紫式部 源氏物語 夕顔 10 與謝野晶子訳

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(じゅうじすぎにすこしねいったげんじはまくらのところにうつくしいおんながすわっているのをみた。)

十時過ぎに少し寝入った源氏は枕の所に美しい女がすわっているのを見た。

(「わたくしがどんなにあなたをあいしているかしれないのに、わたくしをあいさないで、)

「私がどんなにあなたを愛しているかしれないのに、私を愛さないで、

(こんなへいぼんなひとをつれていらっしってあいぶなさるのはあまりにひどい。)

こんな平凡な人をつれていらっしって愛撫なさるのはあまりにひどい。

(うらめしいかた」 といってよこにいるおんなにてをかけておこそうとする。)

恨めしい方」 と言って横にいる女に手をかけて起こそうとする。

(こんなこうけいをみた。くるしいおそわれたきもちになって、すぐおきると、そのときに)

こんな光景を見た。苦しい襲われた気持ちになって、すぐ起きると、その時に

(ひがきえた。ぶきみなので、たちをひきぬいてまくらもとにおいて、それから)

灯が消えた。不気味なので、太刀を引き抜いて枕もとに置いて、それから

(うこんをおこした。うこんもおそろしくてならぬというふうでちかくへでてきた。)

右近を起こした。右近も恐ろしくてならぬというふうで近くへ出て来た。

(「わたどのにいるとのいのひとをおこして、ろうそくをつけてくるようにいうがいい」)

「渡殿にいる宿直の人を起こして、蝋燭をつけて来るように言うがいい」

(「どうしてそんなところへまでまいれるものでございますか、くろうて」)

「どうしてそんな所へまで参れるものでございますか、暗うて」

(「こどもらしいじゃないか」 わらってげんじがてをたたくとそれがはんきょうになった。)

「子供らしいじゃないか」 笑って源氏が手をたたくとそれが反響になった。

(かぎりないきみわるさである。しかもそのおとをききつけてくるものはだれもない。)

限りない気味悪さである。しかもその音を聞きつけて来る者はだれもない。

(ゆうがおはひじょうにこわがってふるえていて、どうすればいいだろうと)

夕顔は非常にこわがってふるえていて、どうすればいいだろうと

(おもうふうである。あせをずっぷりとかいて、いしきのありなしもうたがわしい。)

思うふうである。汗をずっぷりとかいて、意識のありなしも疑わしい。

(「ひじょうにものおそれをなさいますごせいしつですから、どんなおきもちが)

「非常に物恐れをなさいます御性質ですから、どんなお気持ちが

(なさるのでございましょうか」 とうこんもいった。よわよわしいひとできょうのひるまも)

なさるのでございましょうか」 と右近も言った。弱々しい人で今日の昼間も

(へやのなかをみまわすことができずにそらばかりながめていたのであるからと)

部屋の中を見まわすことができずに空ばかりながめていたのであるからと

(おもうと、げんじはかわいそうでならなかった。 「わたくしがいってひとをおこそう。)

思うと、源氏はかわいそうでならなかった。 「私が行って人を起こそう。

(てをたたくとやまびこがしてうるさくてならない。しばらくのあいだここへ)

手をたたくと山彦がしてうるさくてならない。しばらくの間ここへ

(よっていてくれ」 といって、うこんをねどこのほうへひきよせておいて、)

寄っていてくれ」 と言って、右近を寝床のほうへ引き寄せておいて、

(りょうがわのつまどのくちへでて、とをおしあけたのとどうじにわたどのについていたひも)

両側の妻戸の口へ出て、戸を押しあけたのと同時に渡殿についていた灯も

など

(きえた。かぜがすこしふいている。こんなよるにじしゃはすくなくて、しかもありたけの)

消えた。風が少し吹いている。こんな夜に侍者は少なくて、しかもありたけの

(ひとはねてしまっていた。いんのあずかりやくのむすこで、へいぜいげんじがてもとでつかっていた)

人は寝てしまっていた。院の預かり役の息子で、平生源氏が手もとで使っていた

(わかいおとこ、それからじどうがひとり、れいのずいしん、それだけがとのいをしていたのである。)

若い男、それから侍童が一人、例の随身、それだけが宿直をしていたのである。

(げんじがよぶとへんじをしておきてきた。 「ろうそくをつけてまいれ。ずいしんに)

源氏が呼ぶと返辞をして起きて来た。 「蝋燭をつけて参れ。随身に

(ゆみのつるうちをしてたえずこえをだしてましょうにそなえるようにめいじてくれ。)

弓の弦打ちをして絶えず声を出して魔性に備えるように命じてくれ。

(こんなさびしいところであんしんをしてねていいわけはない。せんこくこれみつがきたと)

こんな寂しい所で安心をして寝ていいわけはない。先刻惟光が来たと

(いっていたが、どうしたか」 「まいっておりましたが、ごようじもないから、)

言っていたが、どうしたか」 「参っておりましたが、御用事もないから、

(よあけにおむかえにまいるともうしてかえりましてございます」 こうげんじと)

夜明けにお迎えに参ると申して帰りましてございます」 こう源氏と

(もんどうをしたのは、ごしょのたきぐちにつとめているおとこであったから、)

問答をしたのは、御所の滝口に勤めている男であったから、

(せんもんかてきにゆづるをならして、 「ひあぶなし、ひあぶなし」)

専門家的に弓絃を鳴らして、 「火危し、火危し」

(といいながら、ちちであるあずかりやくのすまいのほうへいった。げんじはこのじこくの)

と言いながら、父である預かり役の住居のほうへ行った。源氏はこの時刻の

(ごしょをおもった。てんじょうのとのいやくにんがせいめいをそうじょうするなだいめんは)

御所を思った。殿上の宿直役人が姓名を奏上する名体面は

(もうおわっているだろう、たきぐちのぶしのとのいのそうじょうがあるころであると、)

もう終わっているだろう、滝口の武士の宿直の奏上があるころであると、

(こんなことをおもったところをみると、まだそうしんこうでもなかったにちがいない。)

こんなことを思ったところをみると、まだそう深更でもなかったに違いない。

(しんしつへかえって、くらがりのなかをてでさぐるとゆうがおはもとのままのすがたでねていて、)

寝室へ帰って、暗がりの中を手で探ると夕顔はもとのままの姿で寝ていて、

(うこんがそのそばでうつぶせになっていた。 )

右近がそのそばでうつ伏せになっていた。

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