紫式部 源氏物語 夕顔 19 與謝野晶子訳

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(げんじはゆうがおのしじゅうくにちのほうようをそっとえいざんのほっけどうでおこなわせることにした。)

源氏は夕顔の四十九日の法要をそっと叡山の法華堂で行わせることにした。

(それはかなりたいそうなもので、じょうりゅうのいえのほうえとしてあるべきものはみな)

それはかなり大層なもので、上流の家の法会としてあるべきものは皆

(よういさせたのである。てらへおさめるこじんのふくもしんちょうしたしきしんのものも)

用意させたのである。寺へ納める故人の服も新調したし寄進のものも

(おおきかった。しょしゃのきょうかんにも、あたらしいぶつぞうのそうしょくにもひようは)

大きかった。書写の経巻にも、新しい仏像の装飾にも費用は

(おしまれてなかった。これみつのあにのあじゃりはじんかくしゃだといわれているそうで、)

惜しまれてなかった。惟光の兄の阿闍梨は人格者だといわれている僧で、

(そのひとがみなひきうけてしたのである。げんじのしぶんのしをしているしたしい)

その人が皆引き受けてしたのである。源氏の詩文の師をしている親しい

(ぼうもんじょうはかせをよんでげんじはこじんをほとけにたのむがんもんをかかせた。ふつうのれいとちがって)

某文章博士を呼んで源氏は故人を仏に頼む願文を書かせた。普通の例と違って

(こじんのなはあらわさずに、しんだあいじんをあみだぶつにおたくしするといういみを、)

故人の名は現わさずに、死んだ愛人を阿弥陀仏にお託しするという意味を、

(あいのこもったぶんしょうでしたがきをしてげんじはみせた。 「このままでけっこうで)

愛のこもった文章で下書きをして源氏は見せた。 「このままで結構で

(ございます。これにふでをいれるところはございません」 はかせはこういった。)

ございます。これに筆を入れるところはございません」 博士はこう言った。

(げきじょうはおさえているがやはりげんじのめからはなみだがこぼれおちてこらえがたいように)

激情はおさえているがやはり源氏の目からは涙がこぼれ落ちて堪えがたいように

(みえた。そのはかせは、 「なんというひとなのだろう、そんなかたのおなくなりに)

見えた。その博士は、 「何という人なのだろう、そんな方のお亡くなりに

(なったことなどはなしもきかないほどのひとだのに、げんじのきみがあんなに)

なったことなど話も聞かないほどの人だのに、源氏の君があんなに

(かなしまれるほどあいされていたひとというのはよほどうんのいいひとだ」)

悲しまれるほど愛されていた人というのはよほど運のいい人だ」

(とのちにいった。つくらせたこじんのいしょうをげんじはとりよせて、はかまのこしに、 )

とのちに言った。作らせた故人の衣裳を源氏は取り寄せて、袴の腰に、

(なくなくもきょうはわがゆうしたひもをいづれのよにかとけてみるべき )

泣く泣くも今日はわが結ふ下紐をいづれの世にか解けて見るべき

(とかいた。しじゅうくにちのあいだはなおこのせかいにさまよっているというれいこんは、)

と書いた。四十九日の間はなおこの世界にさまよっているという霊魂は、

(しはいしゃによってみらいのどのみちへおもむかせられるのであろうと、こんなことを)

支配者によって未来のどの道へ赴かせられるのであろうと、こんなことを

(いろいろとそうぞうしながらはんにゃしんぎょうのしょうくをとなえることばかりをげんじはしていた。)

いろいろと想像しながら般若心経の章句を唱えることばかりを源氏はしていた。

(とうのちゅうじょうにあうといつもむなさわぎがして、あのこじんがなでしこにたとえたというこどもの)

頭中将に逢うといつも胸騒ぎがして、あの故人が撫子にたとえたという子供の

など

(ちかごろのようすなどをしらせてやりたくおもったが、こいびとをしなせたうらみをきくのが)

近ごろの様子などを知らせてやりたく思ったが、恋人を死なせた恨みを聞くのが

(つらくてうちいでにくかった。 あのごじょうのいえではおんなあるじのゆくえが)

つらくてうちいでにくかった。 あの五条の家では女主人の行くえが

(しれないのをさがすほうほうもなかった。うこんまでもそれきりたよりをしてこないことを)

知れないのを捜す方法もなかった。右近までもそれきり便りをして来ないことを

(ふしぎにおもいながらたえずしんぱいをしていた。たしかなことではないが)

不思議に思いながら絶えず心配をしていた。確かなことではないが

(かよってくるひとはげんじのきみではないかといわれていたことから、これみつになんらかの)

通って来る人は源氏の君ではないかといわれていたことから、惟光になんらかの

(しょうそくをえようともしたが、まったくしらぬふうで、つづいていまもにょうぼうのところへこいの)

消息を得ようともしたが、まったく知らぬふうで、続いて今も女房の所へ恋の

(てがみがおくられるのであったから、ひとびとはぜつぼうをかんじて、あるじをうばわれたことを)

手紙が送られるのであったから、人々は絶望を感じて、主人を奪われたことを

(ゆめのようにばかりおもった。あるいはちほうかんのむすこなどのすきものが、とうのちゅうじょうを)

夢のようにばかり思った。あるいは地方官の息子などの好色男が、頭中将を

(おそれて、みのうえをかくしたままでちちのにんちへでもともなって)

恐れて、身の上を隠したままで父の任地へでも伴って

(いってしまったのではないかとついにはこんなそうぞうをするようになった。)

行ってしまったのではないかとついにはこんな想像をするようになった。

(このいえのもちぬしはにしのきょうのめのとのむすめだった。めのとのむすめはさんにんで、うこんだけが)

この家の持ち主は西の京の乳母の娘だった。乳母の娘は三人で、右近だけが

(たにんであったからたよりをきかせるしんせつがないのだとうらんで、そしてみなふじんを)

他人であったから便りを聞かせる親切がないのだと恨んで、そして皆夫人を

(こいしがった。うこんのほうではふじんをとんしさせたせきにんしゃのようにいわれるのを)

恋しがった。右近のほうでは夫人を頓死させた責任者のように言われるのを

(つらくもおもっていたし、げんじもいまになってこじんのじょうじんがじぶんであったひみつを)

つらくも思っていたし、源氏も今になって故人の情人が自分であった秘密を

(ひとにしらせたくないとおもうふうであったから、そんなことでちいさいおじょうさんの)

人に知らせたくないと思うふうであったから、そんなことで小さいお嬢さんの

(しょうそくもきけないままになってふほんいなつきひがりょうほうのあいだにたっていった。)

消息も聞けないままになって不本意な月日が両方の間にたっていった。

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