわかいにょうぼうなどはそとをのぞくようですが、そのあるじらしいひともときには)

すると若い女房などは外をのぞくようですが、その主人らしい人も時には

(そちらへいっていることがございます。そのひとは、よくはみませんがずいぶん)

そちらへ行っていることがございます。その人は、よくは見ませんがずいぶん

(びじんらしゅうございます。このあいださきばらいのこえをたてさせてとおるくるまが)

美人らしゅうございます。この間先払いの声を立てさせて通る車が

(ございましたが、それをのぞいてめのわらわがうしろのたてもののほうへきて、)

ございましたが、それをのぞいて女の童が後ろの建物のほうへ来て、

(「うこんさん、はやくのぞいてごらんなさい、ちゅうじょうさんがとおりをいらっしゃいます」)

『右近さん、早くのぞいてごらんなさい、中将さんが通りをいらっしゃいます』

(といいますとそうとうなにょうぼうがでてきまして、「まあしずかになさいよ」と)

と言いますと相当な女房が出て来まして、『まあ静かになさいよ』と

(てでおさえるようにしながら、「まあどうしてそれがわかったの、わたくしがのぞいて)

手でおさえるようにしながら、『まあどうしてそれがわかったの、私がのぞいて

(みましょう」といってまえのいえのほうへいくのですね、ほそいわたりいたが)

見ましょう』と言って前の家のほうへ行くのですね、細い渡り板が

(つうろなんですから、いそいでいくひとはきもののすそをひっかけてたおれたりして、)

通路なんですから、急いで行く人は着物の裾を引っかけて倒れたりして、

(はしからおちそうになって、「まあいやだ」などとおおさわぎで、もうのぞきに)

橋から落ちそうになって、『まあいやだ』などと大騒ぎで、もうのぞきに

(でるきもなくなりそうなんですね。くるまのひとはのうしすがたで、ずいしんたちもおりました。)

出る気もなくなりそうなんですね。車の人は直衣姿で、随身たちもおりました。

(だれだれも、だれだれもとかぞえているなはとうのちゅうじょうのずいしんやしょうねんざむらいのなで)

だれだれも、だれだれもと数えている名は頭中将の随身や少年侍の名で

(ございました」 などといった。)

ございました」 などと言った。

(「たしかにそのくるまのぬしがしりたいものだ」 もしかすればそれはとうのちゅうじょうが)

「確かにその車の主が知りたいものだ」 もしかすればそれは頭中将が

(わすれられないようにはなしたとこなつのうたのおんなではないかとおもったげんじの、)

忘れられないように話した常夏の歌の女ではないかと思った源氏の、

(もすこしよくさぐりたいらしいかおいろをみたこれみつは、 「われわれなかまのこいと)

も少しよく探りたいらしい顔色を見た惟光は、 「われわれ仲間の恋と

など

(みせかけておきまして、じつはそのうえにごしゅじんのいらっしゃることもこちらは)

見せかけておきまして、実はその上に御主人のいらっしゃることもこちらは

(しょうちしているのですが、にょうぼうあいてのあんかなこいのやっこになりすましております。)

承知しているのですが、女房相手の安価な恋の奴になりすましております。

(むこうではじょうずにかくせているとおもいましてわたくしがたずねていってるときなどに、)

向こうでは上手に隠せていると思いまして私が訪ねて行ってる時などに、

(めのわらわなどがうっかりことばをすべらしたりいたしますと、いろいろに)

女の童などがうっかり言葉をすべらしたりいたしますと、いろいろに

(いいまぎらしまして、じぶんたちだけだというふうをつくろうといたします」)

言い紛らしまして、自分たちだけだというふうを作ろうといたします」

(といってわらった。 「おまえのところへあまさんをみまいにいったときに)

と言って笑った。 「おまえの所へ尼さんを見舞いに行った時に

(となりをのぞかせてくれ」 とげんじはいっていた。たとえかりずまいであっても)

隣をのぞかせてくれ」 と源氏は言っていた。たとえ仮住まいであっても

(あのごじょうのいえにいるひとなのだから、しものしなのおんなであろうが、そうしたなかに)

あの五条の家にいる人なのだから、下の品の女であろうが、そうした中に

(おもしろいおんながはっけんできればとおもうのである。げんじのきげんをとろうといっしょけんめいの)

おもしろい女が発見できればと思うのである。源氏の機嫌を取ろうと一所懸命の

(これみつであったし、かれじしんもすきものでほかのれんあいにさえもきょうみをもつほうで)

惟光であったし、彼自身も好色者で他の恋愛にさえも興味を持つほうで

(あったから、いろいろとくしんをしたすえにげんじをとなりのおんなのところへ)

あったから、いろいろと苦心をした末に源氏を隣の女の所へ

(かよわせるようにした。 おんなのだれであるかをぜひしろうともしないとともに、)

通わせるようにした。 女のだれであるかをぜひ知ろうともしないとともに、

(げんじはじしんのなもあらわさずに、おもいきりしっそなふうをしておおくはくるまにも)

源氏は自身の名もあらわさずに、思いきり質素なふうをして多くは車にも

(のらずにかよった。ふかくあいしておらねばできぬことだとこれみつはかいしゃくして、)

乗らずに通った。深く愛しておらねばできぬことだと惟光は解釈して、

(じしんののるうまにげんじをのせて、じしんはとほでともをした。)

自身の乗る馬に源氏を乗せて、自身は徒歩で供をした。

(「わたくしからもうしこみをうけたあすこのおんなはこのていをみたらおどろくでしょう」)

「私から申し込みを受けたあすこの女はこの態を見たら驚くでしょう」

(などとこぼしてみせたりしたが、このほかにはさいしょゆうがおのはなをおりにいった)

などとこぼしてみせたりしたが、このほかには最初夕顔の花を折りに行った

(ずいしんと、それからげんじのめしつかいであるともあまりかおをしられていないこざむらいだけを)

随身と、それから源氏の召使であるともあまり顔を知られていない小侍だけを

(ともにしていった。それからしれることになってはとのきづかいから、となりのいえへ)

供にして行った。それから知れることになってはとの気づかいから、隣の家へ

(よるようなこともしない。おんなのほうでもふしぎでならないきがした。てがみの)

寄るようなこともしない。女のほうでも不思議でならない気がした。手紙の

(つかいがくるとそっとひとをつけてやったり、おとこのよあけのかえりにみちを)

使いが来るとそっと人をつけてやったり、男の夜明けの帰りに道を

(うかがわせたりしても、せんぽうはこころえていてそれらをはぐらかしてしまった。しかも)

窺わせたりしても、先方は心得ていてそれらをはぐらかしてしまった。しかも

(げんじのこころはじゅうぶんにひかれて、いちじてきなかんけいにとどめられるきはしなかった。)

源氏の心は十分に惹かれて、一時的な関係にとどめられる気はしなかった。

(これをふめいよだとおもうじそんしんになやみながらしばしばごじょうがよいをした。)

これを不名誉だと思う自尊心に悩みながらしばしば五条通いをした。

(れんあいもんだいではまじめなひともかしつをしがちなものであるが、このひとだけはこれまで)

恋愛問題ではまじめな人も過失をしがちなものであるが、この人だけはこれまで

(おんなのことでせけんのひなんをまねくようなことをしなかったのに、ゆうがおのはなに)

女のことで世間の批難を招くようなことをしなかったのに、夕顔の花に

(けいとうしてしまったこころだけはべつだった。わかれゆくあいだもひるのあいだもそのひとをかたわらに)

傾倒してしまった心だけは別だった。別れ行く間も昼の間もその人をかたわらに

(みがたいくつうをつよくかんじた。げんじはじしんで、きちがいじみたことだ、)

見がたい苦痛を強く感じた。源氏は自身で、気違いじみたことだ、

(それほどのかちがどこにあるこいびとかなどとはんせいもしてみるのである。おどろくほど)

それほどの価値がどこにある恋人かなどと反省もしてみるのである。驚くほど

(やわらかでおおようなせいしつで、ふかみのあるようなひとでもない。わかわかしいいっぽうの)

柔らかでおおような性質で、深味のあるような人でもない。若々しい一方の

(おんなであるが、おとめであったわけでもない。きふじんではないようである。どこが)

女であるが、処女であったわけでもない。貴婦人ではないようである。どこが

(そんなにじぶんをひきつけるのであろうとふしぎでならなかった。わざわざへいぜいの)

そんなに自分を惹きつけるのであろうと不思議でならなかった。わざわざ平生の

(げんじにようのないかりぎぬなどをきてへんそうしたげんじはかおなどもぜんぜんみせない。)

源氏に用のない狩衣などを着て変装した源氏は顔なども全然見せない。

(ずっとふけてから、ひとのねしずまったあとでいったり、よるのうちにかえったり)

ずっと更けてから、人の寝静まったあとで行ったり、夜のうちに帰ったり

(するのであるから、おんなのほうではむかしのみわのかみのはなしのようなきがしてきみわるく)

するのであるから、女のほうでは昔の三輪の神の話のような気がして気味悪く

(おもわれないではなかった。しかしどんなひとであるかはてのしょっかくからでも)

思われないではなかった。しかしどんな人であるかは手の触覚からでも

(わかるものであるから、わかいみやびおいがいなものにげんじをかんさつしていない。)

わかるものであるから、若い風流男以外な者に源氏を観察していない。

(やはりこうしょくなとなりのごいがみちびいてきたひとにちがいないとこれみつをうたがっているが、)

やはり好色な隣の五位が導いて来た人に違いないと惟光を疑っているが、

(そのひとはまったくきがつかぬふうであいかわらずにょうぼうのところへてがみをおくってきたり、)

その人はまったく気がつかぬふうで相変わらず女房の所へ手紙を送って来たり、

(たずねてきたりするので、どうしたことかとおんなのほうでもふつうのこいのものおもいとは)

訪ねて来たりするので、どうしたことかと女のほうでも普通の恋の物思いとは

(ちがったはんもんをしていた。げんじもこんなにしんじつをかくしつづければ、じぶんも)

違った煩悶をしていた。源氏もこんなに真実を隠し続ければ、自分も

(おんなのだれであるかをしりようがない、いまのいえがかりのすまいであることは)

女のだれであるかを知りようがない、今の家が仮の住居であることは

(まちがいのないことらしいから、どこかへうつっていってしまったときに、じぶんは)

間違いのないことらしいから、どこかへ移って行ってしまった時に、自分は

(ぼうぜんとするばかりであろう。ゆくえをうしなってもあきらめがすぐつくものなら)

呆然とするばかりであろう。行くえを失ってもあきらめがすぐつくものなら

(よいが、それはだんぜんふかのうである。せけんをはばかってまをあけるよるなどは)

よいが、それは断然不可能である。世間をはばかって間を空ける夜などは

(たえられないくつうをおぼえるのだとげんじはおもって、せけんへはだれともしらせないで)

堪えられない苦痛を覚えるのだと源氏は思って、世間へはだれとも知らせないで

(にじょうのいんへむかえよう、それをわるくいわれてもじぶんはそうなるぜんしょうのいんねんだと)

二条の院へ迎えよう、それを悪く言われても自分はそうなる前生の因縁だと

(おもうほかはない、じぶんながらもこれほどおんなにこころをひかれたけいけんが)

思うほかはない、自分ながらもこれほど女に心を惹かれた経験が

(かこにないことをおもうと、どうしてもやくそくごととかいしゃくするのがしとうである、)

過去にないことを思うと、どうしても約束事と解釈するのが至当である、

(こんなふうにげんじはおもって、 「あなたもそのきにおなりなさい。)

こんなふうに源氏は思って、 「あなたもその気におなりなさい。

(わたくしはきらくないえへあなたをつれていってふうふせいかつがしたい」こんなことを)

私は気楽な家へあなたをつれて行って夫婦生活がしたい」こんなことを

(おんなにいいだした。 「でもまだあなたはわたくしをふつうにはとりあつかって)

女に言い出した。 「でもまだあなたは私を普通には取り扱って

(いらっしゃらないかたなんですからふあんで」 わかわかしくゆうがおがいう。)

いらっしゃらない方なんですから不安で」 若々しく夕顔が言う。

(げんじはびしょうされた。 「そう、どちらかがきつねなんだろうね。でもだまされて)

源氏は微笑された。 「そう、どちらかが狐なんだろうね。でも欺されて

(いらっしゃればいいじゃない」 なつかしいふうにげんじがいうと、おんなはそのきに)

いらっしゃればいいじゃない」 なつかしいふうに源氏が言うと、女はその気に

(なっていく。どんなけってんがあるにしても、これほどじゅんなおんなをあいせずには)

なっていく。どんな欠点があるにしても、これほど純な女を愛せずには

(いられないではないかとおもったとき、げんじははじめからそのうたがいをもっていたが、)

いられないではないかと思った時、源氏は初めからその疑いを持っていたが、

(とうのちゅうじょうのとこなつのおんなはいよいよこのひとらしいというかんがえがうかんだ。しかし)

頭中将の常夏の女はいよいよこの人らしいという考えが浮かんだ。しかし

(かくしているのはわけのあることであろうからとおもって、しいてきくきには)

隠しているのはわけのあることであろうからと思って、しいて聞く気には

(なれなかった。かんじょうをがいしたときなどにとつぜんそむいていってしまうようなせいかくは)

なれなかった。感情を害した時などに突然そむいて行ってしまうような性格は

(なさそうである。じぶんがとだえがちになったりしたときには、あるいは)

なさそうである。自分が途絶えがちになったりした時には、あるいは

(そんなたいどにでるかもしれぬが、じぶんながらすこしいまのじょうねつがかんわされたときに)

そんな態度に出るかもしれぬが、自分ながら少し今の情熱が緩和された時に

(かえっておんなのよさがわかるのではないかと、それをのぞんでもできないのだから)

かえって女のよさがわかるのではないかと、それを望んでもできないのだから

(とだえのおこってくるわけはない、したがっておんなのきもちをふあんにおもうひつようは)

途絶えの起こってくるわけはない、したがって女の気持ちを不安に思う必要は

(ないのだとしっていた。)

ないのだと知っていた。

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